#7 There and Back

78年暮からヤン・ハマーと共にレコ-ディングに取り掛かった、
本作「There and Back」は、一度制作が中断され、79年6月から
ジェフは再びツアーに出ることとなります。ウィキ等では、その仕上がりに
満足がいかなかった為と述べられている所ですけれども、真偽の程は不明ですが、
実はヤンが他のメンバーの彼女に手を出したことで、人間関係に亀裂が
生じたことによる、という話もあります。いずれにしろツアー終了後に、
共演したトニー・ハイマス(key)、サイモン・フィリップス(ds)そして
モー・フォスター(b)
というオール英国人の布陣で制作が再開されました。
ハイマスは王立音楽院卒のエリート、フォスターはイギリスの
ジャズロックシーンにおいて名うてのセッションベーシスト、
そしてサイモンは70年代後半から、イギリスプログレ界のスター達が集結した
「801 Live」や、マイク・オールドフィールドのアルバムなどで、
めきめき頭角を現しつつあった新進気鋭の若手セッションドラマーでした。

 

 

 


①~③がヤン加入時、④~⑧がその後、と曲順の並びで分かり易くなっています。
しかしそれによって、ガラッと楽曲・サウンドの印象が変わっているという事はなく、
本作全体に”孤高のギタリスト ジェフ・ベックが紡ぎ出す宇宙的音世界”とでも
呼ぶにふさわしい、独特で一貫した印象の素晴らしいアルバムに仕上がっています。
ジェフは、全く出来ないというわけではないでしょうが、アレンジ・プロデュースと
いった能力にはあまり長けていない、根っからの”ギター職人”の様な人なので、
本作の統一感は、ハイマスが、ヤンの作って行った楽曲・サウンドのコンセプトを
踏襲した、またプロデューサー ケン・スコットによるものかと思われます。
スコットは、ビートルズのエンジニアとして有名なジェフ·エメリックとともに、
アビーロードスタジオで仕事をしていました。エメリックと同様、
特に後期ビートルズのサウンドメイキングに関わった人物です。
「Star Cycle」は、私を含めたオッサン世代は耳にしたことがあるはず、
プロレスがまだゴールデンタイムでテレビ放映されていた頃、
新日本プロレスのオープニングテーマに使われた曲。ちなみにこの曲、
ドラムはヤンによるプレイ。前作でも叩いていますが、それはとても
上手いのですが、やはり本職ではない人、特有の感じがありました。
(もっとも、S・ワンダーなどもそうですが、本職でないプレイヤーは
目からうろこ的な、大胆でシンプルなフレーズをいともあっさりと
プレイしてしまったりして、非常に驚かされることがあります。また、
ヤンもスティーヴィーも、そのグルーヴは素晴らしいものです。)
しかし、本曲におけるドラムは上手過ぎます。恥ずかしながら、
かなり長い間、サイモンのプレイだと信じて疑わなかった程です。ただ、
それ以外の曲とは少しドラムの音色が違うな、と感じてはいましたが。
「Space Boogie」におけるサイモンの怒涛のプレイが有名ですが、
「The Pump」「The Golden Road」などでのセンシティブな
プレイも必聴ものです。サイモンのドラミングに関しては、
ここで語り尽くすにはスペースが足りないので、是非また別の機会に。

R&R、ブルース、R&B、ファンク、そしてジャズ・フュージョンと、
様々なスタイルを
経てきたジェフですが、本作にてその後のサウンドが
確立された様に思います。
全編インストゥルメンタルであるのは前2作同様ですが、
本作は
ジャズ・フュージョンとはカテゴライズ仕切れない、まさしく、
”ジェフ・ベック・サウンド”としか言いようのない音楽が成立しています。
エリック・クラプトンと同じく、ジェフのプレイが、ブルースにそのルーツが
あることは間違いないのですが、オーソドックスな、ペンタトニック・スケールに
根ざしたブルースを追及するクラプトンに対して、ジェフは(クラプトンに
比べれば)トリッキーで、革新的なサウンド・奏法(機材の扱いを含め)を
追い求めてきた、と言えるでしょう。ジミ・ヘンドリックスと共にロックギターに
革命を起こした、と常々評されるのは衆目の一致するところです。
つい先日、来日公演を果たし、その際のインタビューにて「尊敬する友人であり、
勿論最高のギタリストであるが、エリック(・クラプトン)みたいに
同じスタイルの音楽(ブルース)を延々とやり続けるのは自分には出来ない、
音楽で実験することを楽しむタイプなんだ」と語っていました。
無論どちらが良い悪いということではありません。ですが、72歳で
” まだ新しいことやるんすか!! (゜ロ゜) ”というのは驚愕です。
顔のシワこそ深く刻まれてはきていますが、まだまだ”ロック”している
ジェフを見ていると、自分もこんな年寄りになれれば良いなと、少しでも
近づくことが出来ればと思い、日々練習に励むようにしております。

3回に渡り、ジェフ・ベックについて書いてきましたが、具体的な
奏法・テクニック面についてあまり触れることが出来ませんでした。その辺は
是非また別の機会にて、という事でジェフ・ベック編はひとまず終了です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です