前回からの続き、ジェフ・ポーカロ回その2です。
おそらくジェフのプレイにおいて最も取り上げられる事の多い4thアルバム収録の「Rosanna」。#62でも触れましたが、この曲自体大ヒットシングルでありTOTOの代表曲の一つであるのですが、ジェフのドラミングを語る上でも大変重要とされるものです。なのですが・・・
あまりにも色々な所で取り上げられており、なにしろジェフによる唯一の教則ビデオ「Jeff Porcaro – Instructional Drum」において、本人がそのドラミングについて語っています。現在はYOUTUBEで観れてしまいますので(なんと良い時代なのでしょう… (*´▽`*)…)、興味のある方はそちらを。ただし「ロザーナ」に代表される”シャッフルビート”というのはジェフのプレイを語る上で欠かせないものなので、今回は他の曲で私が重要と思うものを。そもそも”シャッフル”とは何ぞや?、と思われる方も多いでしょう。どうしても止まらない時は誰かに驚かしてもらう………それは”しゃっくり”!!!
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所謂8ビートと言われるリズムは『タタタタタタタタ』と均等なビートですが、俗に”ハネる”と表現されるビートがシャッフルです。口で言えば『タッタタッタタッタタッタ』という感じ。スキップを踏む様なリズムとでも言えば分かり易いでしょうか。ドラムにおいてはこれを大抵右手でハイハットないしはトップシンバルで刻みます、『チッチチッチチッチチッチ』という感じ。「ロザーナ」を含めたジェフのシャッフルの特徴はこの右手のシャッフルの合間に入る”インサイドスネア” ”ゴーストノート”と呼ばれる左手によるショットにあります。上の『ッ』の所に聴こえるか聴こえないかくらいの音量でスネアをショットします。『チタチチタチチタチチタチ』という連続したパターンに2拍・4拍には強いスネアのアクセントショットが入ってあのフレーズが完成します。『チタチダタチチタチダタチ』、「ロザーナ」の様な16ビートのシャッフルならスネアの入る間隔が倍に長くなり『チタチチタチダタチチタチチタチチタチダタチチタチ』といった具合です。
「ロザーナ」以外でジェフによるシャッフルのプレイで私が推すのは、前回も触れたボズ・スキャッグスの「Silk Degrees」に収録の「Lido Shuffle」。先述のインサイドスネアはとにかくその音量がポイントで、大きすぎてはダメ。かすかに聴こえる位がリズムをグルーヴさせるコツであり、ジェフはそれが絶妙です。技術的には2・4拍の強いスネアショット直後のそれが他のインサイドスネアと均一な音量・タッチで叩かれなければ流れるようなグルーヴになりません。本曲では曲の展開に伴うニュアンスの付け方も絶品であり、はじめはタイトに、盛り上がるにつれてどんどんラフになってきます。ハイハットシンバルのニュアンスの付け方に特にそれが顕著であり、きっちり踏み込んで叩く・少しだけ踏み込みを甘くする・半開きにしてシャーシャーと鳴らす(所謂”ハーフオープン”)。右手もシャッフルのリズムと、シンプルな4分音符を使い分け、さりげない所で楽曲をより良いものに仕上げるプレイがなされています。
シャッフルのインサイドスネアがジェフの専売特許かと言うと勿論その様な事は無く、多くのドラマーが行っています。先述の教則ビデオの中で本人が語っている事ですが、ジェフは偉大なるセッションドラマーの先達の一人であるバーナード・パーディから参考にしたそうです。”パーディ・シャッフル”という言葉がある程にパーディもシャッフルの名手でした。スティーリー・ダンによる80年発表の名作「Gaucho」のオープニング曲「Babylon Sisters」などにおいてそれを聴くことが出来ます。ジェフ・ポーカロ回ではありますが、パーディのプレイも参考のために張ります、是非ご一聴を。
ジェフはサンバをはじめとするラテンフィールのリズムも得意としました。TOTOの4thアルバムからシングルカットされ、No.1ヒットとなった「Africa」が最も知られているかと思います。ラテンフィールを得意としていたドラマーと言えばスティーヴ・ガッドも有名ですが、ジェフのそれはガッドよりもシンプル・タイトなプレイでした。どちらが良い・悪いではなく、ただ”違い”があるだけです。偉大なるジャズフュージョン・ギタリスト ラリー・カールトンの70年代フュージョンを代表する1stソロアルバム「Larry Carlton」。本作に収録されている「Rio Samba」はラリーの重要なライヴレパートリーであるとともに、ジェフのラテンフィールを象徴する楽曲だと私は思っています。
とにかくシンプルです。普通のロック・ポップスにおける16ビートに比べてスネアのアクセントの位置がほんのちょっとずれただけ、と言ってしまえばそれまでです、なのですが・・・
テクニックが必要ないなどとは毛頭思いません(勿論ジェフはやろうと思えば複雑なプレイも出来ました)、しかし本曲のグルーヴは言葉では説明のしようがないのですが、ジェフにしか出来ないものなのです。ちなみに本曲はテンポがどんどん速くなっていきますが、多分意図的なものでしょう。中盤のキーボードソロ辺りが最も速くなり、エンディングでは遅くなっています。ジェフのタイプキープは正確無比とされますが、結果として音楽的に良ければあまりそれにはこだわらなかったのでしょう。アメリカ人は割とそういう所があるようで、日本人やイギリス人の方がこだわるみたいです。「テンポがハシった?それがどうした!グッドミュージックならOKだろ!AHAHA!!」みたいな…
ジェフの技術的な面で特筆されるものとして、ベースドラムによる高速の2連打(ダブル打ち)もよく挙げられます。セットドラムではベースドラム(大太鼓)を床にセッティングし、フットペダルを踏んでそれを打ち鳴らすのですが、速いダブル打ちは技術的にとても難しいものです。ジェフはこれを得意とし、先述の教則ビデオにおいても自ら解説しています。人によってこの場合の奏法は様々ですが、ジェフはスライド奏法と呼ばれるものを使いました。1打目と2打目をペダル上で少しずらして踏む、ペダルの上をスライドされる様に演奏するのでこう呼ばれています。一般的なのは演奏者から見て手前側から向こう側、つまりベースドラム側へ押し出すタイプで、ジェフもこれでした。逆に手前側に引くタイプ、横にずらすタイプ、勿論踏む位置は全く動かさない人もいます。ジェフの場合、脚全体の動きは最小限で、足だけが平行移動している様に見えます。非常にスムーズかつ高速な連打で、ビデオでは9分過ぎ辺りで観れます。このダブル打ちはジェフのプレイの至る所で聴くことが出来ますが、極めつけは何と言ってもこれ。
グレッグ・マティソン・プロジェクトに参加した際の81年のライヴが「The Baked Potato Super Live!」として翌年にレコード化されました。スティーヴ・ルカサーも参加しており、二人とも普段はセッションマンとしては勿論の事、TOTOにおいてもこの頃は抑制の効いたプレイが多かったので、81年12月にL.A.のクラブ『The Baked Potato』で行われたこのライヴでは、共に弾きまくり・叩きまくっています。本作から「Thank You」を。5分50秒過ぎ辺りからのプレイに注目してください、圧巻の一言です。
ジェフ・ポーカロ回はまだ続きます。