再びタイトなロックチューンである「Sleeping with the Television On」。中間部のチープな
オルガンの間奏がこれまたコステロっぽく聴こえます。
” テレビをつけっぱなしで寝る ” というのは、むなしい朝を迎える、退屈な日常を繰り返す事の
比喩の様です。アメリカでは昔からテレビ(この場合は地上波というやつ)は無趣味・無教養な
人間が視るもの、貧乏人の娯楽と蔑まされていました。日本でもようやくアンテナの敏感な
若い人達の間ではそうなっていますね。まともな感性であんなくだらないものは視れません。
これまた素晴らしいロックナンバーである「Close to the Borderline」。本作においては
ドラムのリバティ・デヴィートとベースのダグ・ステグマイヤーが重要な役割を果たしている、
というのは前々回にて既述ですが、本曲においてそれが十二分に発揮されています。
憧れのジョージ・マーティンとの仕事を袖に振ってまで守り抜いた自身のバンド。それが本作で
見事に結実されたのです(#186ご参照)。特にデヴィートのドラムが素晴らしく、彼のドラム抜きに
本作は完成出来なかったのではないかと思えるほどです。
アルバムラストの「Through the Long Night」。多くの人が本曲だけがこのアルバムの中で
浮いていると思うのではないでしょうか。勿論私もそうです。内省的な曲調・歌詞は
本作のコンセプトからはベクトルが外れています。どう考えても次作である「ナイロン・カーテン」に
収録されていた方が良かったのでは?・・・ そうです。ビリーはこの時からすでに
「ナイロン・カーテン」の構想があったのでは? と私には思えてなりません。本曲はビリーが
最後に提示した次作の方向性だったのはないでしょうか。
ビリー・ジョエルが80年にリリースしたアルバム「Glass Houses」についてその2。
R&Rナンバーが二曲続いた後に少し箸休め的なナンバーである「Don’t Ask Me Why」。
本作からの第三弾シングルである本曲は全米19位というヒットを記録しましたが、
一つ前のシングル「It’s Still Rock and Roll to Me」がビリー初の全米No.1と
なったのでその陰に霞みがちです。
しかしライヴでは必ず披露される定番曲だったらしくファンの間では人気のナンバーです。
アコギの軽やかな印象によってロックンロール色が薄いように感じてしまいますが、
そこはどうして、ボ・ディドリーばりの所謂ジャングルビートでしっかりと ” ロック ” しています。
先述の通りビリーにとって初の全米No.1シングルとなった「It’s Still Rock and Roll to Me」。
批判を顧みず率直言えば、ビリーによる数多の名曲の中において本曲は突出した楽曲ではありません。
ですけれども、ディスコの潮流がまだ蔓延り、さらにニューウェイヴが台頭しつつあった
80年初頭において、こんなド直球のロックンロールナンバーが天下を取ったのは奇跡です。
言い替えればビリーの人気・勢いが時代を凌駕したのです。誤解を恐れず言うとこの時点で
ビリーは何を演っても成功したと言う事が出来、それは良い意味における強者の特権でしょう。
ポール・マッカートニーですらこれほどの勢いはありませんでしたから。
People who live in glass houses should not throw stones
(ガラスの家に住む者は石を投げてはならない)
ということわざがあるそうです。
自分も完璧ではないのだから他者を批判するな、というくらいの意味です。
ガラスで出来た家に住んでいる人が誰かに石を投げると、その仕返しに石を投げ返されたら
大きな損害を被ります。よって自分から石を投げるようなことはしないでおきなさい、
という教訓を垂れているとする説。あるいはガラスで出来た家の中から外に向かって石を投げたら、
自分の家が壊れてしまうから止めておきなさい、という説もあるそうです。