#240 Captain Fantastic and the Brown Dirt Cowboy

「成功と破滅は表裏一体であり、互いを内包する概念である」こないだ近所の小学生が言ってました。
全ての成功者が破滅の道を歩むなどという事は無論ありませんが、ことショービジネスの世界においては
結構当てはまる人が多いのもまた事実です。

エルトン・ジョンが75年に発表したアルバム「Captain Fantastic and the Brown Dirt Cowboy」は
米ビルボードにおいて史上始めて初登場1位となった作品です。この辺りからも当時における
エルトンの人気っぷりが伺えるでしょう。
タイトル曲はエルトンお得意のカントリーテイスト。勿論作詞家 バーニー・トーピンが西部開拓期マニアで
あったのも既述の事。しかしただのカントリー&ウェスタンに終始していないのは一聴瞭然。

本作はアルバム全体がストーリーに沿って構成され楽曲が収録されている所謂トータルコンセプトアルバム
です。都会っ子であるキャプテン・ファンタスティックと田舎育ちでわんぱくなブラウン・ダート・
カウボーイが出会い、チームを組んで成功を夢見るというのがタイトル曲の内容であり、つまり
エルトンとバーニーを歌っているわけです。
しかし当然ながらすぐには上手くいかず、それでも前に向かって進まなければならない、というのが
A-②「Tower of Babel」とA-③「Bitter Fingers」。

本作の録音は前年である74年の夏とされています。この時期は前回のテーマであったジョン・レノンとの
共演やコンサートツアー、翌75年は引き続いてのツアーに加えて映画「トミー」への出演及び同サントラ内に
収録された「ピンボールの魔術師」の制作、そして本作のプロモーションは勿論の事、10月にはL.A.の
ドジャースタジアムにおいて『エルトン・ジョン・ウィーク』と題された7日間に渡る大規模公演を催し、
それはのべ10万人を動員しました。
A-④「Tell Me When the Whistle Blows」はソウルテイストとよく評されます。たしかに間違い
ありませんし私もそう思いますが、さらにジョンの、特に「ウォールズ・アンド・ブリッジ」辺りの作風に
影響を受けたのかな?と感じます。
A-⑤「Someone Saved My Life Tonight」は唯一のシングルカット曲(米4位・英22位)。
本曲の邦題が誤訳であるのはよく語られる事。興味のある方はググれカ ………… 検索してね ♪

B-①「Meal Ticket」はサイドが変わって一変して力強いロックチューン。どん底ではあるが何とか契約をもぎ取ろうという前向きな内容。
B-②「Better Off Dead」の邦題は「僕に迫る自殺の誘惑」ですが、歌詞はそこまで悲惨ではないらしいです。

世界はエルトンを中心に回っているのではないか?と言えるほどの成功振りですが、実はエルトンはこの時期
最悪の状態にありました。数度に渡る自殺未遂、アルコールと過食、そして無理なダイエットと
そのリバウンド、それによる胃腸障害などの身体的不調がさらに精神障害に拍車を掛け負の連鎖へと
陥っていきました。
それはバーニーも同じで彼はアルコールに加えて重篤なドラッグ中毒に苦しみました。
極端な環境の変化が心身に良からぬ影響を与えるのは古今東西を問わない様です。
付け加えるとバーニーはこの時期離婚しています。相手は「Tiny Dancer」のモデルであった
マキシン・フェイベルマンです(#215ご参照)。
B-③「Writing」は一転してポップで親しみやすいナンバー。エルトンの実家で創作にふけっていた頃を
歌ったようです。二段ベッドで上のバーニーが歌詞を書き終えると下のエルトンにそれを渡し、すぐさま
ピアノで曲創りに取り掛かる。金は無いがひたむきだったあの頃を回想して。

アルバムの最後を飾る「We All Fall in Love Sometimes」と「Curtains」はメドレーです。
前者は物悲しい楽曲。タイトルの恋に落ちる、ですがその ” 恋 ” の対象は異性というより
命を懸けて成し遂げようとするもの、つまり彼らの場合は音楽活動・創作活動を表しているのでは?
エルトンとバーニーに恋愛関係があったかどうかは諸説ありますが、それをあれこれ推測しても
ナンセンスなのでしません。恋愛感情があったのか、それとも人間として友としての愛情だったのか、
どちらにしてバーニーが特別な存在であった事に間違いはありません。無論バーニーにとっての
エルトンもまた然り。
後者は成功を収めた今、昔を振り返り、思い出に浸りながら幕を閉じる、という内容です。

人が昔を振り返るというのは、良かれ悪かれ一段落・一区切りついた時でしょう。
「Goodbye Yellow Brick Road」で都会の冷たいレンガ舗道(ショービズの世界)へ一旦は
別れを告げましたが(#236ご参照)、本作は7年余りに渡ってコンビを組み、ポップス界の
メインストリームへと躍り出てやみくもに突き進んできた二人が、一度袂を分かつという決意の
表れだったのではないでしょうか。もっともこの作品で共作をやめるといったわけではなく、
あくまで精神的スタンスの意味合いで。
仕事上のパートナーシップはその後数年、何枚かのアルバムにおいてまだ続くのですが、
仕事以外で会う機会は減っていったと言われています。

75年の暮れにはエルトンの心身は限界に達し、医者の勧めから四ヶ月の休養を取る事になります。

#239 Whatever Gets You thru the Night

物事(人に会う事を含めて)全てについて、これが最後かもしれないと思ってそれに臨む。
50歳を過ぎるとこれが現実味を増してきて、日々そういう心持で生きようなどと心がけています。
” 一期一会 ” の精神で、とこれを例えた事があったのですが、よく考えたらこの四文字熟語は
” 一生に一度 ” という意味なので適当な表現ではありません。では先述の様な心持を言い表す熟語は?
と思い調べてみたのですが・・・
国語力の無さからなのか … いまだにわかりません・・・・・
ニホンゴムツズカシ~ (゚∠ ゚ )ノ

ジョン・レノンによる74年のNo.1ヒット「Whatever Gets You thru the Night
(真夜中を突っ走れ)」にエルトン・ジョンが参加している事は洋楽好きなら周知の話。
ジョンがアルバム「Walls and Bridges」(74年)を製作していたその前年9月にエルトンは
スタジオを訪ねました。当初ピアノは入ってなかったらしく、エルトンはそれを進言します。
ジョンがそのアイデアを受け入れ、さらにデュエットもする運びとなりました。
これも有名な話ですが、ジョンは本曲が売れるとは考えず ” 100万年かかってもこの曲が1位に
なることはあり得ないね!”と言い放ちますがそれに対してエルトンは ” じゃあ、もし1位になったら
僕のライブに出てよ!” と、ちょっとした賭けをしました。
結果は言うまでもありません。ジョンはその賭けの約束を果たします。それが有名な74年11月28日の
マディソンスクエアガーデンにおけるコンサートであり、ジョンの生前最後となるステージでした。

その唯一の映像であるのがエルトン公式チャンネルにある上の動画。検索すると下の動画も出てきますが、
音は本物でしょうが映像が妙に出来過ぎているな?・・・と調べたら、これはジョンの伝記映画における
ワンシーンの様です。

当日は本曲を含め計三曲デュエットします。あまりにも有名ですが一応念のため、「Lucy in the Sky with Diamonds」と「I Saw Her Standing There」です。後者を歌う前に ” これから歌うのは、
ぼくが昔に捨てられた婚約者ポールのナンバーです ” とジョンが言ったのも洋楽好きには周知の出来事。
実は一旦引っ込んだジョンがアンコールで再びステージに戻ってきて「The bitch is back」を
演奏している時に、作詞家 バーニー・トーピンと二人でタンバリンを叩いた、というエピソードも
あります。
ジョンとエルトンは73年に知り合い、その後良き ” 悪友 ” となっていったそうです。二人による
羽目の外し振りについては様々なエピソードがありますが長くなるのでここでは割愛します。

あの日マディソンスクエアガーデンにいた聴衆は勿論のこと、エルトンやバンドメンバー達、
そしてジョン本人に至ってもこれが最後のステージになるなどとは思ってもいなかったでしょう。
その後ショーンが生まれて育児に専念したという経緯があったのは勿論ですが、実はジョンはかなり
ステージに上がる事に対して恐怖心を抱くようになっていたとの証言もあり、なおさらその後に
コンサートを行う機会を無くした要因になっていたのかもしれません。
もっとも80年のカムバックの際は当然アルバムのプロモーションツアーを行う予定であったでしょうから、
いまさらながら早すぎる死が悔やまれるところです。

結局の所 ” これが最後かもしれない ” の意を表す四文字熟語はわかりませんでした(元々無いのかも)…
ただ、これを英語で言えば ” May be the last(one)” となるので、常に ” メイビー・ザ・ラスト ” の
精神で物事に臨んでいます、などと言うとちょっとカッコイイかもしれませんね。
みなさんも明日から使ってみてください。それで年末に流行語大賞とかいうのにノミネートされたりして。
あっ!でもあれって、ホントに流行ったものは選ばれないんですよね …(コンコン)おや?誰か来