#20 Bill Bruford

イエス、キング・クリムゾン、ジェネシス、ナショナル・ヘルス、UK、と所謂”プログレッシヴロック”とカテゴライズされる、英国を代表するこれらのバンドに関わり、ブリティッシュロックの”生き字引”と行っても過言ではないドラマー、それが今回取り上げる ビル・ブラッフォード(Bill Bruford)です。

1949年生まれ。英国ケント州出身。幼少の頃からジャズを聴いて育ち、自然とドラムに親しむようになる。彼の名を一躍世間に知らしめたのは、言うまでもなく前回までの記事にて触れたイエスへの加入によってです。技術的にこれまでのロックドラマーとは明らかに一線を画していました。それは勿論ルーツにジャズがあるからであり、本人もその旨を公言しています。と、言っておきながら何ですが、技術の部分に関して述べるのは後回しにして、先ず触れたいのはその音色についてです。それまでのドラマー(ジャズ、ロック含めて)は基本的に、エレキギターで当然に行われているような、音色で個性を表現するというアプローチは無かったと断言出来ます。(もっとも普通の楽器はそれが当たり前であり、基本的にはその楽器のナチュラルな音色を最大限に引き出すことが至上命題なのであり、コロコロ音色を変えられるエレキギターや電子キーボードの方が特殊なのですが…)
ドラマーで初めて”意識的に”その音色に個性を持たせたのはブラッフォードが最初です。ちょっとまて!ボンゾのスネアの音や、あまりに強力なキックで歪んでしまった様なベースドラムのサウンドは個性ではないのか?と異論・反論があるのはごもっともです。しかしあれは”結果的に”あのようなサウンドになったのです。ボンゾ、ジンジャー・ベイカー、イアン・ペイス、カーマイン・アピス。皆24~26インチの特大のベースドラムに、22インチのこれまた口径の大きいトップシンバル、ドラムにはミュートなど一切せず、シンバルは床に対して平行にセッティングして減衰(サスティーン)を長くする、といった音作りは彼らがドラムを始めた頃にお手本としたビッグバンドドラマー ジーン・クルーパやルイ・ベルソンといった人たちのセッティングを模倣したものでした。これらは、まだPA環境が全然整っていないスウィングジャズ時代に、大勢の管楽器奏者達に音量で負けないために施された措置でした。それをジンジャーやボンゾ達が模倣し、今日では
ハードロックドラムの定番セッティングとなっているのです。
ただし、一人だけ例外と言えなくもないドラマーがいます。言わずと知れたリンゴ・スターです。タオルミュートなどの独特のアイデアで、ビートルス後期のサウンドにて、それまでのいかなるドラマーとも異なる音色を作り出しました。ただそれは、”ドラマー リンゴ・スターとして個性を発揮してやるぜ!” といった意図ではなく、その時期のビートルズの音楽性から自然と生まれたものでしょう(アルバムで言えば「Sgt.Pepper’s」以降)。それまでは”普通に”比較的ハイピッチの、ドラムの自然な鳴りを引き出すようなチューニングであったのが、後期は重く沈み込むようなローピッチの音色、先述したタオルミュートなど、軽快なロックンロールが主だった前期の音楽性とは、方向性が異なってきたバンドの音楽性に寄与するためのリンゴの試行錯誤の末の結論としての”あの音色”だったのでしょう。

以前BS-TBSで、洋楽の名曲が生まれた背景をドキュメントする番組があったのですが、イエスの「Roundabout」を取り上げた回で、ブラッフォード本人が出演し、あの当時使っていたスネアを紹介し、実際に叩いていました。その映像を見る限りではメーカーの特定は出来ませんでしたが、スティール(ステンレス)シェルのスネアでした。初期はラディックやハイマンを使用していたとのことなので、ラディックのLM-400あたりかもしれないと思っているのですが、知っている人いたらどうか教えてください。
(´・ω・`)
そのスネアの音は非常にハイピッチでありながらも”甘い”音がする、つまりハイのみでなく、ミドル~ローまでしっかり出ているということです。普通ドラムヘッドをただ”きちきち”にきつく張っても、”カッ” ”パッ”という、やたらハイだけの耳障りな音にしかなりません。しかも彼の場合は、オープンリムショット(ヘッドとリム=縁の部分、を同時に叩く。”カン” ”ゴッ”の様なけたたましい大きな音がします)をすることが非常に多く、ともすれば余計に耳障りになってしまいそうなものなのですが、それが全く感じられません。楽器全般に言えることですが、基本的に良い音色と感じるのは、ハイ~ローレンジまでバランス良くなっていることが必須です。勿論ある程度以上のスペックの機材であること、また同じ製品でも当たりはずれもあります。それらを前提として、更にチューニングの妙が彼にはあるのです。言わば”ブラッフォードマジック”とでも呼ぶべき秘伝のチューニングが。そしてこれも一流のプレイヤーに言える事ですが、例えそれまで使っていた機材と異なるものを扱っても、自分の音にしてしまう、こうなるとそのトーンは楽器の良し悪しだけでなく、演奏者の指・手・足、全てに起因するものと言えるでしょう。生半可なプレイヤーが一流のプレイヤーと全く同じ機材・セッティングにしても同じ音にならないのは当然とも言えます。
実際ブラッフォードは80年頃に日本のTAMAを使用するようになりましたが、その音色は基本的に、やはりそれまでと変わらぬ紛うことなきブラッフォードの音です。また、ロートタムをいち早く取り入れ、80年代に入るとこれまた先駆けてシモンズ(電子ドラム)を導入しました。これは勿論、彼が活躍していたフィールドが、プログレッシヴロックという多彩な音色によって成り立っている音楽である、という部分が大きかったのは間違いないことであり、自然と音色にも貪欲になっていったのでしょう。

ここまで偉そうに書いてきましたが、白状しますと実はかなりの部分で、ある方の著書から引用させて頂いております。
※「Basic Method」ベーシック・メソッド 製作 リズム教育研究所 編著 江尻憲和
https://www.dlmarket.jp/manufacture/index.php?consignors_id=13896
私がドラムを始めた80年代中期、ネットなど当然無い時代、ドラミングに関する情報は基本的に活字媒体によってしか得られませんでした。むさぼるように読んだこの教則本。江尻先生(勝手に先生呼ばわりしております…(´・ω・`))のドラミング理論は非常に合理的で、分かり易く、何しろ読んでいて楽しい。その他の著書も含めて、現在の私の血と肉になっているものと思っております。ブラッフォードに関する音色の話はその中のこぼれ話的な一つですが(そのこぼれ話の数々も大変興味深い、”金属にも意識がある?”のくだりは非常に興味をそそられたものです)、ドラムを始める前からイエスやクリムゾンを聴いて、ブラッフォードのドラムに関心を寄せていた私は、「そうか!他のドラマーと何か違うと感じていたのはそこだったのか!!」と納得しました。現在でも電子書籍で入手可能です(上のリンクから)。興味のある方は、というか、ドラムをプレイする人間は必読書と言っても過言ではないと思っております。

今回は音色の話だけでスペースを費やしてしまいました。本当は音色だけでもまだまだ書きたいことは山ほどあるのですが、あまり長くなるとただでさえ少ない読者の方に愛想をつかされてしまいそうなので、涙を飲んでこの辺で。
(´;ω;`)
次回はやっと、テクニック編です。”ビル・ブラッフォードpart2” 乞うご期待。

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