エレキギターの代名詞と言っても過言ではないフェンダー社製ストラトキャスター。この楽器には数多の使い手・名手がいます、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、勿論ジミ・ヘンドリックス。ですが私個人的にストラトキャスターらしさを存分に引き出しているギタリストとして、若干意外と思われるかもしれませんが、この人を挙げずにはいられません。それが前回まで取り上げていたピンクフロイドのギタリスト デヴィッド・ギルモアです。
1946年イングランド生まれ。幼少の頃からギターを始めます。#25でも少し触れましたが、ドラッグの過剰摂取によって音楽活動がままならなくなった初代リーダー・ギタリストであったシド・バレットの後任として、シド在籍中からバンドに加入しました。
ギルモアについて語る前に、ストラトキャスターという楽器についての講釈に少しばかりお付き合いを。51年に世界初の量産型ソリッドギター(=ボディに空洞が無いタイプ。あと厳密に言えば49年には別名で基本的に同じ様な製品が出ていたのですがその辺は割愛)として世に出た「テレキャスター」の後継機種として54年に発売。テレキャスの扱いづらいとされた幾つかの点(それがテレキャスの持ち味と言うファンもいっぱいいます、私も…)を改良したストラトは当初不人気で、フェンダー社は本気で生産の打ち切りを検討したそうです。それを180度変えたのは他ならぬジミ・ヘンドリックスです。エレキギター・メーカーにおけるもう一方の雄であるギブソン社製ギターは、太くて甘い音色を特徴としてジャズギタリストに好まれていたのに対し、フェンダー社はヌケの良い、高音が良く透る、枯れた音色が特徴、カントリーやブルースギタリスト達を客層としていました。それが60年代中期に一変します。ギブソン・レスポールはエリック・クラプトンによって(#8 Crossroadsの記事ご参照)、ストラトは先述の通りジミヘンによって。共にロックミュージックに欠かすことの出来ない楽器の双璧となります。どの位ジミヘンによるストラトの使い方が横紙破りだったかと言うと、ストラトの代表的特徴であるトレモロユニット(ブリッジ下部にあるトレモロアームを動かすことで音程を下げる事が出来る機能)は、当初はカントリーなどで曲のエンディングに和音を軽く揺らす程度の使い方を想定したものでした。ところがジミヘンは”これでもか”と音程を極端に変えるワイルドなピッチダウンやヴィブラートを多用し、有名なエピソードですが、フェンダー創業者であるレオ・フェンダーはそれを観て、「あれ(トレモロ)はあんな使い方をするためのもんじゃない!」と憤慨したとか・・・。
そのストラトキャスターと英国製アンプ「Hiwatt (ハイワット)」からギルモアサウンドは産み出されました。ハイワットは音量を上げても歪みにくい、クリーントーンを身上としたと言っても過言ではないアンプでした。先述のクラプトンによるレスポール&マーシャルのディストーションサウンドが注目を浴びるまで、現在では信じられない事ですが、ギターアンプが音量を上げたときに生じる”歪み”はあまり良くないものとされていたそうです。同じフェンダー社製のツインリバーブなどがクリーントーン向けと良く言われますが、その意味ではクリーントーンを持ち味とするフェンダーギターには、ハイワットとの組み合わせもベストマッチの一つであったかもしれません。
(ただし値段も高い・・・(´Д`))
そしてピンク・フロイドと言えば、前回までの記事でも述べましたが、エコー処理の妙、空間的音響技術の巧みさを売りとしていので、当然ギルモアもリバーブ、コーラス、ディレイといった、ギタリスト用語でいうところの”空間系・揺らし系”のエフェクターも重要なファクターでした。ただし私はエフェクターマニアではありませんし、その辺りまで述べるとかなり冗長になってしまいますので割愛します。
またギルモアのギタープレイを語る上でか欠かせないのは、スライドギター(スティールギター)です。ブルース、カントリー、ハワイアンなどでは欠かせないものでしたが、ロックミュージックではデュアン・オールマンやライ・クーダーによって取り込まれました。通常のギターをスライドバーで弾く奏法と、ハワイアンなどで御馴染の横に置いて弾くスティールギターがありますが、当然どちらもプレイしたのでしょうが、ギルモアは膝の上に置いて弾ける小型のラップスティールを好んで使っていたようです。
決して所謂”速弾き”をするプレイヤーではありませんが、情感溢れるチョーキングやヴィブラート、ピッキングの微妙なニュアンス、場面場面での絶妙なトーンセレクトなど、ブルースをそのルーツとする非常に感情表現に長けたギタリストです。”速く、複雑、かつ正確に”といったファンダメンタルなテクニックが必要無いなどとは決して思いません。しかし何でもかんでも、速けりゃイイのか?難しけりゃイイのか?と所謂テクニック至上主義を考え直させてくれる、ワンアンドオンリーなプレイヤーの一人であることは間違いありません。
また、あまり取り上げられない面かもしれませんが、ギタリストとしてだけではなく、その朴訥・無骨なスタイルを持った独特なシンガーとしての側面、そして全く無名であったケイト・ブッシュという、オリジナリティという点においてはイギリスが世界に誇る超個性的女性シンガーを発掘し、世に売り出すことに成功した、非凡ならざるプロデューサー・音楽家としての顔もあります。
次回パート2では、具体例を挙げてその”ギルモアワールド”をご紹介したいと思います。