前回も触れましたが、イアン・マクドナルド アル・グリーンウッドが脱退した事により
(実際ははじめのうちはレコーディングに参加していた)、4thアルバム「4」からその音楽性も
変化したと一般には言われます。前作がロック色の強いアルバムであったことと、シングルヒットした
「Waiting for a Girl Like You(ガール・ライク・ユー)」の印象が強いせいもあってか、ポップに
なった、バラードで売れ線を意識するようになったなど、毎度の如く(特に日本の一部の評論家による)
批判的な評価がなされたそうです。二人の脱退が影響を及ぼした事は間違いありませんが、
その音楽が軟弱になったなどとは私は全く思いません。
前回の枕の部分で話に出した「ガール・ライク・ユー」のチャートアクションについてですが、ある意味
No.1ヒットとなるよりもかえって後世に語り継がれる結果となったのかもしれません。ちなみに
2位どまりだったのはビルボードとキャッシュボックスであり、ラジオ&レコードでは1位を記録していて、
逆にオリビア・ニュートン・ジョンの「フィジカル」が2位どまりだったそうです。
フォリナーにとって最大のヒットにて代表作「4」。本作について昔は1000万枚以上のセールスを
記録したと言われていて、現在本作について検索してみるとその売り上げは1500万枚に及んでいる
との記述が幾つかのサイトで見られました。80年代で既に1000万以上だったのだから、今日ではその位のセールスに達していてもおかしくはないかと私も思っていたのですが、調べてみるとこの数字には疑義がある
事が判りました。1500万枚という数字の元になったのは、日本版ウィキのフォリナーに関するページに
記述されているダリル・ホールのコメントの様です。#58でも取り上げた「プライベート・アイズ」を
レコーディングしている時期に、隣のスタジオでフォリナーも「4」の制作に取り掛かり始めたらしく、
ホール&オーツが録音を終えツアーに出て、また同じスタジオに戻り次作の制作を始めた時点でも、
彼らは隣でまだ「4」のレコーディングを行っていた。しかしそれは自身達の「プライベート・アイズ」の
15倍も売れたのだけれど… つまりそれだけ時間がかかった作品の様だったけど、自分達よりも爆発的に
売れたんだけどね、というちょっとした笑い話。このインタビューがいつ頃、何処でのものなのかは調べても
判りません。「プライベート・アイズ」もプラチナディスク(米では100万枚)を獲得していますので、
その15倍という事で1500万枚という売り上げの根拠になったのだと思います。このコメントが本当に
あったものだとすれば、ダリルが単に間違っていただけで、その位「4」はバカ売れしたという例え話です。
しかし英語版のウィキを見ると、1500万枚はおろか1000万以上という記述もなく、あるのは
RIAA(全米レコード協会)が認定した”6 Platinum”(つまり600万枚)の記述です。
ウィキも絶対ではないので、念の為RIAAのサイトに行って確認しましたが(物好きだね…(´・ω・`))
91年8月に『6x Multi-Platinum』と認定されていますので、これは信頼できる数字でしょう。
欧州各国では英での30万枚を筆頭に数十万から数万枚(ヨーロッパではこれでも大ヒットです)のセールス
ですので、1500万は勿論のこと1000万枚というのも怪しくなってきます。実際は世界中で
700~800万枚といったところだと思われます。それでもビッグヒットには変わりませんが・・・
84年12月、「Agent Provocateur」を発表。1stシングル「I Want To Know What Love Is」が
初の全米No.1シングルとなります。「ガール・ライク・ユー」の無念を晴らしたと言った所でしょうか。
本作は基本的に前作の流れを汲むもの。しかし81年と84年、たった3年の差ですがこの時期ポップス界は
楽器の音色・レコーディング技術に関して目覚ましい変化が起こっていたことはこれまでの記事でも
触れてきましたが、本作も例外ではなく特にシンセやドラムの音色がこの時代らしいものになっています。
1stシングルがバラードだったこともあってか、先述の様な評論家達による批判がこの時もあったように
記憶しています。人の創ったものにケチをつけるだけのカンタンなオシゴトです(´・ω・`)………
https://youtu.be/Vu8jxYhAb2w
オープニング曲「Tooth And Nail」。骨のある硬派なロックナンバーです、売れ線とかほざいていた
人達の気が知れません。もう一つガッツリとしたロックチューンを、A面ラスト「Reaction to Action」。
https://youtu.be/ihEOu9a3T4I
ミック・ジョーンズは決して速弾きを得意とするテクニカルなギタリストではありませんが、硬質で
ありながら粘り気の様なものも併せ持つ非常に個性的なプレイヤーだと思います。この点では
AC/DCのアンガス・ヤングに通じるところがあるように感じています。どちらもギブソン使い
(ミックはレスポール、アンガスはSG)という共通点もあり、パワフルなトーンはそれに起因する
所も大きいでしょう。そういえばギブソンは破産してしまいましたね、無理な事業多角化が裏目に
出たらしいですが、ギター事業は継続するようです。高くて手は届きませんが………(´Д`)
これだけのビッグセールスを誇ったフォリナーですが、よく同じジャンルにカテゴライズされる
ジャーニー、スティックスなどと比べると日本での知名度はいまいち低いものでした。
80年代までは情報源が雑誌・ラジオ・テレビと限られていたため、それらで取り上げられないと
売れないという側面があったためでしょう。
オリジナルメンバーはミックのみとなりましたが、現在でもフォリナーは現役です。40年以上に
渡り一度も解散せず活動を続けており、ビーチ・ボーイズ、ローリング・ストーンズが
ロック・ポップス界における現役最古参ではありますが、フォリナーは彼らに次いで継続した活動を
歩んできた数少ないバンドでしょう。懐メロを期待するリスナー向けのバンド、の様な酷評をする
人達もいますが、続けても続けなくてもケチをつける人はいつの世にもいるものです………
懐メロ、大いに結構! 時が経てばどんな最先端でもいつかは懐メロになる日が来るのですから。