冒頭は、前回長くなりすぎて書き切れなかった話から。
「I Can’t Go for That」は歌詞も一筋縄ではありませんでした。ザックリとした内容は、『君の望むものはなんだってしてあげる、けど、そいつは無理だよ。それだけは勘弁してくれ俺にはそれはできないよ』。概ねこの様な歌詞です。当然男女間の事柄を歌っているものと一般的には捉えられています。勿論その意味合いにも取れるように書かれたのでしょう。ところが、ジョンは14年にあるインタビューにて語りました。『実はあの歌詞はミュージック・ビジネスについて書いたんだ。レコード会社・マネージメントサイドに左右されるのではなく、自身の創造性に正直になるべきだ、と。』30年以上経って驚きのカミングアウトです。ここから先は全くの推論です、よろしければお付き合いください。
キッス・オン・マイ・リストの大ヒットによって、周囲は再びあの類の曲を出せば売れる、と考えるでしょう。これは商業音楽ですから致し方ありません。二人にも、極端な言い方をすれば次作は全曲キッス・オン・マイ・リストの様な曲で、と望んだかもしれません。実際アルバム「プライベート・アイズ」はブラックミュージック色のナンバーは減っています(私見ではA-②、③、B-⑤の3曲)。しかしすべてをポップソングにすることは出来なかったのです。まさしく”そいつは無理だよ、それだけはできないよ”、と。「I Can’t Go for That」は男女間を歌った様に見せかけた、ショウビズ界へのアンチテーゼだったのではないでしょうか。
また本作では、アレン姉妹の活躍が目立ちます。それまではアルバムにつき1~3曲だったのが、11曲中7曲に関わっています。彼女たち(特にジャナ)はポップソングをつくる才に長けていたようです。これにも周囲から「サラとジャナの力をもっと借りたらイイんじゃない?」、という提言というか誘導があったのでは、と勘繰ってしまいます。もっとも単純に、アルバムを出すのにダリルとジョンだけでは曲が足りなかったから、というのが一番の理由だったかもしれないですが…
82年10月、アルバム「H2O」をリリース。1stシングル「Maneater」も当然のように全米No.1。この曲は所謂”モータウンビート”と呼ばれるリズムで、代表的なものはシュープリームズの代表曲の一つである「You Can’t Hurry Love(恋はあせらず)」(66年)。数多くのミュージシャンにカヴァーされているあまりにも有名な楽曲ですが、私の世代だとフィル・コリンズによるカヴァー(82年)の方に馴染みがあります。80年代前半はこの手の曲が結構流行りました。ビリージョエル「Tell Her About It(あの娘にアタック)」(83年)、カトリーナ&ザ・ウェーブズ「Walking on Sunshine」(85年)、スティーヴィー・ワンダー「Part-Time Lover」(85年)等々。日本では原由子さんが83年にリリースした「恋は、ご多忙申し上げます」(曲は桑田佳祐さんによるもの)などがありました。
今回のテーマである2ndシングル「One on One」。ダリルが自身の作において最も気に入っていると公言している曲です。「I Can’t Go for That」同様に機械然としたリズムマシンによるビートの上で展開される楽曲ですが、こちらはだいぶ印象が異なります。無味乾燥なものとはならず、ほんのりとした温かみを感じさせる楽曲です。バンドのベーシスト トム”Tボーン”ウォークと一緒にいる時にアイデアが浮かんだとの事。ウォークの素晴らしいベースラインが特筆に値すると共に、ダリルのヴォーカルはやはり見事としか言いようがありません。前回「I Can’t Go for That」を”クールでホットなソウル”と形容しましたが、本曲は”クールかつハートウォーミングなソウルバラード”といったところでしょうか。本曲の歌詞もまた非常に興味深いものです。一聴するとバスケットボールと恋愛事をかけた様な内容。『チームプレイ(グループ交際みたいな意か?)はもうウンザリだ。一対一で、今夜君とプレイ・ゲームをしたいんだ』かなりエロティックな意味に取れます。勿論その意味にも引っ掛けたのでしょうが、後のコメントにて実はコンポーザー・ミュージシャンとしてのスタンスを歌ったものだと語っています。ジョンやサラ、ジャナとの共同作業がイヤだったとかいう訳ではなかったのでしょうが、一人の表現者としての自身を確立したい、といったくらいの意味合いを含ませたのでなかったかと思われるのです。この意味においての”君”は「音楽」に他ならないでしょう。ダリルは若い頃、外で遊ぶよりも本を読むことが好きだった、という文学少年・青年であり、彼の創る歌詞にはこの様な、先述の「I Can’t Go for That」もそうですが、ダブルミーニング、裏の意味を持たせたものがしばしば見受けられます。「キッス・オン・マイ・リスト」もラブソングの様に思えますが、実はアンチラブソングだ、と本人が後に語っています。
3rdシングル「Family Man」。英国ミュージシャン マイク・オールドフィールド作のカヴァーです。オールドフィールドの名前は知らなくても、映画「エクソシスト」のテーマ、と言えば殆どの人はピンとくるのでは。あの印象的なフレーズは「チューブラー・ベルズ」(73年)のイントロ部分です。実は映画においては当初無断使用で、しかも勝手にアレンジされたもの。当然もめるのですが、結果的に映画の大ヒットにより皮肉にも「チューブラー・ベルズ」はベストセラーを記録することとなります。「Family Man」は「Five Miles Out」(82年)に収録されている楽曲。「サラ・スマイル」の頃や、「キッス・オン・マイ・リスト」以降のホール&オーツしか知らなければ、なぜ彼らがイギリスのプログレ系ミュージシャン マイク・オールドフィールドの曲を?、と首を傾げたでしょう。しかし70年代後半におけるダリル達の活動を見れば本曲の起用は全く違和感のないものです。「プライベート・アイズ」の大ヒットによって、この頃には彼らのレコード会社やマネージメントサイドへの発言力も増していたのではないかと思います。アルバム「H2O」は前作よりも実験色が強くなっていますが、時代の勢いもあったのでしょうけれども、本作はホール&オーツにおいて最も好セールスを記録したアルバムとなりました。
ホール&オーツ回はもうちょっと続きます(いつまで続くのかな・・・(´・ω・`))。