日本にはドラムにおいて、世界に誇る三大メーカーがあります。パール、ヤマハ、そしてスチュワート・コープランドも使用しているタマ(TAMA)です。偉大なるジャズドラマー エルビン・ジョーンズ、超絶テクニックを誇るビリー・コブハムといったジャズフュージョンのプレイヤーから、#20~21で取り上げたビル・ブラッフォード、サイモン・フィリップスといった世界のトップドラマー達が愛用していました。

当時のTAMAドラムにおけるプロフェッショナルモデルのラインアップは、メイプル材(カエデ・楓)のアートスター、バーチ材(カバ・樺)のスーパースター、そしてマホガニー材のインペリアルスターがあったと記憶しています。コープランドはインペリアルスターを使用していると当時のドラムマガジンには記載されています。ドラムの材としてはメイプルとバーチが圧倒的に多く、ギターではお馴染みであれども、マホガニーを使用したドラムは珍しかったと思います。メイプル・バーチが好まれるのは勿論その鳴りの良さがあるのですが、非常に強度に富んでいるという理由もあります(ただしその分重い)。マホガニー材はそれらに比べると軽く、加工もし易い、ただしその分強度では劣ります。その為、メイプル・バーチなどは6プライ、6枚の張り合わせ合板を使用してドラムを製作するのが一般的ですが、インペリアルスターは9プライと厚めに作られていました。
一般的に硬い木材は硬い音、柔らかい材は柔らかい音がすると言われています。私はこの説に必ずしも同意は出来ないのですが、セオリーとしては信じても良いかと思います。コープランドのチューニング(ドラムヘッドの締め具合等)はロックドラマーとしては高めで、ジャズドラムに近いものです。そのためズドンと腹に響く様な重低音ではなく、明るめのスコーンと抜けるような音色でした。ハイピッチでありながらも硬すぎないトーンを、という意図からのマホガニー材の選択だったのかもしれません。
TAMAは独創的なドラムを生み出してきました、その一つがオクタバンです。現在でも生産されている製品で、6インチの小口径でありながら長い胴を持つ(確かアルミ製)のドラムです。 ”オクタ” というのは「8」を表しており、つまりドレミファソラシドの音階を作れるという事。しかしコープランドは8個全部は使わず、上の右写真がわかりやすいかと思いますが、昔から4つ程のみ使用してきました。あくまで、ドラムでメロディを奏でるというよりは、パーカッション的な使い方をしてきた様です。
またスプラッシュシンバルを多用するドラマーでありました。シンバルは主にリズムを刻むライドシンバル、曲展開の節目にアクセントを付けるクラッシュシンバルがあります。クラッシュは16~18インチで、”シャーン” といった、サスティーンのある響きですが、スプラッシュは8~12インチと小口径で、”シャッ” ”パシャッ” といったサスティーンが殆どないクラッシュ音のシンバルです。やはり上の写真で確認できますが、スプラッシュをはじめ、複数のシンバルをセッティングしており、場面場面でのチョイスが非常に絶妙です。ユーチューブで「Synchronicity Concert」と検索するとほぼコンサートの全容を観る事が出来、そのプレイを視覚で確認可能です。もし興味があれば。あっ!勿論お金に余裕がある人は買ってください、別に私はA&M(現ユニバーサルミュージック)の回し者ではないですけどね・・・
ドラムにディレイをかけたのも私が知る限りではコープランドが初めてだと思います。勿論アンディ・サマーズがいたからこそ、その様な手法を取るに至ったのでしょうが、それにしてもその斬新さが見事です。80年代以降、ギターでは当たり前に行われる事となりましたが、ディレイタイムをきっちり合わせて、リズムを作り出したドラムは上の「Walking on the Moon」が最初ではないでしょうか。5、6か所で聴くことが出来ますが、特に印象的なのが3:20秒辺りのハイハットと、4:20辺りのスネアによるリムショット。ディレイ音を加えて2拍3連(正確には ”裏の2拍3連” )のビートを作り出しています。
現在で言う所の ”スリップビート” を取り入れたのもコープランド(=ポリス)が最初だったと思います。ポリス回でも述べましたが、いきなり1拍目が抜けて始まるので、ただでさえリズムが取りづらいのですが、上の「Spirits in the Material World」はその極地と言える曲です。普通に聴くとシンセとハイハットの刻みが四分音符で、ベースドラムが裏拍と錯覚してしまいますが、実はシンセとハイハットが裏拍で、ベードラはオンビート(多分2・4拍)。サビに移る時に変拍子かと思い込んでしまう程にトリッキーなリズム構成です(ひょっとしたら変拍子なのかもしれません、実はいまだによく理解出来ていません…)。
ポリス以外のセッションワークから一曲。ピーター・ガブリエルによる86年の大ヒット作「So」。本作ではコープランド以外に、ジェリー・マロッタ、フランス人黒人ドラマー マヌ・カチェが参加しています。オープニングナンバーである「Red Rain」は、ハイハットがコープランド、生ドラムがマヌ・カチェ、その他に打ち込みのドラムと非常に凝ったものです。冒頭のハイハットがまさにコープランドの真骨頂という音色・フレーズです。コープランドによるセットドラムでのプレイはシングルヒットした「Big Time」で聴く事が出来ます、興味があればご一聴を。
コープランドの話しからは少し逸れてしまいますが、「So」では、その後世界的シンガーとなるユッスー・ンドゥールも参加しています。ユッスーやマヌ・カチェは本作で有名になったと言っても過言ではない程で、#89のトーキング・ヘッズ回でも書きましたが、ピーターは三作目からワールドミュージックを大胆に取り入れており、「So」でもその路線は踏襲されています。音楽性のみならず、人選においてもワールドワイドな視点が、やはり幼少期から世界各国を渡り歩いてきたコープランドにとっても相通ずるセンスを感じ取れたのかもしれません。
ヘヴィメタル・ハードロックの様な速さ・激しさ、ジャズフュージョンの高度なテクニック、ブルースなどにおける所謂 ”味” ”ニュアンス” といったものとは、コープランドが追及した演奏スタイルは一線を画していました。彼のスタイルはエイトビートドラミングの新しい可能性を図らずも指し示していたのではないかと思うのです。
なのですが、ポリス回の最後と同じような旨を書く事になってしまいますけれども、コープランドの後を継ぐようなドラマーはロック界においては現れていないのではないかと思います。理由は幾つかありますが、その最たるものは、先進的すぎるプレイゆえ、普通のロック・ポップスの楽曲にはそのプレイがマッチングしないという事でしょう。ポリスという、実験性・革新性とエンターテインメントが両立していた稀有なバンドであったからこそ、コープランドの一連のプレイも成り立っていた訳で、凡百のポップソングではせっかくのプレイも猫に小判、というよりもはなから曲にそぐわないでしょう。当たり前の事になりますが、世間一般に受け入れられる音楽はわかりやすいものが多く、作曲・アレンジ・演奏面において、高度あるいは先進的な楽曲は売れにくいです。そういう音楽を創っているミューシャンはいつの世もいるとは思うのですが、残念ながらそれらの殆どは玄人受けこそしても、ヒットにはつながらないものです。ポリスは数少ないバンドの一つだったのです(勿論、スティングの人気というミーハー的要素もあって…)。
(以前も似たような事を書いた記憶がありますが)しかしながら、巷にあふれる音楽が全て、ノリがイイだけのポップソングとメロディックなバラードだけになってしまったならば、この世のポピュラー音楽は陳腐なものばかりとなり、やがて衰退してしまうでしょう。商業音楽なのだから売れることを意識して創る事が悪いとは絶対に思いません。ですが、世間に迎合するだけのものも、やがて人々から飽きられてしまうのです。芸術はもとより、文化・芸能ごとも全てにおいて、実験的精神・トライアルを止めてしまってはその先、仰々しい言い方をすれば未来はないと思います。勿論先達の伝統を踏襲するのも必要です。それを踏まえて自分なりに消化して新しいものを創る事が大事なのです。それは旧態依然でいる、とは似て非なる、というより全く別の事なのです。
ポリスの音楽、コープランドのプレイは、ニューウェイヴの流れにあって、最後、そしてある意味での究極系とでも言うべきロックの形だったのではないかと私は思っています。90年代以降の音楽を殆ど知らない私ですので、その後のロック・ポップス界がどうなっていったのかはよくわかりません。80年代で止まっているのか、それとも新しい遺伝子が芽生えてきているのか・・・


