70年10月4日、滞在先のL.A.のホテルにてジャニス・ジョプリンは亡くなりました。享年27歳。握られていた金銭や、死因がドラッグ、または睡眠薬の過剰摂取のいずれなのか、はっきりとしなかったことから様々な憶測を呼び、ゴシップ誌に至っては暗殺説などのトンデモ話まで飛び交い、殊更ミステリアス、というか興味本位に売文家達によって書き立てられました。これに関しては、ジャニスの音楽性に関係のない事柄なので割愛します。興味のある方はネット上で幾らでも転がっていますのでそちらをどうぞ。
亡くなる前月からレコーディングが開始され、結果的に遺作となった「Pearl(パール)」。翌年1月にリリースされ全米9週連続1位という大ヒットを記録し、さらにシングルカットされた「Me and Bobby McGee(ミー・アンド・ボビー・マギー)」もNo.1ヒットとなりました。そのあまりにも早すぎる突然の死が話題を呼び、ビッグセールスの一因になったことは決して否定は出来ませんが、やはり本作の内容の素晴らしさが何よりも大きいのは間違いありません。生前のオリジナルアルバム(ビッグブラザー含めて)は4枚しかないジャニスですが、本作を最高傑作とするのは衆目の一致するところです。同年6月より活動を開始した彼女の新バンド”フル・ティルト・ブギー”のツボを押さえた素晴らしい演奏、オリジナルないしカヴァー楽曲のセンス、ドアーズを世に売り出したことで有名な敏腕プロデューサー ポール・A・ロスチャイルドがプロデュースに付いた事、そして何よりジャニスの素晴らしい歌、全てが奇跡的とも言えるようなまとまりを見せた結晶としてのアルバムです。
それまでバックバンドに恵まれない、と悩んでいたジャニスが(これにはジャニスの側にも問題はあったようですが)、”ようやく理想のバンドと巡り合えた!”、と喜々として周囲に語っていたと伝えられているのがこのフル・ティルト・ブギー・バンド。確かなテクニックと音楽センスに基づき、バッキングに徹するところはシンプルに徹し、場面場面のソリなどではジャニスの歌を大いに盛り上げ、間奏のソロなどでも決してテクニックのひけらかしにならない、楽曲に沿った音楽的なプレイを聴かせるといった、まさしく”歌モノ”のバックバンドとしてお手本のようなバンドでした。
オープニング曲「Move Over(ジャニスの祈り)」、先述のシングルヒットとなった「ミー・アンド・ボビー・マギー」、その死によって歌入れが叶わず、結果的にインストゥルメンタルナンバーとなってしまった「Buried Alive In The Blues(生きながらブルースに葬られ)」、それとは対照的に無伴奏による歌のみを収録した「Mercedes Benz(ベンツが欲しい)」はあえて伴奏をかぶせずに、そのまま歌のみのテイクを採用したロスチャイルドの英断が称賛されます。
ここからは全く個人的な好みで本作をご紹介します。ジャニスの歌唱において私が白眉と思う甲乙付けられない二曲がありますので、この際ですからどちらも取り上げます。
「Cry Baby(クライ・ベイビー)」。他の女の下へ行ってしまった男が、結局その浮気相手にフラれ、自分のところへ戻ってきた時にかけた言葉。女性の皆さんからすると、「ざけんじゃないわよ!ゴルァ!ヽJ(*`Д´)しノ」と言いたくなるような内容でしょう。ごもっとも。ですからその内容についてはこれ以上言及しません…(((((゚Å゚;))))) もう一曲は、
「A Woman Left Lonely」。ジャニスは勿論リズミックな曲も素晴らしいですが、その真価が発揮されるのは絶唱型のバラードではないかと私は思っています。この両曲は本作、というより全キャリアを通して、その歌唱においてベストトラックではないでしょうか。
世の中にはジャニスの歌を受け付けない人達も当然います。重い・疲れる・金切り声で叫ぶように歌うそのスタイルがダメ、という意見も見受けられます。勿論好みは人それぞれなので致し方ありません。私も元来、歌唱・器楽演奏ともに過多な感情表現のプレイは苦手な方で、何かと言えばすぐシャウトするヴォーカル、ブローするサックスなどは良いと思えず、抑制が効いた中に少ない場面ではあれど、ここぞという箇所で感情表現を聴かせる、というメリハリが付いたプレイの方を圧倒的に良しとする方です。しかしジャニスだけは昔から別でした。勿論ジャニスだって終始シャウトしていた訳ではないですが、その過剰とも言える感情のこもった歌が耳にさわる、疲れる、と思った事は今まで一度もありません。何故だろう?と、これまで長きに渡って疑問に思っていました。”テキサスでの青春期における満たされない、疎外感・孤独感がその歌にソウルを吹き込んだのだ”とか書けば文章的には格好が付くのでしょうが、表現をする側の人間は多かれ少なかれ、世間一般のライフスタイルを送る事が出来なかったり、周囲から浮いていたりするものなので、ジャニスにだけ当てはまる事ではないでしょう。不幸な生い立ち・運命などで語れば、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、エディット・ピアフなど上には上がいます(彼女達もそれだけで名シンガーになったという訳ではないですが…)。
結論としては何故だか分からない。あえて言うなら”ジャニスだから”、となってしまいました。(つまんない答えですね。もうちょっと気の利いた事書けないのでしょうか・・・(´Д`))
先程、その歌唱において白眉と思う二曲をご紹介しましたが、バンドのアンサンブルを含めて、私がベストトラックとする曲をご紹介してジャニス・ジョプリン編を締めたいと思います。「Half Moon(ハーフ・ムーン)」。本作においては地味な存在の楽曲かもしれませんが、この素晴らしいグルーヴ感、そしてその上で水を得た魚のように歌うジャニスが印象的な曲です。先述の通り、理想のバンドと巡り合えた、と喜んでいたジャニスが、喜々として飛び跳ねるように歌っている姿がヴィジュアルとして浮かんでくるようなジャンプナンバー。しかしながら、その後わずかひと月と経たずしてその早すぎる死を迎えた事を思うと余計に感慨深いものがあります。
最後にちょっとイイ文章で締めたいと思って、無い頭をひねくりまわしてみたのですが、自分の文才の無さを再確認するだけでした。
… (╥_╥);
陳腐な言い方ですが、ジャニスが亡くなってからもうそろそろ半世紀が経とうかという年月が過ぎています。しかしながら、ジャニス・ジョプリンという存在は折に触れ取り上げられます。それはロックファン達の心に生き続けているという事に他なりません。比較的若い世代の、当然リアルタイムでジャニスを知らない(ジャニスの没年に生まれた私もそうですが)シンガーにもジャニスに憧れてその道を志した、と言う方もいます。今後もそういう人達は生まれ続けることでしょう、いや、是非そうであって欲しい。このブログがそのほんの僅かな一助になることを願いながら・・・