例えば”ロック名盤100選”の様な本があったとしたら、ビートルズのサージェント・ペパーズと並んで、必ず最初の方に載っているアルバム。日本では、山下達郎氏、評論家の萩原健太氏などによって、専門誌・ラジオ等の媒体で評価されることによって、認知度が上がりました。しかしながらこのアルバム、洋楽に割と精通している人でも、”「Pet Sounds」は理解できない”、という人が結構います。萩原さんが以前、専門誌で以下の様な趣旨の事を書かれていました。「このアルバムはロックとは言えないかもしれない、これはG・ガーシュインやL・バーンスタインといった音楽家達の流れを汲んだ、当時におけるブライアンなりのアメリカ音楽の集大成の様なものではないか」とても的を得た評価だと思います。ロックのカテゴリーに収まりきるものでは
ないからこそ、ロックファンには受け付けない人がいるのかもしれません。それでも当アルバムに対する評価は先のお二人をはじめ、その他のミュージシャン・ライター達の”啓蒙活動”によってか、日本でも名盤と評されることが揺るぎないものとなりました。達郎さんなどは、あまりにもその評価ばかりが一人歩きした為か、
以前ラジオにて次の様な事を仰っていました。「日本じゃビーチボーイズって言えば、ペットサウンズ、ペットサウンズってばかり言われますけどね、彼らはそれだけじゃないんですよ!…………まっ、私もその片棒担いでいる一人なんであまり言えませんけど………」
自覚あるんじゃん……達郎さん………(´・ω・`)
このアルバムを音楽的に分析・解説しているサイトは山のようにあるので、私が今更、四の五のそれについて語るのは控えます。また音を文章で語るのは、難しく、時として野暮になってしまうことがあります。…… と、これだけ伏線張っとけば十分でしょうか?音を文章で語りますね(´・ω・`) 「Pet Sounds」を形容するなら、”脆く、儚く、絶望的なまでの美しさに満ち溢れたアルバム” とでも言いましょうか。達郎さんはライナーノーツにて” 浮遊感 ”という言葉を使われていました。実に言い得て妙な表現だと思います。
このアルバムは、それまでの”ビーチボーイズ=サーフィン・車・女の子”といったイメージとかけ離れていたため、レコード会社側が難色を示しました。実際、本国では当初、セールス的にもそれまでと比べて振るわなかったようです。しかし面白いことに海を渡ったイギリスにおいては、好意的な評価を得て、特に同業者達には衝撃を与えた様です。ビートルズ(特にポール)はこれに大いにインスパイアされ、サージェント・ペパーズの制作へと向かい、ミック・ジャガーは、ロンドン中の知り合いのDJ達に、このアルバムをかけろ、と言って回ったとか。36分余りに渡るこの夢の様な音楽は、エンディング「Caroline, No 」の後、列車の通過音、それに続く犬の鳴き声にて、唐突に終わります。まるでブライアンに、「おまいら、ショーはこれにて閉幕だ、とっとと現実に戻れよ」と突き放されているかの如く。我々は夢から覚めるのを余儀なくされます。
周囲から思った程の評価を得られず、更に心身の状態が悪化したこと等から、次作「Smile」は”世界一有名な未完のアルバム”となってしまいました。片や海の向こうでは、ビートルズがサージェント・ペパーズを発表し、”ロックを芸術の域まで高めた画期的アルバム”の様な称賛を浴びます。これ以降、ブライアンは隠遁生活に陥り始めるようになり、80年代後半まで積極的な活動は徐々になくなっていきます。
一時期は廃人同様となり、ウィルソン三兄弟では一番初めにダメになるかと思われましたが、皮肉なもので、弟のデニス、カールが先に亡くなり、ブライアンが最後まで残りました。
88年、1stソロアルバム「Brian Wilson」でカムバックを果たし、04年、先述の「Smile」が日の目を見ることとなり、ブライアンは今日も音楽活動を続けています。ポール・マッカートニーと並び、ポップミュージック界における現役最古参の一人です。御年74歳、一日でも長く活動を続けて欲しい、というのが世界中のファンの願いであることは間違いありません。
最後に、このアルバムを拙い語彙力にて、美辞麗句を並べ立ててお薦めしようと試みましたが、無理そうなのでシンプルに締めたいと思います。素晴らしいアルバムです。是非聴いてみてください。