#94 Stewart Copeland

おそらく一人か二人しかいない読者の中には(ひ、一人もいないって言うなー!!━━━(# ゚Д゚)━━━ )
ドラム教室のブログのくせに、ポリス回でスチュワート・コープランドのドラムに殆ど触れてないじゃん、と、二人の方のうち一人くらいは思われたかもしれません(いない…かな……゜:(つд⊂):゜。。)
それはなぜなら、コープランドは別に取り上げるため、直近のポリス回ではあまり触れませんでした。
という訳で、今回はスチュワート・コープランドについて書いていきます。


 

 

 

 

52年、バージニア州生まれ。ポリスの三人中唯一のアメリカ人ですが、父親がCIAの職員であったため、
幼少の頃から海外で暮らすことが長かったそうです。少年期をアフリカ・中東で過ごし、これが彼の音楽性、
リズムに対する考え方へ大きな影響を与えた様です。イギリスにも二年間住んでいました。

影響を受けたドラマーとして、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのミッチ・ミッチェルや
ジンジャー・ベイカーの名を挙げています。ロックドラマーとしては珍しくレギュラーグリップ(左手が
特有の持ち方をする)でプレイする事から見ても、ジャズがその基礎を担っているのは間違いないと
思われるのですが、意外にも本人には ”ジャズアレルギー” があったらしく、その為にバディ・リッチ
(ジャズドラム界のスピードキング、とにかく手足が速く動いた)を聴くようにしていたと語っています。

前回も同じ様な事を述べましたが、ポピュラーミュージックにおいてプレイヤーが、その技巧を突き詰めて
いくと、ヘヴィメタル・ハードロックでよく聴かれる様な超絶的速さ、ジャズフュージョンにおける
複雑かつ高度な技巧に走るかのいずれかだと思います。コープランドも非常に高い技量の持ち主で
あったのですが、彼が目指したプレイスタイルはそのいずれとも異なるものでした。

パンク全盛の頃にデビューし、彼自身も当時はそれを好んでいたので、ポリス初期はパンク的ドラミングを
聴くことが出来ます。しかし他のパンクバンドのドラマーとは技術で圧倒的に差があったので、ただただ
ファストテンポでエイトビートを叩くだけのプレイではありません。その手のプレイが十分に堪能出来るのが上の「Next to You」。1stアルバム「Outlandos d’Amour」のオープニングナンバーです。

ポリスの音楽及びコープランドのドラミングを語る上で、欠かせないのはレゲエの影響です。#91でも
述べた事ですが、普通に ”ワン・ツー・スリー・フォー” とカウントを取る様な所謂オンビートではなく、
スリフォ” と、裏拍を強調する所謂 ”オフビート” がフィーチャーされています。

上記「Bring On the Night」をはじめ、「So Lonely」「Walking on the Moon」「One World」等が
レゲエのリズムを取り入れた楽曲として顕著な例です。

コープランドのプレイにおいて、皆が注目する点としてその巧みなハイハットワークがあります。#63
ジェフ・ポーカロ回でもハイハットについて触れましたが、コープランドもポーカロ同様にハイハット使いの
名手としてよく挙げられます。エイトビート(8分音符)で刻まれるハイハットビートの中に時折
織り込まれる絶妙な16
分音符、レゲエ・シャッフルといった3連系のビートにおいて使われる装飾音符の
巧みさ。後者は口で言うと、 ”チッチ・チッチ・チッチ・チッチチ・チッチチ・チッチ・チッチチ・チッチ
”の
様な感じ。小さい ”チチ” が装飾音符で、本音符である ”チ” の前に引っ掛ける様なニュアンス、これが
絶妙なグルーヴを生み出しています。またアクセントの付け方にも非常に特色があります。フュージョンの
16ビートなどではよく行われる事ですが、ロックドラムではハイハットの叩き方は一定のオンビートか、
オフビートであっても、ディスコビートの様な ”
チッチー・チッチー・チッチー・チッチー”といった一定の、所謂裏打ち程度のものです。コープランドはハイハットによる強弱の付け方が場面場面でフリーであり、それがただデタラメに変化を付けている訳ではなく、類いまれなるセンスと計算されたフレージングに
よるものです。ロックドラマーでこの様なプレイを行っていたのはこの時代迄は彼だけだったと思います。
ちなみに彼が使用しているハイハットのサイズは13インチと、標準的な14インチより一回り小さい
ものです(ヘヴィメタル・ハードロックでは15インチが用いられる事があります)。切れの良い
そのサウンドは、その辺りに由来するのかも(でも基本的にはプレイする人の腕次第ですけどね)。

ロック・ポップスのドラミングは基本的に1・3拍にベースドラム、2・4拍にはスネアドラムで強い
アクセントを付ける、所謂バックビート(アフタービート)が基本です。核となるビートはベースドラムと
スネアドラムによって形作られ、ハイハットなどのシンバル類で色付けがなされる。勿論コープランドも
こういうプレイはします、しかし、このようなポップスのビートの既成概念に縛られない自由なリズムが
彼のプレイにおいてはよく聴かれます。タムタムもフィルイン(所謂 ”オカズ” )でのみ使用される
のではなく、ベードラ・スネアと同様に、ビートを構成するためのツールの一つとして扱っています。
これはアフリカン・ラテンパーカッションの影響であり、つまりセットドラムをパーカッションの
集合体として捉えているからでしょう。この自由な発想は、彼が幼少期から様々な国々で過ごした経験、
特に西洋以外の国で身に付いた感覚なのでしょう。上はそれらが存分に味わえる「シンクロニシティー・
コンサート」での「One World」。普通のロックビートとフリーなリズムが交互にプレイされます。
ライヴならではの自由さによって素晴らしい演奏へと昇華されています。

トリビア的な話題ですが、コープランドのレギュラーグリップは他と少し変わっています。

 

 

 

普通は親指の付け根ではさみ、中指と薬指の間でホールドします。向かって右の写真はそうしています。
しかしポリス時代から、左の様に人差指と中指の間でホールドする事がよくありました。上の写真は00年代
以降のものですが、ポリスでデビューした70年代後半から80年代にかけての写真を見ても、同様に二つの
ホールドの仕方が見受けられます。まれにこういうグリップをするプレイヤーもいるとは言われていますが、
彼はその数少ない内の一人でしょう。ただしこれが彼独特のフレーズ・音色に影響をもたらしているかと
言うと、個人的にはあまり関係ないと思っています。
また、彼の特徴として所謂 ”ハシる” タイプのドラマーであるとよく言われます。ハシる、つまりテンポが徐々に速くなる、あるいはアンサンブルの中で他のパートより若干先に音を出す、俗に言う ”くい気味” に
演奏するという事。これに関しては半分正しく、半分正しくない、という意見です。確かにライヴでは
曲の最初と最後でテンポが若干違っている事はあります(もっともこれはコープランドに限った事では
ありませんが)。ただ、ポリスの音楽性がエイトビートのR&Rやレゲエの様な軽快なリズムを元に
していた事によるものでもあり、これらの音楽が ”前ノリ” 気味で演奏した方がフィットするからだった
ことが原因でしょう。もしポリスにブルージーなナンバーがあったならば、 ”後ノリ” でタメの効いた
ビートになっていたかもしれません、想像出来ませんが…

一回ではとても書き切れないので、二回に分けます。次回は使用機材や、その独特なレコーディング
テクニックなどについて触れていきたいと思います。

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