ドラムの基礎テクニックに「ルーディメント」と呼ばれるものがあります。意味は”基本”の様なものらしいです(そのまんまや…)。右左を交互に打つ、オルタネイトスティッキングも”シングルストローク”として立派なルーディメントの一つなのですが、普通ルーディメントというと、もうちょっと小難しいスティッキング・手順のことを指します。代表的なのはパラディドル(変形の手順)やフラム(装飾音符)などです。
ジャズにおいては、その初期からドラミングに取り入れられていましたが、ロック・ポップスのドラムにおいては、あまり馴染みのないものでした。それをこれほどまでに積極的、かつ音楽的に(決していたずらに無理やり取り入れたりせず、必要かつ自然に、と言う意味合いで)ロックドラミングに取り入れ、そして見事なまでに昇華せしめたドラマーは、間違いなくビル・ブラッフォードが最初です。
ジャズドラミングをルーツとするブラッフォードにしてみれば、当然の事だったのでしょうが、イエスのデビューアルバムから既にそのプレイは聴くことが出来ます。特にそれが印象的なフレーズとして最初に聴くことが出来るのは、「Fragile(こわれもの)」のエンディング曲「Heart of the Sunrise(燃える朝焼け)」です。テーマのフレーズのバッキングそのものが高速のパラディドルフレーズで組み立てられており、非常にスリリングなプレイです。そしてその延長・発展形とも言えるのが、#19の記事にて取り上げた「Close to the Edge(危機 )」です。18分超の長い曲ですがとにかく聴いてみてください。
「燃える朝焼け」同様、高速のパラディドルプレイがこれでもかと繰り広げられます。手順はRLRRLL(多分・・・)。00:57秒頃~と、14:15秒頃~にて聴けます。更にこのパートでは、所謂”ポリリズム”(異なるリズムの同居・混在)が駆使されています。
チタチチタタチタチチタタチタチチタタチタチチタタ(12/8拍子の16ビート)
タ ッ タ タ ッ タ タ ッ タ タ ッ タ (4/4拍子での所謂”シャッフル”)
赤で塗りつぶした箇所が2・4拍のアクセントです。上記の二つの異なるリズム、グルーヴが、アンサンブルの中でメンバー全員によって見事にプレイされています。この様なリズムトリックやポリリズムはロックにおいては、私が知る限りでは、本曲にて初めて行われたと記憶しています。ジャズ・フュージョンの分野では、60年代末以降のマイルス・デイヴィス、ウェザーリポート、マハヴィシュヌ・オーケストラなどによって導入されていたかも、というより、あった様な記憶があるのですが、それが思い出せません。
(歳を取るっていやですね・・・(´・ω・`))
もう一つ、彼のプレイにて重要な要素はファンク的な16ビートです。ブラッフォード流ファンクとでも呼べるプレイが存分に堪能できる私のイチ押しはこれです。キング・クリムゾン アルバム「Red」収録の「One More Red Nightmare」。
チャイナシンバルの音色が印象的なリズムパターン、アイデアの”てんこ盛り”の様なフィルイン。実はこの動画は途中でフェイドアウトされていて、これより後に、もう一度テーマのプレイが繰り返され、そこではまた前半とは違うフレーズがプレイされます。
またクラシックや現代音楽における打楽器や、短い期間でしたがキング・クリムゾンのアルバム「太陽と戦慄」で一緒にプレイしたジェイミー・ミューアの前衛的なパーカッションプレイも、彼のプレイにエッセンスとして加えられているのは間違いありません。そして、勿論ブラッフォードといえば言わずと知れた変拍子の使い手であり、これに関しては枚挙にいとまがありません。変拍子プレイは彼の演奏ではいたるところにて聴くことが出来ますが、お勧めするといえばベタな所ですが「太陽と戦慄 パートI」等、また前衛的なパーカッシヴプレイと言えば、#17の記事で取り上げた「Starless」での中間部のソロ、特にライヴアルバム「USA」のヴァージョンが白眉です。
彼の演奏技術に関して、こんな短い文章で語りつくすことは当然不可能です。しかしこのブログがそのほんの一端、さわりだけでも紹介することが出来、彼の素晴らしい数々の演奏に触れるきっかけになることが出来れば幸いです。
09年、60歳になったことをもって、演奏活動からの引退を発表しました。これはかねてから温めていた考えであると語っており、ファンとしては少し早いような気もしますが、本人の熟慮の上の決断なのですから、致し方無い事でしょう。
20回目にしてやっとドラムに関する記事を書くことが出来ました
(次はいつになることか・・・(´・ω・`))。
これにてビル・ブラッフォード編は終了です。