#258 Jeff Beck_10

『エポックメイキング』。これまで何度か使ってきたワードです。歴史的な変革や画期的な出来事を引き起こすことまたはそのような出来事や作品を指す言葉、とされていますけれども、日本語で言い替えられないか?と思い調べてみると画期的、未曾有、前代未聞といった言葉が挙げられていますが、どうもしっくりこない。
画期的はともすれば陳腐に聞こえるし、未曾有と前代未聞はネガティブな意味で使われる事が多い気もする …
はて?どうしたものやら・・・

ジェフ・ベックが75年にリリースしたアルバム「Blow by Blow」。本作については#5で取り上げているので内容が重複しない様にしていきます。あっ!とは言っても多少はダブルかも …(*´∀`;)…
A-①「You Know What I Mean」。本作について語られる時、とかく「哀しみの恋人達」が取りざたされる事が多いのですが、私はこのアルバムを象徴するトラックはこの曲だと思っています。
インストゥルメンタルの作品を創ろうと思ったのは当時マハヴィシュヌ・オーケストラなどのジャズロックに
傾倒していた為というのは以前にも書きましたが、マハヴィシュヌと全く同じ事を演ろうとしたとは考えられず、ロック、ジャズ、ファンク、ソウル、ラテン諸々をミックスしたジェフなりのジャズロック、当時の言葉で言う ” クロスオーヴァー ” を創ろうと思ったのだと私は考えています。
ですのでマハヴィシュヌやウェザーリポートなどジャズ側からのアプローチと全く異なる点はあくまでリズム、グルーヴ重視という所です。リズム隊も勿論即興は演りますが、しかし基本的には繰り返されるビートから生まれるグルーヴが核となっており、その上でジェフが縦横無尽に駆け回るといった表現が合っていると思うのです。トリッキーなビートも心地良く感じるのはそのせいかと。これを根っからのジャズミュージシャンが演るとまた違ったものになったでしょう。

A-②「She’s a Woman」は言うまでもないビートルズナンバー。マックス・ミドルトンが提案したそうであり、カリプソ&レゲエ調のアレンジも彼によるもの。しかし本作のプロデューサーであるジョージ・マーティンはこの録音を良く思っていなかったとの事。マーティンがいたからビートルズナンバーを取り上げたのかと普通は考えてしまいますが全くその様な理由ではなかったと。ジェフは気に入っていたそうです。

A-③「Constipated Duck」。リズム陣の演奏は相変わらず見事なものですが、楽曲とジェフのプレイに関しては本作において印象が薄いものです。

次曲である「Scatterbrain」とメドレーになっており前半ハイライトの幕開けとなるA-④「Air Blower」。これも鉄壁のリズム隊に支えられジェフが水を得た魚の様に跳ね回ります。リチャード・ベイリー(ds)が叩き出すパターンはレッド・ツェッペリン「移民の歌」と同じですが、ボンゾのそれとは異なり非常にタイトなグルーヴです。ベーシストのフィル・チェンは当時イギリスで引っ張りだこのセッションプレイヤーでした。ミドルトンのプレイが素晴らしいのはいわずもがなであり、本当にリズムトラックだけ聴いても惚れ惚れするような演奏です。
ちなみに上の動画では3:26辺りで実際には「Scatterbrain」に入っています。ただ動画を編集する上ではこの様な区切り方の方がベターでしょう。

直訳すると ” 脳みそ撒き散らす ” という何とも猟奇的かつグロテスクなタイトルであるナンバーは短いドラムソロから始まります。あっ!勿論本来の意味はちゃんとあって ” そそっかしい人 ” だそうです…
9/8拍子のあまりにも印象的なリフは、ジェフの運指練習でよく演っていたスケールが元になっているとの事。本作はジャズとは異なりリズム・グルーヴ重視と先述しましたが、本曲に関してはコール&レスポンス、つまり即興によるインタープレイが顕著に出ています。特にドラムがギターやエレクトリックピアノのプレイに絡みつき、時に煽るような瞬間がありますがこれはジャズ的なものです。
そしてさらに高い次元への昇華たらしめているのはマーティンによるストリングスアレンジ。#5でも述べましたが、ジェフは嫌がるかな?と考えていたこのアレンジを意外にも素直に受け入れ、その素晴らしい結果に大変満足したと言われています。とかく気分屋でわがままとされていますが、ジェフ・ベックという人はちゃんと音楽本位で考えられる人だったのでしょう。
ここまでがLPではA面。B面については次回にて。

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