#148 I Want You

” I Love You ” ” I Need You ” ” I Want You ” 。カビがはえる程にポピュラー音楽の歌詞や
そのタイトルに使われてきたフレーズですが、時として陳腐な言葉に聞こえてしまうものも
少なくない中において、これ程までに胸を締め付けられる様な ” I Want You ” を私は他に
知りません。76年、マーヴィン・ゲイによる「I Want You」がそれです。

オーティス・レディング回で、ソウルシンガーの真骨頂はそのライヴにて発揮されると
書きましたが、勿論マーヴィンも同様です。

74年の米オークランドにおける模様を収録した「Marvin Gaye Live!」は最も脂がのっていた
時期に録られた一枚です。前年における「Let’s Get It On」に収められた「Distant Lover」は
オーディエンスの熱狂ぶりからもこの時期のマーヴィンの人気・勢いがわかるテイク。
あまりにも素晴らしかった故か、ライヴヴァージョンとしてシングルカットされヒットしています。

「What’s Going On」、「Let’s Get It On」そして「I Want You」を私は勝手にマーヴィン三部作と
呼んでいます。精神的・思索的な「What’s Going On」から、「I Want You」は前作同様に
愛(性愛)をテーマとし、音楽的にも当時流行した(しつつあった)フィラデルフィアソウル及び
ブラックコンテンポラリーを基調としています。上はA-②「Come Live with Me Angel」ですが、
途中でムフフな女性の声が聴こえるのは前作同様 ♡♡♡(*´▽`*)♡♡♡ ・・・(ムフフって昭和だな … )

本作は元々当時モータウンに所属していたリオン・ウェアというシンガーソングライターがリリースする
予定で制作されていたアルバムでした。しかしベリー・ゴーディーの判断によりマーヴィンのアルバムとして
世に出される事になったとか。全ての楽曲にリオンの名があるのはその為であり、さらにアーサー・ロスと
いうソングライターが半分近くを共作していますが、その当時リオンとコンビを組んでいた人物であり、
彼はダイアナ・ロスの弟です。

B面の「All The Way Around」と「Since I Had You」。後者に関しては何も言うことはありません。
ただくれぐれも女性と一緒に居るときに聴くのはご注意ください。

エンディング曲「After the Dance 」。ダンスは文字通り踊りの事なのか?、はたまた・・・・・
A-③には本曲のインストが収録されています。余談ですが、十年前位だと思うのですけれど、
志村けんさんがラジオ番組をやられていて、その番組の途中に短く流れる音楽にそのインスト版が
使われていました。志村さんはかなり黒人音楽に造詣が深い方で、ヒゲダンスのテーマが
テディ・ペンダーグラスの曲を使ったものであったのは洋楽ファンには結構知られている事です。
ご自身(ドリフ全員)がプロのバンドマンであるので当然ですが(志村さんはギタリスト。ファンキーな
カッティングがユーチューブにあがっていてそれがカッコイイ!)、音楽を愛しているのが伺い知れます。
しかし、テレビなどのメディアでは一切そういう事は語らず、バカに徹している所はプロです。
中途半端な特技を ” オレこんなコトも出来るんだぜ! ” の様にひけらかすテレビタレントが
結構いるとの事ですが、本当に格好いいのは志村さんの様な姿勢だと思います。
アルバム「I Want You」もポップス4位・R&B1位と大ヒットを記録します。

もう一枚のライヴ盤「Live at the London Palladium」(77年)は二枚組。前年における
ロンドン公演を収めたもので、これもポップス3位・R&B1位とその勢いは留まらず。
テンション感なら「Marvin Gaye Live!」、完成度・洗練さなら本ライヴ盤といった所かと
私は思っていますが、どちらも素晴らしいのは言うまでもありません。
上はC面のメドレーⅡ。「What’s Going On」の収録曲からなるメドレーですが、イントロで
まずシビれます。バックミュージシャンの面子はスタジオ盤とは違いますが、鉄壁の演奏に
変わりはありません。いかにもこの時代らしいエレクトリックピアノやフルートですけれども、
今聴いても全く古臭さを感じません。
本作のD面「Got to Give It Up」のみスタジオ録音で、シングルカットされポップス・R&Bチャート
双方でNo.1となります(全英でも7位)。

前回の最後で少し触れましたが、商業的成功と比例してプライベートも充実していたのかというと、
勿論の事そうは問屋が卸しません。マーヴィンの私生活について触れているサイトは幾つもあるので、
ここで詳しくは取り上げませんが、大別すると「女性問題」「借金」そして「麻薬」で苦しみました。
17歳上の姉さん女房であるアンナ(ベリー・ゴーディーの実姉)との結婚生活は破綻を来たし、
次の若い妻とも結局は破局を迎えます。アンナとの離婚裁判で多額の慰謝料を請求され、その時点では
支払能力がなかった為に次作の収益でもってそれに充てる事に。そして結婚生活が上手くいかなかった
理由としては彼の麻薬常習が原因と言われています(勿論女性にだらしなかった、というのも・・・)。
こんな逸話があります。73年の「Diana & Marvin」は内容こそ極上の音楽ですが、制作現場は
かなり険悪だったそうです。ダイアナ・ロスという人は ” アタシがモータウンのトップスターよ!” 、
という自尊心・自負心が強い女性だった事で有名であり、対するマーヴィンも ” オレこそが
モータウンを支えているんだ!”、とプライドがありました。実際どちらの名前を先にクレジットするかで
揉めたそうであり(結局はロスが先に)、一筋縄ではいかなかった現場であったとの事。
しかしロスの機嫌を損なわせたのはそれだけではなく、マーヴィンのだらしなさもあったそうです。
録音現場にドラッグやアルコールを持ち込み、それを平気で ” 嗜む ” マーヴィンにロスは我慢が
ならなかったと伝えられています。

この様に商業的成功に反して私生活は惨憺たるものだったのですが、それは改められず70年代後半から
80年代初頭にかけてますます酷くなっていきます。ナニがヒドイかって?麻薬とセッ〇スですよ。
エリック・クラプトンの様に薬物のリハビリセンターに通ったのですけれども、クラプトンは止められましたが
(その代わり酒量が増えた)マーヴィンはダメだったそうです。ツアーをドタキャンするは、人間関係を
ブチ壊すはで、要は困ったちゃんだったのです。そして結末は最悪なものへと。
あまりのコカイン依存の為実家に身を寄せていたマーヴィンでしたが、既述の通り問題のあった
(どっちもどっちですが)父親と口論になり、激高した父親により射殺されてしまいます。
享年44歳、84年4月1日の事でした。

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