#6 Wired

ジェフ・ベックが「Blow by Blow」を制作するに至ったのは、その当時、マハヴィシュヌ・オーケストラなどのジャズロックに傾倒していた為で、G・マーティンにプロデュースを依頼したのも、彼が当時、マハヴィシュヌの最新アルバムを手がけたことが理由と言われています。そして、本家マハヴィシュヌのオリジナルメンバーヤン・ハマーもプロデューサーに迎えて作り上げたのがこの「Wired」。
前作よりも、アグレッシブな”バトル”色が強まった感があるのは、ヤンの加入があったことによるものかと思われます。オープニング曲「 Led Boots」のドラミングを聴いて、「何じゃ、こりゃ~!Σ(゚◇゚;)」と、かなりの方がぶっ飛んだのでは。その後80年代からは、ホイットニー・ヒューストンなどのプロデュースで有名になるナラダ・マイケル・ウォルデン。ミュージシャンとしてのキャリアのスタートはあくまでドラマー。当時、マハヴィシュヌにいたナラダをヤンが引っ張って来たのでしょう。
前作から引き続き、マックス・ミドルトン(key)もほぼ全編に渡りプレイしています。
本作ではクラヴィネット・エレピにて殆どバッキングに徹していて、シンセでの目立つソロはヤンによるものと思われますが、二人のプレイスタイルを聴き比べるのも、また一興です。(一例として「Play With Me」にて、クラビネットによるイントロ~バッキングがミドルトン、シンセでのソロがヤン)ヤンは「Blue Wind」にてドラムもプレイしており、これが結構上手い、天は二物をうんちゃら…ってのは絶対ウソです。

 

 

 


本作中、唯一のカバー曲「Goodbye Pork Pie Hat」はジャズベーシストチャールズ・ミンガス作のものですが、他の曲における派手なプレイに耳を奪われがちですけれども、本曲中でのジェフのプレイ、とりわけ音色、場面場面におけるそのトーンセレクションは素晴らしいの一言に尽きます。ジェフの多彩なトーンコントロール、そのチョイスの巧みさは、彼の特徴としてよく挙げられる所ですが、本曲におけるそれは、個人的にはジェフの全プレイ中でも一二を争うものだと思っています。ドラムは更に、これも前作から引き続きのR・ベイリー、LAのセッションドラマー エド・グリーンも参加していて、非常に贅沢なリズムセクションのラインアップとなっています。

ロック畑のプレイヤーが、ジャズ・フュージョンの人たちと組むと、そのテクニックに”喰われて”しまうこともあるのですが、ジェフの凄い所は、それをものともしない堂々っぷりではないでしょうか。速く、複雑に、かつ正確な演奏をする、という技術の点においては、ジェフはヤンやナラダより、率直に言って明らかに劣っています。しかし全くそんなことに気後れもせず、”これが俺の音だー!”と彼にしか弾けない唯一無二のプレイを、これらの猛者に対しても何の躊躇いもなく演奏しているように聞こえます。(ただ意外にも、G・マーティンのコメントによると、ジェフは案外、自分のプレイに「これで良かったのだろうか?」と後から悩む一面もあったとの事)更に言えば、ジェフは音楽面にて「俺が!俺が!」的な性格では決してなく、例えば「Play With Me」において、ジェフはテーマを弾く以外はカッティングに回っていて、ヤンのソロの方がフィーチャーされています。これはコメントなどの裏付けがあるわけでなく、あくまで私の憶測なのですが、この曲において、ジェフは決して”喰われて”しまった訳ではなく、制作段階にて、「この曲は君(ヤン)のシンセのプレイを際立たせた方が良い、俺はバッキングに徹した方が良いと思う。」の様なやり取りがなされたのでは、と勝手に思っています。そしてそれは見事な演奏として成功しております。我が強いと言われているジェフですが、
前回の記事で記した通り、マーティンの提案をあっさりと受け入れたエピソードなどからも、ジェフはそれが良い結果をもたらす事なら、全く意に介せず、引くところは引くような人なのではないでしょうか。
「それがどうした?グッドサウンド・グッドミュージックならイイじゃん!」
の様な感じで。ただし、自分が(音楽面、それ以外でも)納得いかない事は、テコでも譲らない性格故に、周囲との衝突も多かったので、と思うのです。

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