#245 if i fell

” 落ちる ” という単語にはネガティブな印象がつきまとうものです。「谷底へ落ちる」
「試験に落ちる」「人気が落ちる」や「都落ち」なども決して良い意味では使われません。
そんな中一つ不思議な表現があります。「恋に落ちる」というやつです。
勿論大昔から日本語として存在した表現ではなく、英語の ” fall in love ” から
来ているらしいのですが、さてこの場合の ” 落ちる ” とは良いのやら悪いのやら …

ビートルズの 3rd アルバム「ハード・デイズ・ナイト」に収録された「If I Fell(恋におちたら)」。
実質的にジョン・レノンによって書かれたとされる本曲はビートルズ初期、というより全キャリアを
通して最も優れた楽曲の一つに挙げられます。勿論その制作にはポールがかなり寄与した、
ここからあそこまではポールが創ったんだ!とかビートルズマニアが寄り集まれば取っ組み合の
ケンカが始まるのでその辺りは深く突っ込まずに語ります・・・・・
:*:`☆┌(`Д´)ノ)゚∀゚).:*:(-(-д(-д(`д´)д-)д-)-).:*:(゚д゚)ノ=3

本楽曲の魅力、言い換えれば最も耳が惹かれる箇所はイントロと二・三番目の後半部分というのは
衆目の一致する所です。
特にイントロに関して。様々なサイトで音楽的にかなり突っ込んだ解説がなされてますので、
興味がある方はそれらをどうぞ。ただし理論がある程度わからないと転調はまだしも、
” トニック ”、” ドミナント ”、” 代理(裏)コード” 等々それってオイシイ?といったワードの連発なので、私なりに出来るだけ理解しやすくまとめてみます。
このイントロで多くの人が感じるのが不安定(憂鬱)から安定(希望と言い替えても良い)へ
移行する感覚、といったものでしょう。勿論安定する(希望へ変わる)箇所は歌詞で言うと、
” just holding hands ” の7小節目であり、頭の ” just ” で見事に展開されます。
所謂Aメロである ” If I give my heart to you ” からのパートのキーがDであるのに対して、
イントロのキーは半音下がったD♭です。先述の7小節目からキーDにとっての音楽用語で言う
”ツーファイブ(Ⅱ→Ⅴ)” の流れになり(つまり7小節目で転調している)、そして
9小節目が
Dで始まるという展開です。
そして不安定感の元になっているのが2・6小節目ですが、ここは普通A♭7がセオリーです。
そこを趣向を凝らして代理コードを、というのはまだよくある事なのですがその役割は本来D7。
プレーンなDを用いる事によって不安定感が生まれます。しかしそのⅮが転調後のキーになる、
という伏線が張られていて、より7小節目の転調が劇的になるというものらしいです。
(ここ迄で頭からバネが出そうになった方はムリして読まなくてイイですよ …(*´∀`;)… )

二・三番目の後半部分(ジョンはミドル8と呼んでいたそうで)は『D9→G→Gm→D→A7』。
ナインスコードでテンション感が高まりメジャーからマイナーへ、最後は普通にツーファイブで
終わる … と、このパートもまた耳に残る所です。もっともここはジョンとポールのハーモニーの
素晴らしさに因る部分が大きいと思いますが、そこまで言及すると一冊本が書けちゃうので勿論控えます。

これらを正規の音楽教育を受けてもいない青年が成してしまった事は、クラシック畑の人達からすると、
驚愕に値する程の事実だそうです。クラシック音楽では基本コード進行という概念がないので、
上記を解する際 ” 増何度・減何度 ” という説明になり、ますますアタマからバネが出ます・・・・・
ジャズ畑の方がその辺はフランクに受け入れられるようで、要は冒頭 ” Ⅱ→Ⅴ→I ” で始まるという、
ジャズでは珍しくない事です。#137で取り上げた「Feel Like Makin’ Love」もしかり。
ただそのⅤが代理コード、しかも普通乗っかる7度を省いてしまった事により何とも言えない
アンニュイかつメランコリックな感じをもたらし、それが転調後のキーとなるというのは先述の通り。
勿論ジョンはこれらを感覚的に創ってのけたのでしょう。” ココ、こうしたら良くネ!” みたいな …

本曲を傑作たらしめている要因にAメロから始まるジョンとポールのハーモニーもあるのは
言うまでもない事ですが、既述の通り本が書けてしまうのでここでは触れません。
ネット上でいくらでもそれについて解説してくれているヒマ … 親切な方達がいるのでそちらを。
さらにはジョージの12弦ギター、ポールのベースライン、そしてリンゴのドラミングが
寄与しているのも忘れてはなりません。特に8小節目終わりの ” ンッタタタッタッ ” という
フィルインは、技術的には実に何てこと無いのですが、これ以外には考えられないと言う程に
マッチングしています。リンゴの類まれなるセンスがうかがい知れる一端です。

本曲の歌詞を要約すると、前の恋愛で傷ついた男が新しい恋の相手に  ”君を信じてイイのかい?
今度うまくいかなかったら僕はもう立ち直れない ” といった昭和の時代であれば
” 男ならドーンと行かんかい!” と言われそうなくらい頼りないものです。しかも前の彼女とも
完全には終わってないような節もあり … まあ、ジョンらしいと言えばらしいのですが・・・

結局この場合の ” 落ちる ” とは良いのか悪いのか?・・・・・言うまでもありません。
良いものでもあり、悪いものでもあるのです。

#244 Twist and Shout

交淫屋のゴト師 … 光陰矢の如しと申しますが、今年も二か月を切りました。
失礼。予測変換で上に来たのをそのまま打ってしまいました。気にしないでください、
よくある事です (´・ω・`)
それがイチバン上に来るって … オマエ普段PCでナニやってんの?…(*´∀`;)…

毎年12月8日やその前後にはジョン・レノンに絡めたネタで書いていたのですが、
気が付けばもう一か月もない・・・・・
エルトン・ジョンについて長く書いてきましたが、はて次は何を取り上げようか?
と考えあぐねていたところ、そうだ!エルトンからジョンへ話題をシフトすればイイんじゃね!
などとナイスなアイデアが浮かびました。二人の関係についてはエルトン回で既述です。
#232#239をご参照のほど)
私はジョンのファンです。とは言っても彼について本気で書ける程のジョンレノンマニア、
ビートルズフリークというわけではありません。世界中には強者がごまんといます。
というわけで、今後何回か少し斜めからの視点で私なりにジョンの事を書いていきます。

「Twist and Shout」。ビートルズ1stアルバムのラストナンバーとして収録された本曲は
あまりにも有名ですが、割鐘の様な声で文字通りシャウトするジョンの歌は今聴いても衝撃的です。

バートランド・ラッセル・バーンズとフィル・メドレーのペンによる本曲を最初にレコーディング
したのはトップノーツ(61年)。58年のヒット曲「ラ・バンバ」を意識したのかな?と思わせる
曲調ですがチャート的には振るいませんでした。ちなみにプロデュースはフィル・スペクター。

ビートルズがモチーフにしたのは言うまでもなくアイズレー・ブラザーズによる62年のバージョン。
全米17位、R&Bチャートでは2位という大ヒットとなった本曲はジョン達にかなりのインパクトを
与えたようです。作曲者であるバーンズ自らプロデュースを務め、軽快なダンスナンバーであった
トップノーツ版を、よりゴスペル&ソウルのパッションを注入した仕上がりとなっています。
アイズレー・ブラザーズにとっては初の全米TOP20ヒットとなる曲でした。

午前10時にスタジオ入りし、録音を終えたのは午後10時という弾丸レコーディングっぷり、
当日ジョンは風邪をひいて調子が悪かった、しかも元々本曲が喉を酷使する事は承知の上だったので
レコーディングの一番最後に録る予定であった、その時にはジョンのコンディションは最悪で
撮り直しは出来ない、一発でキメなければならないという状況だった、等々のエピソードは
ビートルズファンにとっては ” 知ってるよ!あったり前田のクラッカー~ ” と言われそうですが
(今若者の間で最新のトレンドワード (´・ω・`))、念のため記しておきます。

ジョン自身もこの歌に関してはかなり悔んでいたそうです。しかしながら音楽というものは
不思議なもので、必ずしも綺麗な音色・声が良いというわけではありません。エレキギターの
ディストーションサウンド、所謂 ” 歪んだ音 ” や、ルイ・アームストロング、ジェームス・ブラウン、
ジョー・コッカーのようなしわがれ声、日本でも義太夫節のように一般的には決してキレイで無い声が
好まれたりもします。
ジョンは本来しわがれ声ではありませんけれども、本テイク収録時に限っては結果的にそうなり、
それは奇しくも彼らがお手本にしたアイズレー・ブラザーズ版に寄ることになったのです。
このジョンによる歌唱は、オペラ歌手やプロのボイストレーナーからすれば決して褒められる
ものではないのでしょうが、初期のビートルズを代表する楽曲として人々の心を掴んで
離さないのです。勿論それはジョンの歌に因るものだけでないのは言わずもがなですが。