スティングはポリス初期の段階からソロ活動を見据えていたらしいです。実際アンディ・サマーズにも
その様な事をほのめかすことがあったそうです。何しろ ”あのルックス” で ”あの声” ですから、世間や
マスコミの注目がスティングに集まるのは仕方がありませんでした。ポリス以前はジャズロックの
バンドに在籍していた事もあってか、その音楽性はロックにこだわらない様でした。対してスチュワート・
コープランドはあくまでロック志向だったので、意見が対立する事も少なくなく、また性格的にも
合わない所があったようです。
80年10月、3rdアルバム「Zenyatta Mondatta」を発表。本作からのシングル「Don’t Stand So Close to Me(高校教師)」が全英1位、上の「De Do Do Do, De Da Da Da」は全英5位と本国では勿論の事、
アメリカでもTOP10入りし、アルバムも全英で1位、全米でも5位を記録し、世界的成功の始まりと
なった作品です。
前2作にあったストレートなロック・パンク色は薄れ、楽曲的バリエーションに富むようになってきました。
これを良しとするか否かは人によって分かれる所でしょうが、バンドの転換点となったのは間違い
ありません。
本作に収録の「Shadows in the Rain」。スタジオ盤ではエコープレックス(テープエコー)を用いて
ギターの音を加工し、サウンドエフェクト的にそれを加えています。上はライヴヴァージョン。
ライヴでスタジオと同じ音を再現するのは困難という事で、代わりにボリューム奏法(ピッキング時は
音量ゼロで、徐々に上げていく。バイオリンの様なピッキング時のアタック感がなくなったサウンドが
得られます)などを用い、これにより何とも言い難い不思議な効果を得ることに成功しています。
サマーズのギタープレイの特色として挙げられるのは、エフェクター類の効果的な使い方です。
ギター用語で言う所の ”空間系” ”ゆらぎ系” と呼ばれる、ディレイやコーラスなどが代表的です。
ポリス結成当初からしばらくは、先述のエコープレックス(テープエコー)を使用していたとの事。
遅延素子を用いたアナログディレイ、デジタル回路によるデジタルディレイよりもっと以前の、
弾くと同時に磁気テープに録音され、それを時間差で再生するという、今から考えるとえらく
アナクロなエフェクターです(ですがこの音が良い、と今でも愛用者が絶えないそうです)。
サマーズの影響を受けて、80年代以降はこの様なサウンドが一般的になりました。U2のエッジ
などはその筆頭でしょう。余談ですが前回触れたサマーズの自伝において、エッジはその序文を
書いています。
これも前回述べたことですが、サマーズは60年代からエリック・クラプトンらと交流がありました。
素晴らしいブルースギター、アドリブプレイヤーである事は認める一方で、自分は彼の様なスタイルは
取らない、と決めていたそうです。ポリス時代には、特にライヴにおいて、クラプトンの様な
長尺の即興演奏は ”前近代的” と考え、間奏部分については全く別のアプローチを行いました。
その顕著な例が上のライヴにおける「Shadows in the Rain」なのです。
ロックにおける即興演奏を決して否定する訳ではありません(言っときますが、私、クラプトンは
鼻血が出る程好きです。#8~#12ご参照)。しかし所謂 ”指クセ” に頼ったアドリブプレイに限界を
感じたプレイヤー達がこの当時現れてきたのは事実です。その筆頭がサマーズやエッジだったのでしょう。
布袋寅泰さんも同様の考えをお持ちの様で、ギターソロは必ずしも入れなくて良い、と、何処かで
仰っていたそうです。ニューウェイヴ以降、この様なポップミュージックに対する新しい考え方を
持ったプレイヤーが増えていったのは興味深い事です。
81年10月、4thアルバム「Ghost in the Machine」をリリース。バンド内の不協和音は益々大きくなって
いた様なのですが、蓋を開けてみれば前作を凌ぐ大ヒット。全英1位・全米2位(6週連続)を記録します。
上の「Every Little Thing She Does Is Magic(マジック)」はシングルカットされ全英1位・全米3位
にチャートイン。スティングが用意したデモは、収録版よりもシンセを多用したプログレのようなサウンド
だったらしいのですが、二人が賛成せず、この様な形に落ち着いたとの事。それでもその時点において
最もシンセを多用した楽曲の一つであり、ファンにとっては意見が分かれる所です。個人的にはポップさと、
ポリスらしさがぎりぎりの所で折り合っている曲であり、好きな曲の一つです。
昔から思っていた事なのですが、ポリスのプロモーションビデオは、「見つめていたい」を除いて、
どうしてあんなにくだらないのかと感じていましたが、今回サマーズの自伝を読んで、本人達も
くだらないと思っていたそうです。MTV黎明期であったので、PVをつくる事はマストだったようですが、
サマーズいわく、『・・・スタンリー・キューブリックなど、素晴らしい映像クリエイターがいる中で、
何故こんなくだらないフィルムを録らなきゃならないんだ・・・」と思っていたらしいです。
結局はレコード会社であるA&Mの指示であったとの事。ただし先述の通り、「見つめていたい」の
PVで汚名挽回を果たします。
本作ではシンセやホーンがフィーチャーされ、前作よりさらにバンドの方向性に変化が認められます。
上記「 One World (Not Three)」は比較的、従来のポリスらしさが残っている楽曲と言えますが、
ホーンセクションの大胆な導入に新しさが垣間見えます。
https://youtu.be/uYk2UiwWeBI
「Omega Man」は本作中、唯一のサマーズによる楽曲。新作の為に楽曲を書き溜めてきたのですが、
殆どが無駄になってしまったとの事。この頃は完全にスティングが主導権を握っていて、勝手にサポート
ミュージシャンを連れてきたり(ただし三日でお役御免に)、アレンジに関しても自分の意見を通そうと
しました。二人は当然反目したものの、一方でバンドがスティングの才能・人気によって成り立っている
事も理解していました。本作のレコーディングはサマーズによれば ”戦場” であったとの事。この頃には
スティングはコープランドだけでなく、サマーズともいがみ合うようになり、収録最後の頃、スティングの
不満が爆発して、皆の前でサマーズを滅茶苦茶になじったそうです。冷静になってからはさすがに
謝ったらしいですが、徐々に修復不可能な、ビートルズ後期の様な状況に追いやられていったそうです。
バンド内の不協和音に反して、その人気は着々と世界的なものへとなっていきました。そして彼らは
次作の制作へ取り掛かります。その辺りはまた次回にて。