#51 Around the World in a Day

「パープル・レイン」のビッグセールスにより、プリンスは自らのレーベルである”ペイズリー・パーク・レコード”を設立します。これでこれまで所属していたワーナー・ブラザーズにあれこれ言われずに自身の望む作品が創れる、と思ったのでしょうか、彼はとんでもないものを創ってしまいました。勿論自身のレーベルとは言ってもワーナー傘下であることは変わりないのですが、それでもワーナーからの”横やり”はかなり少なくなったそうです。前作の超大ヒットによって、天下の大レコード会社ワーナーもプリンスには一目置くというか、慮った対応をしなければならない状況だったようです。前作からわずか10ヶ月余りで新作「Around the World in a Day」をリリースします。

 

 

 


”続・パープル・レイン”を作れば再度のメガヒットは間違いなかったでしょう。しかし彼の様な天才肌にとっては全くとまでは言いませんが、そのような事にはあまり関心が無かった、というか無くなってしまったのかもしれません。出来上がった新作は世間の期待を(良い意味で)裏切るものでした。

80年代版「サージェント・ペパーズ」とでも呼ぶべき本作。私はリアルタイムだったので断言出来ますが、当時、ファッション等の他分野では違ったかもしれませんが、少なくともロック・ポップス界において、60年代後半におけるサイケデリックのリバイバルブームなどはありませんでした。プリンスの新作がまさかこの様な内容とは…、皆があっけにとられたのです。
”パープル・レイン第2弾”を作っていたならば、評論家達はまた”前作に引き続き売れ線に走った…”とか、”天才プリンスと言えど商業戦略には抗えなかった”などとこき下ろしていたでしょう。前回の記事にて、少なくとも日本の評論家筋が前作に漂うサイケデリック臭には触れていなかったと断言できると大見得を切りました。その根拠は、皆が本作の内容に驚愕し、そして絶賛したのです。もしも「パープル・レイン」に本作の予兆を感じ、その事を発言ないし文章化していたとすれば、鬼の首を取ったように”それ見た事か!俺はこれを予言していたぜ!!”と自画自賛していたことでしょうが、当時の記憶でも、また今回かなりネット上で検索してみてもそれらは見受けられませんでした。売れっ子は批判するもの、という様なスタンスのロックミュージック売文家達も、流石にこれは見事と認めざるを得なかったのです。

今調べてみると、むしろ海外での評価の方が様々だったようです。日本の評論家は一般ウケしそうにない作品を作った方が高評価するきらいがあるようですが、欧米ではコマーシャリズムも大事な要素と捉えているのかもしれません。またプロモーションにもあまり力を入れず、1stシングル「Raspberry Beret」がシングルカットされたのもアルバムリリースより1ヶ月後でした。そもそも前作から1年も経ていないのに新作を出すということは営業戦略上好ましい事ではありません。前作をきっちり売り切って、あれ程のメガヒットであれば、シングルも出せるだけ出して、きっちり収益を回収したうえで、その後に次作の制作及び販売促進に取り掛かるのが通常です。80年代のプリンスは楽曲やアイデアが湧き出てきてしょうがない様な状態だったのでしょう。異常とも言えるハイペースでアルバムをリリースしていきます。「Parade」(86年)、「Sign o’ the Times」(87年)と従来の音楽性から別方向へ向かった様な作品へと変容を遂げていきます。本作のエンディングナンバー「Temptation」は、「Parade」の音楽性を既に表していました。R&R、R&B、ブルースといったルーツ的なアメリカンミュージックから、フリージャズやアヴァンギャルドミュージックといった要素までを含んだ8分超のこの曲は、その後の布石の様なものだったのかもしれません。

以前の記事#2にて、ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」を取り上げましたが、その中で評論家の萩原健太さんによる”これはロックではなく、その時点におけるブライアン・ウィルソンなりのアメリカンミュージックの集大成では…”、といった言葉について触れました。
全くの私見ですが、この時期のプリンスは60年代半ば~後半におけるブライアンに少し相通じる様な気がします。「ペット・サウンズ」~「スマイル」にて既存のロック・ポップスといったカテゴリーには収まり切らなくなってしまったブライアンの溢れ出てくる創作意欲。80年代半ば~後半においてのプリンスもこれに近い感覚だったのではないかと私は勝手に思っています。
90年代以降は必ずしも順風満帆といったミュージシャン活動ではなくなったようです。詳しくはウィキ等をご参照ください。

亡くなる前年のグラミー賞にて、プレゼンターとして壇上に立った彼は、『アルバムって覚えてる?』というスピーチを残しました。00年代からダウンロードそしてストリーミングへと、音楽の購入の仕方が劇的に変わり、楽曲単位で買うことが出来るようになったため、アルバムを丸ごと購入せずに聴きたい曲だけを買えるようになりました。これの功罪については特に言及しません。ただ、60年代半ばから、「ペット・サウンズ」や「サージェントペパーズ」をはじめとして、アルバムがただ単にシングルないしは出来の良い楽曲の寄せ集めでなく、それらが同一のアルバムに収録された事、さらにはその曲順やジャケットデザインまでを含めて意味を持たせた先達たちの功績(勿論プリンス自身を含めた)を忘れて欲しくない(幾分皮肉も混じっていたかもしれませんが…)、という思いから先のスピーチに至ったのではないでしょうか。

以上で3回に渡ったプリンス回は終わりです。それで、これからしばらくは今回取り上げたプリンスが全盛期であった時代でもある80年代の音楽を中心に書いていきたいと思います。テレコ(ラジカセ)・FM雑誌・カセットレーベル・エアチェック、そしてLPレコード等々…
私を含めた40代後半から60歳位までのオッサン世代にとっては生唾ゴックンものの記事を書いていきます、乞うご期待・・・ あっ、念の為言っときますが、生唾ゴックンものといってもエッチなやつじゃないですよ…
わかっとるわ!!! ━━(゚Д゚#)━━(…とでも突っ込んどいて下さい…)

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