#255 Jeff Beck_7

『閑話休題』とは一旦話を本筋から脇道へ逸らす事、と誤用される場合が多いそうです。恥ずかしながら私もそう思っていました … 正しくはその全く逆だそうで・・・

ティナ・ターナーが亡くなりました。享年83歳。ティナについては#102及び#103で取り上げていますので宜しければそちらを。
音楽的パートナーであり夫であったアイク・ターナーからの虐待に耐えかね、彼の元から逃げたことによってツアーのキャンセルに関する損害賠償等を負ってしまい、かつてはミリオンセラーも飛ばした人気シンガーが70年代半ばからはドサ回りも厭わず歌い続けました。そしてそれを支えたのはローリング・ストーンズ、ロッド・スチュワート、デヴィッド・ボウイといった英国勢のミュージシャン達だったのは興味深い事です。
それから84年のアルバム「Private Dancer」の大ヒットにより見事な復活劇を遂げたのは周知の事実。

今年に入ってからずっとジェフ・ベックについて書いてきたのに、ティナの訃報に触れて誤用である ” 閑話休題 ” という流れで取り上げたのか?と思ったそこのアナタ!残念ながらジェフとティナについては ” 閑話 ” とならないのですヨ!!!
・・・えっ?思っていない??そもそもこんなブログ誰も読んでいない???
やだな~!そんなにホメないでくださいヨ~ (´^ω^`)

ジェフは「Private Dancer」のレコーディングにて二曲参加しています。一つはタイトル曲そしてもう一つは上の「Steel Claw」。前者についてはダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーによる作品でありノップラー自身は録音に参加せず代わりにジェフが弾いているというのは#103で既述の事。後者について、二人のその弾けっぷり・かっ飛び具合から、私は本アルバムにおけるベストトラックはこれではないかと思っています。不遇な時期にストーンズやロッド・スチュワートの様にアリーナを満席に出来る歌手になりたい、と思い従来のソウル・R&B路線からポップミュージックスタイルへと大胆な変貌を遂げ、結果大成功を収めました。
60~70年代のスタイルと80年代以降のそれのどちらが良いかはひとそれぞれの好みですので、甲乙を付ける事柄ではありませんけれども、「Steel Claw」は心機一転を図ったティナを象徴するこの時代におけるエポックなナンバーではないかと思っています。もっとも本質的にティナの歌そのものは一貫して変わってはいないんですけどね。

という訳でティナ・ターナーの訃報に接して ” 閑話休題 ” ではありませんけれども、ほんのちょっとだけ前回までとは目線を変えたジェフ・ベック回としてみました。それで思ったのは、今までジェフに関するリーダー作の時系列に沿って書いてきましたが、他のミュージシャンへ客演したものだけを取り上げても面白いんじゃないかな?と思ったりしました。でも前回のアルバム「Jeff Beck Group」B面についてもまだ書いていないんですよね・・・
・・・えっ?大丈夫??誰もこんなブログ読んでないって???
やだな~!そんなにホメないでくださいヨ~ (´^ω^`)

#254 Jeff Beck_6

器楽演奏者の音楽に関して、そのプレイの秀逸さと楽曲自体のクオリティーが必ずしも比例するとは限りません。曲はイイけど演奏が… という場合や、勿論その逆も往々にしてあります。
そこまで極端ではなくとも、そのプレイヤーの演奏をメインに聴くならばこのアルバムだけれど、作品そのものとしてはこちらの方が好き、といった事もこれまた往々にして …
今回は後者の方です。

ジェフ・ベック・グループがその名をタイトルに冠したアルバム「Jeff Beck Group」(72年)。そのジャケットから通称『オレンジ・アルバム』と称される本作はジェフやメンバー達のプレイが秀逸なのは勿論ですが、何より作品として素晴らしいものです。ジェフはその後におけるインストゥルメンタルの作品群が最もよく取り上げられる事が多いのですが、私はジェフのアルバムでこれがイチバン好きです。あっ!勿論「ブロウ・バイ・ブロウ」以降のフュージョン作品も鼻血が出るほど聴きましたよ。
A-①「Ice Cream Cakes」は本作を象徴する楽曲。コージー・パウエルのドラムがクールでありながら、それでいて怪しげな幕開けを告げます。コージーはこういった技術的には決して難しい訳ではなくとも、他のドラマーには浮かばない発想のフレーズが秀逸です。長く焦らされたかの様なイントロが終わるとボビー・テンチのこれまた粘っこいヴォーカルが入ってきます。
緊張と痴漢 … もとい弛緩という話は確かエルトン・ジョンの回でしたと記憶していますが、この粘っこい緊張感・テンションが一転して開放される瞬間があります。2:27からのパートがそうですが、その直前から始まるブリッジの展開が見事です。ジェフのトリッキーな音色及びフレーズにコージーとのショートソロの掛け合いが緊張感を極限まで高めることで、先述のそれらが発散される流れとなるのです。
ジェフのソロはパーツ一つ一つを取れば、例えば3:10当たりのフレーズなどはよく聴く事が出来、またどれも基本的にはマイナーペンタトニックに根差した指グセ的なものなのでしょうが、その組み合わせ・歌わせ方及びトーンのセレクションがジェフ独自のものであり、速く複雑かつ流麗に弾くという技術のベクトルとは一線を画するものであるからこそ(勿論それらは大事ですが)、彼が唯一無二のギタリストと呼ばれるのだと思います。

A-②「Glad All Over」は古いR&Rのスタンダードナンバー。ビートルズやブライアン・セッツァー等もカヴァーしている本曲を独自の味付けで煮染めています。ちなみにデイヴ・クラーク・ファイヴに同名ヒット曲がありますが全くの別物。原曲はロカビリー然としたものですが、こちらはそれをR&Bライズ・ファンカライズさせオリジナルとは異なる仕上がりに。えっ?そんなコトバ聞いた事ないって?当然です、今私がつくったからです (´・ω・`)
ジェフのプレイに関しては変則的なソロが印象に残りますが、特に終盤でのオブリガードやカッティングといったリズムギターも聴きどころです。ジェフは基本的に自分では歌わないギタリストなので、B.B.キングやエリック・クラプトンの様に歌とギタープレイ、という区分けが無いのでしょう。全てがジェフにとって ” 声 ” であり
” 歌 ” なのです。コージーの合間合間に入るカウベルが憎い(勿論イイ意味で)。

A-③に収録された「Tonight I’ll Be Staying Here with You」はボブ・ディランによる69年のナンバー。オリジナルはレイドバックした雰囲気ですが、見事なまでにR&Bスタイルのバラードとなっています。ボビー・テンチの歌の良さを引き出す為のチョイスかな?と思ってしまう程の名唱。今回ディランのオリジナルを初めて聴いたのですがそちらも素晴らしい。

A-④「Sugar Cane」はジェフと本作のプロデューサーであるスティーヴ・クロッパーの共作。地味なナンバーではありますが、名盤というものはその様な楽曲でもクオリティーが高いのです。

「Ain’t No Mountain High Enough」(#146ご参照)など数多の名曲で知られる夫婦ソングライターチーム アシュフォード&シンプソンによる「I Can’t Give Back the Love I Feel for You」にてA面は締めくくられます。初出は68年のリタ・ライトによる録音。のちにスティービー・ワンダーの妻となるシリータ・ライトです。ちなみにこれがシリータのデビュー曲。71年にはダイアナ・ロスもレコーディングしています。これに関しては原曲に沿った演奏でありシリータ版にかなり忠実かと思いますが、インストゥルメンタルであり、しかもコージー・パウエルのドラムですからだいぶ感じが変わるのは言わずもがな。
スティービーの「トーキング・ブック」に参加したのも同72年なので、その辺りが所以なのかな?と思っていたのですが調べてみると本作の録音が1月であり、「トーキング・ブック」にてジェフがレコーディングした正確な時期は分かりませんでしたが、発売月からすると(本作5月、トーキング・ブックは10月)スティービーのアルバムに参加するより前の様な気がします。 元々ジェフはモータウン系の音楽が好きであり、実際本バンドを組むにあたりメンバー探しも兼ねてモータウンで数々のセッションをしたと言われています。もっともコージーのドラムがハード過ぎて受け入れられなかったとも語られていますが・・・

A面だけでだいぶ書いてしまいました。B面は次回にて。