#18 Roundabout

テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディングテーマとして使用されたことから、
耳にした事がある方も結構おられるのでは。イギリスのロックバンド イエスの71年発表
「Fragile(こわれもの)」のオープニング曲にて、シングルヒットした「Roundabout」。

初めから演奏力が突出したバンドでしたが、3rdアルバムからギター スティーブ・ハウが、
そして4thアルバムである本作「こわれもの」からキーボード リック・ウェイクマンが加入し、
黄金期のラインアップが揃います。こぼれ話ですが、以前からイエスと交流はあった
ウェイクマンでしたが、バンドの練習を見に来ないか?と電話を受けたときは、寝不足で
翌日も朝が早かったので、大変不機嫌な状態で行ったとのこと。しかし、その時殆ど
完成していた本曲「Roundabout」を耳にして、すっかり魅了されてしまい、そのまま
なし崩し的にバンドに加わったというエピソードがあります。
その演奏技術においてイエスは、当時のロックバンドの中で
最高峰だったと思います。
”鉄壁なアンサンブル”という言葉はこの人達の為にあるのでないかと
思われる程で、
更にコーラスワークまで見事です。イエス=”テクニックのバンド”というレッテルが
張られるほど。これには功罪いずれの側面もあるとは思いますが、本作にてアメリカでも
アルバムトップ10に入り、世界的にその名が知れ渡ります。

キング・クリムゾンが重厚かつ高度で深遠な世界観(悪く言えば、難解かつ、陰鬱で沈んで
いく
様な内向きな音楽性)であったのに対し、イエスは高度な音楽性でありながら、
外向きに
解放された(決して軽いという意味ではなく)音楽世界を構築しました。
もっとも人事面においては、クリムゾンに”負けず劣らず”安定しないバンドで、頻繁なメンバー
チェンジからそれは見て取れます。クリムゾンが基本的にロバート・フリップの強力なリーダー
シップによって構築された音楽(決して皆、唯々諾々と従った訳ではないことは前回までの
記事で触れた通り)であったのに対し、イエスはある意味、”民主的”な集まりだったそうです。
些末な事柄でも、全員で話し合い、徹底的に”民主的”に決定するという姿勢が、メンバーに
よっては、「タルい、時間がかかってしょうがない」、といったバンド内の状況だったそうです。
「こわれもの」というタイトルは当時のバンド内の人間関係を表したものとも言われています。

「ラジオ・スターの悲劇」のヒットで有名なバグルスのトレヴァー・ホーンが主導権を握って
いた頃の、83年発表、全米1位の「Owner of a Lonely Heart(ロンリー・ハート)」
(この時期のイエスは基本的に”別物”と捉えた方が良いと私は思っています)を除けば、
「Roundabout」は全米トップ20に入った最大のシングルヒット。
8分以上に渡るこのような楽曲がシングルヒットするのは、極めて異例だと言えます
(時代がそれを許容していたというのもあるでしょう)。本曲は高度な音楽性と
コマーシャリズムが同居した、ポップミュージックにおいては誠に稀有な楽曲だと言えます。
イントロの生ギター(これはナイロン弦ではなくフォークギターだと思います、多分…)の
ハーモニクスが非常に印象的で、これだけで”イエス的音楽世界”へ引き込まれてしまいます。
リズム隊が入ると颯爽とした、軽快感さえ感じる展開へ。ジョン・アンダーソンのハイトーン
ボイスも相まって、非常にキャッチーな楽曲として始まりますが、やはりそこはイエス。
クリス・スクワイアの重厚なベース、リック・ウェイクマンのオルガン、ムーグシンセを
見事に使い分けたオブリガード的フレーズと、キャッチーでありながら一筋縄ではない
高度なプレイと音色のセレクションです。曲は更にディープな展開へ。変拍子の”キメ”の後、
03:20秒辺りからのポリリズム(異なるリズムの混在)を駆使した、ヘヴィーなパートへ。
そして05:00秒頃にて、イントロ同様の生ギターのフレーズに戻り、静的パートへと回帰。
そしてウェイクマンとハウによる怒涛のソロの掛け合いを経た後、ヴォーカルのパートを挟み、
ラストは見事なコーラスワークと生ギターによる冒頭のフレーズをなぞったエンディング。
8:30秒という長さを全く感じさせない見事としか言いようのない楽曲構成です。
エンディング曲「Heart of the Sunrise(燃える朝焼け)」は、次作の大作志向が既に
現れている10分以上に及ぶ楽曲。これだけ長い楽曲は自ずと、静と動、緩急を使い分ける
構成になりますが(そうでなければ飽きます…)、やはり見事の一言です。高い技術の
裏付けがあるからこそ出来る、激しい複雑かつ高速なプレイのパート、決して”ダレる”
ことなく緊張感を保った静的パート。この様な楽曲は、イエス、キング・クリムゾン、
ジェネシスといった高度な技術・豊富な音楽的素養を有するバンドであるからこそ作り上げ、
またそれを実際に演奏して具現化出来たものでしょう。
レッド・ツェッペリンとともに、期待の英国新人バンドとして、米大手アトランティック
レコードと契約したイエスでしたが、ツェッペリンが初めから爆発的なヒットを飛ばしたのに
対して、イエスは芽が出るまでに若干時間を要しました。色々な要因がありますが、例えば、
初代マネージャーがマネージメントの専門家では無かった、本国アトランティックと上手く
意思疎通・情報伝達が出来なかった為、販売促進活動が的を得たものにならなかった
(米国側は、当初彼らを”フォークグループ”だと思っていたらしい・・・)等々。しかし、
ようやく本作のヒットにて、世界的なロックバンドへと認知されるようになりました。

しかし先に触れたように、人事的には大変混乱しており、決して順風満帆な状況では
ありませんでした。その様な”危機”をどの様にして乗り切っていったのか、または
乗り切れなかったのか。その辺りは次回にて。

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