#256 Jeff Beck_8

前回はティナ・ターナーの訃報に触れて誤用としての『閑話休題』となった訳ですが、今回は正しい意味での『閑話休題』。#254から引き続いて所謂第二期ジェフ・ベック・グループのアルバム「Jeff Beck Group」(72年)についてです。
#254でさらっと触れましたが本作においてはスティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎えています。ブッカー・T&ザ・MG’sにてオーティス・レディングなどの黒人音楽に携わってきたクロッパーの力を借りることによってよりブラッシュアップ(この場合は ” より
黒っぽく ” と言うべきか?)した作品を目指したのかと推測されます。ジェフとクロッパーという組み合わせには正直あまりピンと来ないものがありますが、実はMG’sのヒット曲「Green Onions」(62年)に魅了され、そこからブラックミュージックを愛聴していったというエピソードがあります。とにかくこの時期のベックは ” 黒っぽさ ” を求めており、必然的にクロッパーの起用となったのではないでしょうか。
ドン・ニックスのペンによるB-①「Going Down」。今回初めて知ったのですがクロッパーや同じくMG’sのベーシスト ドナルド・ダック・ダンと高校の同級生だったそうです。初出は ” Moloch ” というバンドによってですが(69年)、有名なのはフレディ・キングによる前年のヴァージョンです。参考までにどちらも。フレディ版を基にしたのであろう事は一聴瞭然です。
余談ですがレコーディングの打ち上げにてニックスは本テイクを称賛したそうです。

本作はリリース当初評論家ウケが良くなかったそうです。やれ前作より劣る、カヴァーが原曲にはるか及ばない、さらにはベックのギターは良いがバックメンバーがダメだ、ヴォーカルとキーボードが特に良くないなどなど …
これまでにも散々書いてきましたが、この事実でわかるのは如何に自称評論家・ライターといった人たちの意見が当てにならないかという事です。後年の本作へ対する評価を見てこの時酷評した人たちはどう思うのか?………… 何とも思わないでしょうね、言いっぱなしですから・・・・

B-②「I Got to Have a Song」はスティービー・ワンダーによる楽曲。オリジナルは70年の「Signed, Sealed And Delivered」に収録されています。ジェフとスティービーの関係については折に触れて述べてきた事なのでここでは割愛します。ちなみに原曲も。

本作でよく取り上げられるナンバーはA-①、B-①、③、④といった所ですが、私は本アルバムにおけるベストトラックは本曲ではないかと思っています。ジェフのギターにばかりスポットを当てて聴いていると違う感想を持つのかもしれませんが、楽曲は勿論の事アレンジと演奏全てが高い次元でミクスチャーされ、そこに素晴らしいグルーヴ感が加わっています。気難しく完璧主義者で知られるジェフ・ベックも、このテイクの完成を聴いた時には満足したのではないか、とソースはありませんが勝手に推測したりします。
ボブ・テンチの歌を酷評したその時の評論家!アンタこの曲を聴かずに書いたんじゃないか!?
あと女性コーラスも素晴らしいのですがクレジットがありません。誰だったのでしょう?・・・

B-③「Highways」はベックのオリジナル。本曲がアルバムのハイライトである事は間違いないでしょう。
前曲に負けるとも劣らずの傑出したプレイとグルーヴ感は圧巻です。後半マックス・ミドルトンのエレクトリックピアノへ向かう直前のコージー・パウエルによるスネアドラムの連打がたまらない … あと相変わらずカウベルの使い方もニクい …
ヘヴィメタル・ハードロックを好む人たちからすると大して速く弾いていないし、結構ピッキングとか怪しい所もある、ジェフ・ベックって何がそんなにスゴイの?と思う人達も多いでしょう。
それに対する答え・反論はありません・・・あ!これでは話が終わってしまう … そういうテクニカルな面で語るならジェフ・ベックというギタリストはトッププレイヤーには入りません(それはジミヘンやクラプトンにも同じことが言えるのですが)。
本曲についてあえて言うならフレーズのオリジナリティーという事でしょうか。速さや流麗さとは全然別のベクトルを追求していたのがジェフ・ベックというギタリストだと私は思っています。ギターをいかに ” 歌わせるか ” これこそがジェフが生涯追い求めた命題の様な気がします。皆が生まれ持って美声・広い声域・声量を持って生まれてきている訳ではないのです。ジェフは彼にしか出来ない方法でギターを歌わせたのです。
ついでに本曲ではリズムギター、つまりカッティングやオブリガードも秀逸です。どうしてもソロプレイに耳が行ってしまいがちですが、そういった所を楽しむのも音楽の聴き方です。速くて複雑、かつ正確なギタリストがイチバン偉いとなると、エディ・ヴァン・ヘイレンやイングヴェイ・マルムスティーンが最もスゴイギタリストという事になりますからね。あ!別にエディとイングヴェイをディスってる訳ではないですよ。というか速弾きのギタリストで思い浮かぶのがエディやイングヴェイという時点で歳がバレますね … 今速弾きで有名な人って誰なんでしょうか?教えてもらっても多分わからないでしょうが・・・

エンディングを飾る「Definitely Maybe」はインストゥルメンタル。スライド(ボトルネック)とワウが効果的に使われている印象的なナンバーです。下の動画は昔からよく観ることが出来たものでドイツのTV番組『Beat-Club』に出演した際の映像。この頃としては音と映像がかなり良く、また動いてる第二期ジェフ・ベック・グループはこのTVプログラムによるもの位しか無かったと記憶しています。なのでとても貴重な映像です。気軽に観る事が出来る世の中になって本当にヨカッタ♪(*´▽`*)
さすがにギター一本で本曲を演るのは不可能だったのでしょう。後から一本、さらにもう一本と撮って重ねているのが2:30辺りで観る事が出来ます。これも大変貴重であるのは言わずもがな。
ちなみに『Beat-Club』が放送されていたのは72年迄という事なので番組終了間際くらいだったのでは?

ジェフ・ベックはその気難しさと完璧主義からバンドが長続きしなかった事は洋楽ファンにはよく知られた所です。この後一旦お流れとなったベック・ボガート & アピスを組むこととなりますがそれも短命に終わります。「Blow by Blow」以降はバンドを組むことは無く(ハニー・ドリッパーズなど企画モノは除く)、ソロミュージシャンとして活動していく事となります。
ヤードバーズからBBAまで、組んだバンドの中で最もしっくり来ていたのが第二期ジェフ・ベック・グループだったのではないかと私は思ってます。バンドの ” しっくり来る ” とは何をもって?と突っ込まれるのは重々承知ですが、この場合はリーダーであるジェフのプレイは勿論の事、他メンバーが生き生きと演奏し、当たり前ですがバンドで最も大事な要素の一つであるグルーヴ感が他のそれらよりも一つ突き抜けているのを感じられるからです。
技術的・音楽的にはこの後からジャズフュージョン畑のメンツを迎える様になってより高度になる訳ですが、勿論それらも素晴らしく私も鼻血が出る程聴きまくったのですけれども、前作「Rough and Ready」と本作にある音楽性・グルーヴ感はそれらとは比較できない何かがあるのです。

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