#114 Kiss

アヴェレージ・ホワイト・バンドとタワー・オブ・パワーを続けて取り上げてきましたが、
彼らの音楽において基礎的部分を担っているのがファンクミュージックである事は
間違いありません。ファンクと言えば、ジェイムズ・ブラウンやスライ&ザ・ファミリー・ストーンが
真っ先に思い浮かぶ方が多いのではないかと思われますが、私にとってはこの曲です。

プリンスによる86年のNo.1ヒット「Kiss」。プリンスは昨年のはじめに80年代特集の皮切りとして
取り上げましたが(#49~#51ご参照)、これ程までに才能の塊の様な天才的ミュージシャンは
何度触れても触れ足りないほどですので再度取り上げます。
本曲が収録されているアルバム「Parade」及びその時期のプリンスの音楽性については、#51で
多少なりとも既述ですので重複は避けますが、ファンク・ロック・ポップスといった枠には収まり切らなく
なっていった、転換点とでも呼ぶべき作品です。

#51でも書いたことですが、これは86年時点におけるプリンスなりのアメリカンミュージック集大成的作品
ではないかと私は思っています。「Kiss」はその中の一音楽、端的に言うとジェイムズ・ブラウンを

米音楽における重要な構成要素として織り込んだ楽曲です。
前回までのデヴィッド・ガリバルディも少年期にジェイムズのステージを観て、その後のミュージシャン
人生に多大な影響を及ぼされた人である事は述べましたが、プリンスも同様です。というよりも、
60年代以降、ジェイムズに直接、或いは間接的に影響を受けなかったミュージシャンは、ビートルズに
おけるそれと同様に、存在しないのではないでしょうか。

「Kiss」は上のジェイムズによる大ヒットナンバー「Papa’s Got A Brand New Bag
(パパのニュー・バッグ)」を良く言えばリスペクト、悪く言えば模倣した楽曲です。実はこの曲、
元はプリンスファミリーの為に書かれた楽曲であり、当初は全く違うアレンジであり、
しかもエンジニアであった人物がある程度仕上げた段階のものを、プリンスが一方的に手を加え
(この段階で「パパのニュー・バッグ」的なギターカッティングを加えるなどしてジェイムズのように
仕上げ直したらしい)、しかも『やはりこれは自分の曲にする』と言い放ったそうです。
工エエェェ(´゚д゚`)ェェエエ工 周囲の人間はたまったもんじゃないでしょう …………
しかし天才とはそういうものなのです。個人的に付き合いたくはないですが、絶対に・・・
クロスオーヴァー(フュージョン)の16ビートと混同してしまいがちですが、ファンクのそれは
元来とてもシンプルなものです。「Kiss」はムダな音を極限まで排除した楽曲、とよく言われます。
確かにその通りで、本質だけを見事に切り取ったものでしょう。ジェイムズとプリンスの歌唱スタイルが
似ているとは決して言えませんが、プリンスはファンクが持つ、人間を根源的に踊り揺さぶらせる様な
ファンクビートのエッセンスを抽出し、この曲を創り上げました。そしてそのお手本となったのが
やはり彼をおいては他ならない、ジェイムズ・ブラウンその人だったのではないでしょうか。

前述の通り、黒いの白いの問わず、アメリカ音楽総まとめの様なアルバムであったので、ファンク・
R&Bなどに限らず様々な要素が盛り込まれています。上のオープニングナンバー「Christopher Tracy’s Parade」は、華やかな幕開けの様に始まったと思いきや、途中からおかしくなっていきます・・・
前作「Around the World in a Day」(85年)の流れを汲んで「サージェント・ペパーズ」的な
サイケデリックカラーを漂わせ、これが評論家達曰くヨーロッパ風になっていったと言わしめて
いるのでしょうが、私は「サージェント・ペパーズ」よりもブライアン・ウィルソンの「スマイル」を
イメージした創った様な気がします。
なので、本作は20世紀以降のアメリカ音楽、レナード・バーンスタイン、ジョージ・ガーシュウィン、
映画及びミュージカル音楽、デューク・エリントンなどのジャズ、勿論ファンク・R&R・ソウル、
その他諸々のポップミュージックがごった煮になっている状態です。その中で私がある意味
一番面白いと思うのが次のナンバー。

B面トップを飾るナンバー「Mountains」。フックのパートはプリンスらしいキモい(ホメ言葉です)
歌い方になるのですが、それより前は楽曲・歌共に誰かっぽくないですか? そうです、言うまでもなく
マイケル・ジャクソンです。同じ歳でよく比較され、CBSのマイケル、ワーナーのプリンスと対立軸に
されてしまった二人。マイケルファンには先に謝っときますが、音楽的才能はプリンスの圧勝だと思って
います、あくまで私見ですよ! ε=ε=ε=ε= (#゚Д゚)( °∀ °c彡)ヽ( ・∀・)ノ┌┛・・・
 (((((゚Å゚;)))))
本曲をマイケル&クインシー・ジョーンズへのからかいと見なす事も出来なくはないのですが、
人間性はともかく・・・プリンスという人は音楽に関しては真摯な人物であったらしいので、
やはりこの曲は80年代初頭からのマイケル&クインシー達によるダンサンブルファンクを
認めた上でのセレクションだったのではないかと思います。プリンス本人もデビュー当時は
ダンサンブルなファンクナンバーを得意としていましたし。

アメリカンポップミュージックにおいて、大変重要な意義を持つ音楽がまだあります。上の
「Anotherloverholenyohead」を聴いて『何かに似ている…』、と思われる洋楽ファンは
私だけでしょうか?その ”何か” は言わずと知れたスティーヴィー・ワンダー、更に言えば
スティーヴィーを含めたニューソウルと呼ばれるもの。マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ達と
共に70年代以降、新時代のソウルミュージックを切り開きました。
タイプは違いますが、米音楽界における天才であるこの二人は、お互いを尊敬し合っており、
互いのステージにゲスト、ともすれば飛び入りで出ることもあったとか。
16年にプリンスが急逝した際には、スティーヴィーはいち早く追悼のコメントを発表しました。

プリンスはこの後も素晴らしい、かつ問題作?とも言われる作品を発表し続けます。またワーナーとの
確執などもあり、そのミュージシャン人生は波乱に満ちたものでした。
また折に触れ、プリンスは取り上げて行きたいと思いますが、今回はこの辺で。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です