#259 Jeff Beck_11

ある一曲があまりにも取り上げられすぎて、そのミュージシャン元来の音楽性が正しく世間へ伝わっていない事が往々にしてあります。ビリー・ジョエル「Just the Way You Are」(#183ご参照)はポップミュージックにおける稀代の名曲である事に私も何の異論もありませんが、ビリー・ジョエルはこの様な甘いラブバラードを真骨頂とするミュージシャンであるとされると ” ちょっとまて!それは違う … ” と言わざるを得ません。若い頃からうつ病を患い数度の自殺未遂を起こし、彼が創る曲はむしろ厭世的な歌詞やあるいは抽象的、時に非常に難解な物語的世界を得意とするのです。例えば「イタリアンレストランで」など(#187ご参照)。
あっ!これはビリー・ジョエル回ではありません。前回に引き続きジェフ・ベックのアルバム「Blow by Blow」(75年)についてその2です。
前回でも述べた事ですが本作では「Cause We’ve Ended as Lovers(哀しみの恋人達)」が有名になり過ぎて、ジェフ・ベックというギタリストはこの様な所謂 ” 泣きのギター ” を真骨頂とするプレイヤーなのだろう、と思われがちであり、実際に職業音楽ライターがその様に記しているのを目にしたこともあります。
これは自信を持って断言しますが正しくありません。これもジェフのプレイの内の一つ、という表現が正しいのです。いや、むしろジェフのオリジナリティーがふんだんに盛り込まれているのは本作において他のトラックだと言えるでしょう。
なんか本曲についてネガティブな物言いで始まってしまいましたが … これが名演であることに何の異論もありません、勿論です。スティーヴィー・ワンダーのペンによる本ナンバーは、その前年に元妻であるシリータ・ライトへ提供したもの。結果的にはこちらのヴァージョンの方が有名になってしまいました。
副題である「ロイ・ブキャナンに捧げる」にてロイ・ブキャナンというギタリストの名を初めて知った人が多いはず、勿論私もその一人です。どんなギタリストなんだろう?永年実像が掴めなかったプレイヤーでしたが、インターネット時代になって聴く事が叶いました。

百聴は一見に如かず。上がロイの代表曲「THE MESSIAH WILL COME AGAIN(メシアが再び)」です。スタジオ録音も素晴らしいのは言わずもがなですが、やはりこれはライヴ音源がイイ!何より視覚的にそのプレイを確認する事が出来ます。
なるほど、ジェフが敬愛しその手本としたのがよくわかります。エレクトリックギターという楽器の特性を活かし、可能性を拡げた先駆者の一人です。その意味においてはジェフやジミ・ヘンドリックスと同列に並べられてもおかしくない存在なのです。失礼ながらロイも歌が決して上手くはありませんでした。ですからギターでもって自分の歌(声)を表現しようとしたのでしょう。
「Blow by Blow」の印象的なジャケットに描かれている黒のギブソン レスポール(ちなみに裏ジャケットはその元になった写真)。それによって「Freeway Jam」はアーミングが使われるので勿論の事、あと「Air Blower」など数曲はストラトキャスターかな?あとはレスポールだろう。と思い込んでいました。昔は情報が少なかったですから。
インターネット時代になり、本曲がフェンダー テレキャスターにて録音されたと知った時は驚きました。正確に言えば純粋なテレキャスではなくピックアップにギブソン社製のピックアップを搭載した通称『Tele-Gib(テレギブ)』と呼ばれるもの。ギター用ピックアップのメーカーで有名なセイモア・ダンカンの創業者である同氏が改造してあげたそうです。ジェフが持っていた54年製フェンダー エスクワイア(テレキャスの前身となったギター)を預かりギブソンのハムバッカー(ダブルコイル。フェンダーはシングルコイルなのでパワーはギブソンに劣る)に載せ替えテレギブを作りました。
こぼれ話ですが、このテレギブの音にとても喜んだジェフではありますが、元のエスクワイアの音色も懐かしく思っていたとか・・・別れた女もイイオンナだったな … 的な・・・・・
これまた余談ですがセイモア・ダンカン氏は70年代にロンドンのフェンダーで働いており、そこでジェフをはじめとしたイギリスの様々なギタリストと交流を持ったらしいです。

こういう曲はやはり生でも聴きたい、という事でライヴの動画を。上は説明欄に記述はありませんが86年6月に軽井沢プリンスホテルの野外特設会場で行われたジェフ・ベック、サンタナ、スティーブ・ルカサーの共演コンサートにおけるもの。ここで使われているテレキャスはテレギブではありませんね。ですがやはり音はジェフ・ベックのもの(当たり前だ)。一流のプレイヤーはどんな機材でも自分の音にしてしまいます。

本曲だけで結構な文量になりました。他のB面収録曲についてはまた次回にて。
否定的な話から入っておいて随分長々と書いたじゃないか?と言われるかも・・・
当たり前です。とても好きな一曲ですから。