#122 Lately

俗に ”黒歴史” なる言い方をされる事柄があります。なかったことにしたい、あるいはなかったことに
されている過去を指す言葉の様ですが、スティーヴィー・ワンダーの作品にも当てはまるものがあります。

「Stevie Wonder’s Journey Through “The Secret Life of Plants”(シークレット・ライフ)」(79年)。前作「キー・オブ・ライフ」の大成功の後、周囲の期待を受けて発表されたのが、
”植物には意識がある” といった、悪く言えばトンデモ学説を基にしたドキュメンタリー映画の
サウンドトラックでした。結果的には映画は未公開に終わった為、映像的な詳細は分からず終いですが、
当然ストーリーものではなく、植物の一生を映像で綴る様なドキュメントフィルムであったようです。
ポップソングに限界を感じ、新たな飛躍を遂げる為にあえて実験的な試みに身を投じたのだとか、
いや一時の気の迷いだとか、諸説ありますが、この二枚組サウンドトラックの評価は決して高いものでは
ありません。前作に参加したハービー・ハンコックなどはその冒険心を称えたそうですが、
評論家によってはターンテーブルに乗せる必要の無い作品だ、などと酷評する者もいたそうです。
実は私も今回はじめて本作をちゃんと聴いたのですが、言う程駄作とは思いませんけれども、
それまでのスティーヴィーによる作品群と比較すると?・・・ といった感じでしょうか。
しかしそんな辛辣な評価を下す評論家連中でも絶賛する曲が収録されています。それが上の
「Send One Your Love」。いかにもスティーヴィーらしい高度なコードプログレッション
(ダ、ダジャレじゃないんだからね!か、勘違いしないでよね!!(๑`н´๑)・・・)による本曲は、
ベスト盤でも大概収録されている代表曲の一つです。

「シークレット・ライフ」から一年余りでリリースされたのが「Hotter than July」(80年)。
これも人によって評価は様々なのですが、”ちゃんとした” ポップミュージックとして成立しています。
上はA-②「All I Do」。60年代におけるパートナーであったクラレンス・ポールとその時代に
既に創られていた楽曲と言われています。リズムがディスコティックなのと、シンセベースが
突拍子がないのを除けば、所謂 ”モータウン時代” の楽曲として感じられないこともない曲です。

本作で有名なのはシングル曲であるレゲエ調の「Master Blaster」、「I Ain’t Gonna Stand for It」
及びマーティン・ルーサー・キングを歌った「Happy Birthday」ですが、あえて取り上げません。
上はA-③「Rocket Love」。スティーヴィーの全曲中においても全く陽の目を見ない曲です。
これをクドい、オーバープロデュースと感じるか、スティーヴィーの楽曲としては珍しい試みと取るか、
聴き手によりますけれども個人的には興味深い一曲だと思っています。

B面は「マスター・ブラスター」から始まり、クインシー・ジョーンズを意識したのかな?
と思わせる「Do Like You」。そして上は、これも全く陽の目を見ないファンクナンバー
「Cash in Your Face」です。彼の楽曲群において特に秀でたものとは思いませんが、
この時期のスティーヴィーを知るには面白い作品なのではないかと。

本作では黎明期におけるサンプリングドラムマシン『リンドラム』の使用、ディスコサウンドの
取り込み、ポップでキャッチーな楽曲などにより前作で失いかけた大衆の支持を取り戻した面と、
一部の評論家からは三部作~「キー・オブ・ライフ」にかけての様なクリエイティビティが無い、
といった相反する評価があったようです。個人的には、質の面では確かに前四作には及ばないとしても、
そこまで酷評するものでは無いと思っています。それにはある曲の存在もあるのですが・・・

本作からの3rdシングルである「Lately」。当時はポップスチャート64位、R&Bで29位とお世辞にも
ヒットシングルとは言えないものでしたが、その後数多くのミュージシャンによって取り上げられ、
今日においては名曲とされる楽曲です。#117にて個人的に ”三大バラード” があると述べましたが、
その二曲目が本曲です。
「You and I 」と同系統とされる楽曲であり、口の悪い評論家は「You and I 」等既存曲の
アイデアを使い回していると難癖をつける輩もいるようですが、ポップミュージックでそれを
言い出したらキリがありません。
生ピアノ・シンセ(シンセベース)のみ、そしてスティーヴィーによる独唱といった点も
「You and I 」同様。そして終盤における歌の盛り上げ方も同じく絶品です。
二回目の ”good-bye” を繰り返すパートからが最大の聴き所であるのは言わずもがな。
二音半転調し、スティーヴィーの歌が一番映える音域まで駆け上がっていく箇所は、
「You and I 」にしろ本曲にしろ鳥肌ものです(「You and I 」は転調ではないですが … のはず・・・)。

「レイトリー」はその後スティーヴィーのコンサートにおいて、欠かす事の出来ないナンバーとなりました。
ミュージシャンにとって、シングルヒットした曲だけが重要なものではないという顕著な例です。

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