#248 Walls and Bridges

前回のテーマである「Nobody Loves You (When You’re Down and Out)(愛の不毛)」が
収録されたジョン・レノンのアルバム「Walls and Bridges(心の壁、愛の橋)」(74年)。
今回は「愛の不毛」以外の曲について触れていきます。
オープニングナンバーは「Going Down on Love」。オノ・ヨーコ氏との所謂『失われた週末』
の序章を歌ったものとか。タイトルや歌詞は性的な意味にも取れるダジャレを内包していて
いかにもジョンらしいもの。しかし楽曲は飄々として、それもまたジョンらしい。
A-②「Whatever Gets You thru the Night(真夜中を突っ走れ)」は#239をご参照。

ニルソンとの共作であるA-③「Old Dirt Road」は#246で述べた ” 浮遊感 ” を持った曲ですが、
歌詞はかなり悲惨。キース・ムーン達と乱痴気騒ぎに明け暮れている状況をこれまた飄々・淡々と
歌ったもの。

前回の「愛の不毛」を取り上げた回にて、本作においてあえてベストトラックを挙げるなら
甲乙付け難い二曲があると言いましたが、その甲でも乙でもないのが「What You Got」。
ジェームス・ブラウン張りのファンクナンバーで、何よりジョンの歌が素晴らしすぎる。
「Twist and Shout」では期せずして荒れたシャウトになってしまいましたが(#244ご参照)、
これは正面切って堂々と荒々しくシャウトしたもの。ジョンが最も歌唱力に優れたロックシンガーとは
思いません。ロッド・スチュワートやポール・ロジャースの方がそういう意味においては上かも
しれませんけれども、何を歌ってもジョン・レノン節、自分のものにしてしまうのは天性でしょう。
ジム・ケルトナーのドラムがこれまたたまらない。

「Bless You」は当時別居していたオノ・ヨーコ氏へ捧げた(?)曲。9thコードの響きと
エレクトリックピアノの音色は当時流行しつつあったクロスオーバーを感じさせます。
ローリング・ストーンズ「ミス・ユー」の元ネタになったとかならないとか・・・

「真夜中を突っ走れ」と共にシングルヒットした「# 9 Dream」は、当時一緒に暮らしていた
(逃亡していた?)恋人メイ・パンの事を歌った曲。” John ・・・ ” など曲中に聴こえる声は
彼女自身によるものです。これもジョンらしい浮遊感覚を持った曲。もっともそれは
ジェシ・エド・デイヴィスのスライドギターに因る部分が大きいのでしょうけれども。
かのデュアン・オールマンもジェシから影響を受けてスライドを始めたとか。

「Steel and Glass」はジョンの楽曲におけるもう一つの特質である ” 重々しさ ” が表れている曲。
おのずとこうした曲は歌詞も暗く辛辣なものへと。「How Do You Sleep?」が音楽的にさらに
昇華されたものと私は考えています。

インストゥルメンタルである「Beef Jerky」。BOOKER T. & MG’sの様な曲を狙ったとか。
ホーンセクション・リズム隊共に超一流のプレイヤー達なので素晴らしいのは当たり前。

実質的なエンディングナンバーである「愛の不毛」の後に収録されている「Ya Ya」ですが、
とある理由でアルバムに入れることになりました。
#1で触れましたけれども「Come Together」がチャック・ベリー「You Can’t Catch Me」の
盗作であるとチャックの楽曲管理側から訴えられ、その結果原告側であるモリス・レヴィ他が
過去に書いた曲をジョンの作品に収録する義務を負わされたという経緯だそうです。
スネアドラムを叩いているのはジュリアン・レノン。先妻シンシアとの間に出来た子供である事は
ビートルズファンや洋楽通には周知の事実ですが、ジョンが亡くなった四年後に「ヴァロッテ」で
デビューし、ジョンの面影を残すその容姿と歌声で世界中のファンが涙した事も洋楽ファンには
” あったり前田のクラッカ~ ”(最新のトレンドワード (´・ω・`))と一蹴されてしまうでしょう。

五回に渡りジョン・レノンについて書いてきました。ビートルズフリークは日本だけでも
ごまんといるので迂闊な事を書くと非難ごうごう雨あられなのでこの辺りで尻尾を巻いて退散します。
えっ!大丈夫どうせ誰も読んでないって?!やだな~そんなにホメないでくださいよ~ (´^ω^`)
返し方に変化を付けてきたな・・・…(*´∀`;)…
真面目な話をすればこうやって調べて書いていく事によって、何十年と聴いてきた音楽について
改めて再確認したり、新たな発見があったりと自分の為になるんですけどね。
なので都はるみさんが編んだセーターの様に、読んでもらえぬブログを涙こらえて書いていきます。
そのセーターは多分はるみさんが編んだんじゃねえけどな・・・…(*´∀`;)…

さて … 来年からは …… ホントに何を書こうか?・・・・・あっ!来年もよろしく!! ノシ

#247 Nobody Loves You (When You’re Down and Out)

今まで何回か書いた事ですけれども、私はポップミュージックにおいて歌詞というものに
あまり重きを置いていません(作詞家及び歌詞を好む方には先に謝っておきますm(__)m)。
中学に入った頃から洋楽を聴き出しましたが当然歌詞など分からず(一応訳詞は読みましたが)、
自分にとってその音楽の魅力は歌詞以外の要素でした。ですからインストゥルメンタルにも
抵抗なく入っていく事が出来ましたし、かなり乱暴な極論ですが何なら全編スキャットで
歌ってもらっても構わないと思っています。
ここまで逆を張っておけばもうイイでしょうかね ………… 今回は歌詞を中心に取り上げます。

ジョン・レノンのソロアルバムで何がイチバンか。精神療法によって赤裸々に内面をさらけ出した
「ジョンの魂」だ!いや平和について歌ったジョンの代表曲がタイトルである「イマジン」だ!
何を言う!原点回帰した「ロックン・ロール」こそ最高傑作だろ!!イヤイヤ … 結果として遺作に
なってしまったがカムバック後の「ダブル・ファンタジー」異論は認めない!!!
等々・・・ファンの間で喧々諤々になるのは言うまでもありません。

74年にジョンがリリースしたアルバム「Walls and Bridges(心の壁、愛の橋)」。
全米1位を獲得した本作はそれまでの政治的メッセージを排し、音楽本位(当たり前なんですがね)
で制作に取り組んでおりジョンのソロキャリアにおける中~後期の傑作とされています。
私はこのアルバムが一番好きです。その全てが完成度の高い楽曲ばかりで一部の隙も無い作品とは
こういうものを指すと考えています。それら楽曲群においてあえてベストトラックを挙げるなら、
甲乙付け難い二曲があるのですが、今回はこちらを。
「Nobody Loves You (When You’re Down and Out)(愛の不毛)」。本アルバムの実質的
ラストナンバーである本曲を端的に表現するならば、徹底的に救われない歌詞を淡々と歌ったもの、
とでも言い表す事が出来るでしょうか。
落ち込んでいるときには 誰も君を愛してくれない
有頂天になってるときには 誰も君を気にかけない
本曲を象徴しているのがこの二行のフレーズです。

この時期のジョンは再婚相手であるオノ・ヨーコ氏と別居状態にあり、N.Y. からL.A. へ
移り住み(逃げ出した?)フーのキース・ムーン、二ルソン、そしてリンゴ達と毎晩のように
泥酔しては乱痴気騒ぎを繰り返していました。ヨーコ氏と別居した理由は様々あるらしいのですが、
その最たるものは浮気。事務所のスタッフである中国系アメリカ人女性と共に逃げたのです。
これが俗に言う『失われた週末』というものです。
本作はその様な状況下で制作されました。といってもスタジオにアルコールやドラッグを持ち込んで
タリラリランのラリパッパで録音するというものではなく、それらを一切断ち真面目に取り組んだとの事。
レコーディングスタジオもN.Y. へ戻し、以前の創造的気運に満ち溢れていたと言われています。
なにも隠すものもない きみはそれでもまだ 僕がきみを愛してるか尋ねてくる
それって何だい? それって何だい?
すべてはショービジネスなんだ すべてはショービジネスの世界なんだ
説明不要なまでに身も蓋もない歌詞です。62年から突然時代の寵児となったジョンにとって、
それまでの約12年間とは上記の様なものだったのでしょうか。
海の向こうに 今やもう何回も行ったさ 盲目の人を導く片目の妖術師が そこにはいたんだ
きみはそれでもまだ 僕がきみを愛してるか尋ねてくる
それって何だい? それって何だい?
指で触ろうとするといつも すり抜けていってしまう
指で捕まえようとするといつも すり抜けていってしまう
片目の妖術師が盲人を導いている、ポップミュージックの歌詞にてこれ以上惨い状況を表現するのは
不可能でしょう。

淡々と歌われる曲の中で一パートだけジョンがシャウトします。所謂大サビの所です。
朝起きて、鏡に映った自分を見る、ooo wee!
暗闇の中、もう眠れないって分かっている、ooo wee!
しばし静寂の後、またまた淡々とした歌が再開されます。
年を取ったきみのことなんて誰も愛してくれない 混乱しているときにも誰もきみを必要としない
誰もが自分の誕生日のことで大騒ぎしてる 誰もがきみを愛すのは
死んで墓に埋められたときなんだ(six foot in the ground)
『ライ麦畑でつかまえて』をポップスの歌詞で表現したならば、ビーチ・ボーイズ「駄目な僕」か
本曲にとどめを刺すのではないでしょうか。

救われない厭世的な歌詞は他にもいっぱいあるとは思いますが(ジム・モリソンとか。彼のは
厭世的かつ耽美的とでも言えるでしょうか)、やはり楽曲が見事であり、音楽として完成されて
いなければなりません。暗い歌詞をひたすら陰陰滅滅と歌うだけではそれこそ
” 落ち込んでいるときには 誰も君を愛してくれない ” となってしまうのですから。

今日の日に合わせて少し前からジョン・レノンについて書いてきました。
毎年12月8日もしくはその前後には必ずジョンに絡めたネタで書いてきましたが、
その為ここ最近ジョンの曲をよく聴くようになっていました。例年は一年でこの日くらいしか
聴くことはなかったんですけどね。勿論今日は一日中かけて過ごしています。
気が付けばジョンが死んだ歳を一回りも上回ってしまいました … (欧米で一回りという
概念があるかどうかは知りませんけど・・・)
歳を取ると ” あと何回桜が見られるか? ” などと自分の生い先を心配する表現をしますが、
私の場合はあと何回ジョンを悼むこの日が迎えられるか?などと考えます。
考えてもしょうがないですね。今を生きましょう。運が悪けりゃ死ぬだけです。
あっ!まだジョンで書きたい事があるので、今年いっぱいはジョンネタ(変な表現だな … )で
もう少し続けます。

 

#246 Dear Prudence

『瞑想』心を静めて無心になり、何も考えずリラックスし、また神に祈ったり何かに心を集中させ、
目を閉じて深く静かに思いをめぐらすこと。ウィキペディアにおいてはこの様に定義されています。
医学の分野でも一定の科学的根拠が認められているそうですが、私のような煩悩の塊がそれをすると、
「もっとお金が手に入らないかな~」とか「くそ!あのヤロー!!」などと雑念を邪念で煮しめたような
精神状態になる為意味がない、というよりやらない方が良いみたいです・・・・・

「Dear Prudence」はビートルズが68年に発表したアルバム「The Beatles」
(所謂「ホワイトアルバム」)に収録されたジョン・レノンによる楽曲で、ジョン自身もかなり
お気に入りの
一つであったとか。
全くの私見ですが、ビートルズ後期からソロ活動においてジョンの楽曲における作風の傾向で
顕著なものが二つあると思っています。一つはヘヴィーかつブルージー・ソウルフル・ファンキーとでも
形容される様な粘っこい曲調のもの。具体的には「Happiness Is a Warm Gun」「 I Want You
(She’s So Heavy)」「Cold Turkey」「How Do You Sleep?」「Scared」など。
もう一方が「Sun King」「Jealous Guy」「Mind Games」「#9 Dream」において聴くことが
出来る浮遊感とでも呼べる感覚に満たされた楽曲です。「Dear Prudence」はその萌芽と言える一曲。

ビートルズのメンバー達は68年、インド滞在中に瞑想に耽っていましたがその中に Prudence という
ある女優の妹も同行していました。タイトルは彼女についてです。瞑想にはまりすぎたプルーデンスは
部屋から出てこなくなり、皆で ” 出ておいで、プルーデンス ” と呼びかけたそうです。
この出来事がジョンにインスパイアを与えたとされています。勿論この時代のお約束として何らかの
薬物を嗜んでいたのは言うまでもありません(良い子のみんなはマネしちゃダメだぞ!☆(ゝω・)v)。

浮遊感を醸し出すのに最も貢献しているのはイントロ及びアウトロで顕著に聴くことが出来るギターです。
ジョンによる所謂スリーフィンガーと呼ばれる奏法によるもので、これはインドで一緒に瞑想を
学んでいた英フォークシンガー ドノヴァンから教わったとの事。
ポールのベースが印象的なのは衆目の一致する所で、より楽曲の透明感と浮遊感覚を高めています。
途中から出てくる歪んだギターはジョージ。この辺りから透明感を良い意味で濁し始めます。

後半から特にエンディング辺りにおいて、ピアノ・管楽器・パーカッションそしてハンドクラップが
コラージュ的に、陳腐な言い方ですが音のキャンバスに散りばめられた(ばら撒かれた)パートは
圧巻です。ミュジークコンクレートという楽器ではない現実音を組み合わせて作る音楽(?)が、
60年代末からポップミュージックでも取り入れられました。同じホワイトアルバムでもジョンが
「Revolution 9」を収録していますが私はあれを雑音だと思っています(好きな人ゴメンナサイ … )。
それに成功したのはピンクフロイドくらいです(#25ご参照)。
しかし概念としてのミュジークコンクレートを取り入れる事で後期のビートルズ、言うまでもなく
「サージェント・ペパーズ」でロックミュージックを一段高める事へ見事に寄与しています。
本曲はそれを更に推し進めた傑作で、個人的にはホワイトアルバム中のベストトラックと思っています。

ところでドラムについて全く触れませんでしたが、ビートルズファンには言うまでもない事ですけれども
本アルバム制作中にポールがリンゴのプレイに注文を付けすぎて、怒ったリンゴがスタジオから
出て行ってしまい代わりに数曲はポールがドラムを叩いています(温厚でムードメーカーのリンゴですら
こうだったのですから、いかに当時のバンド内の関係が悪かったかを物語るエピソードです)。
本曲もポールによるドラムとされていますが、エンディングで炸裂するドラムは巧すぎるのでこれは
リンゴが戻ってから叩いたのを重ねたのかな?と私は思っているのですが、これもファンの間では侃々諤々
の事柄ですのでそっとしておきましょう … いずれにせよその素晴らしさに変わりはないのですから。