#131 Everything Is Everything

前回まで続けてきたロバータ・フラック回は決してまだ終わっていないのですが、
一度中断して、というよりも、この人についてはロバータと同時進行で語らなければならぬ事を
思い知りました。言うまでもなくダニー・ハサウェイです。
出自・生い立ち・音楽的バックグラウンドなどはロバータ同様においおい触れていきます
(それだけでブログ一回分でも足りない位なので・・・)。

ダニーのデビューアルバムである「Everything Is Everything」(70年7月)。
名盤であることは言わずもがなですが、いち早くニューソウルの幕開けを告げたエポックメーキングな
作品です。マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイン・オン」(71年5月)やカーティス・メイフィールド
「スーパーフライ」(72年7月)といった、同じくニューソウルの金字塔である作品の中でも
先陣を切ったアルバムであり、更に言えば本作から既にダニーのエッセンスが凝縮・完成されています。
オープニングナンバー「Voices Inside (Everything Is Everything)」。副題がアルバムタイトルで
ある本曲は、のっけから尋常ではないテンション感が漂っています。端的に言えば、ポップソングに
別れを告げたという事で尽ると思います。スティーヴィー・ワンダー回でもたびたびその名が挙がった
モータウンの創始者 ベリー・ゴーディが目指した分かり易いソウルミュージックとは違う方向に
向かっていったという理解で概ね良いと私は思っています(違う!という意見もあるのはごもっとも…)。
そのテンションを醸し出している一因はイントロのギターにありますが、これはダニーの作品と
深く関わる事となるフィル・アップチャーチによるプレイ。ちなみに本曲の作曲者(共作)でもあります。

A-②「Je Vous Aime (I Love You)」。曲名は副題をおフランス語にしたものです。彼の奥さんに
捧げた曲で、そして二人の間に生まれた女の子が母親と同じ名前を与えられ、やがてシンガーとなる
レイラ・ハサウェイです。

A-③の「I Believe to My Soul」はレイ・チャールズの楽曲。レイの洗礼を受けていない
黒人ミュージシャンはいないのではないかと思いますが、聖歌隊で歌ってきたダニーにとって、
レイの歌は自身の血となり肉となったものでしょう。

傑作ぞろいの本作にあって、ベストトラックは?と問われれば本曲かな(もう一つありますが)、
と私が思うA-④「Misty」。言わずと知れたジャズピアニスト エロール・ガーナーによる
スタンダードの大定番。図らずもロバータ回にて(#128ご参照)「ミスティ」には触れました。
彼女がブレイクするきっかけとなった映画「恐怖のメロディ」にて、ストーカーが執拗にリクエストを
繰り返す曲として使われています。ですが別に「ミスティ」は怖い曲ではありません。
” 貴方が傍にいると、私は霧に包まれてしまうのよ ” という、小っ恥ずかしくなる程のラブソングです。
原曲はスローのバラード、たまにアップテンポで演るジャズメンもいますが、本曲の様なソウル・ゴスペル
スタイルで演っているのは他に思い当たりません。「Roberta Flack &Donny Hathaway」における
「ふられた気持」の大胆なアレンジも見事でしたが、本曲も勝るとも劣らぬ秀逸なもの。
一聴しただけでは「ミスティ」と気づかないのも同様です。

B-①「Thank You Master (For My Soul)」。B面はA面に比べると長尺の曲となっていますが
(6~7分)、エモーショナルなダニーの歌、文句の付けようもないアレンジ、そして一部の隙も
見当たらない演奏と、私の陳腐な文章では語れません(なので、唯唯聴いてください)。

ダニーにとってその後重要なナンバーとなるB-②「The Ghetto」。タイトル通り、黒人への差別・
貧困などを取り上げた曲です。歌詞に関して興味がある人は各自で調べてください。
意味は判らなくとも、この黒っぽいフィーリングだけでノックアウトされます。

私は神も仏も信じない不信心者ですが、神性を纏った音楽、救いの曲とはこの様なナンバーのことを
言うのではないかと思っています、エンディングナンバー「To Be Young, Gifted and Black」。
「ミスティ」と並ぶ本作の、というよりもダニーのキャリアにおけるベストトラックでは・・・

チャートアクションだけを取ればポップス73位・R&B33位とお世辞にもヒットとは言えませんが、
先に述べた通り、新しいソウルミュージックの到来を告げた大傑作であります。
ロバータ・フラックは勿論の事、マーヴィン・ゲイ、カーティス・メイフィールド、
スティーヴィー・ワンダーなどの新時代におけるソウルの担い手達に多大なインスピレーションを与え
(勿論ダニーも、先輩であるロバータ・マーヴィン・
カーティス達から沢山吸収した結果ですが)、
70年代ニューソウルにおける傑作群の先駆けとなった名盤が本作であるのです。

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