#175 Cold Spring Harbor

ビリー・ジョエルは49年、N.Y. 州生まれ。彼の生い立ちなどは折にふれて。

デビューアルバムである「Cold Spring Harbor」(71年)はとにかく売れなかった、というのは
前回も述べました。
ビリーはソロデビュー前に二つのロックバンドを経ていますが、時代が時代というだけあって、
サイケ色満開で混沌とした音楽であり、これは昔からくそみそにこき下ろされています。
私も一度だけ耳にしましたが確かに二回は聴こうと思いませんでした …
上はA-②の「You Can Make Me Free」。「She’s Got a Way」と甲乙つけがたい
本作におけるベストトラックではないかと思っています。
ちなみに上は83年版で(前回ご参照)初出より短く再編集されています。初出版はこれです。

ピアノのみであった「She’s Got a Way」にはストリングスなどが加えられたのに対し、
本曲のリメイクにおいてはかなり削られた部分があります。後半のギターソロが長すぎるという
判断だったのでしょうが、個人的にこの後半の ” ハジけっぷり ” は好きです。71年というのは
こういう時代だったのであり、再発版も勿論良いのですが、22歳当時におけるビリーの
パッションを余すところなく伝える快作です。
これにはソロデビュー前のサイケバンドにおける経験もあり、さらにはオープニングの
「She’s Got a Way」が内省的な仕上がりだったので、” 次曲は暴れてみよう ” 、という
目論見もあったのでしょう。なのでアルバムコンセプトから言えば初出こそビリーが意図する所のはず。

A-③「Everybody Loves You Now」。ブルーグラス(カントリー&ウェスタンでテンポが
速いもの、という私の認識ですが、違っていたらご勘弁)の香りも少し漂うジャンプナンバーです。
ビリーとC&Wとはあまりイメージ的に結び付きませんが、初期は意外にも … 次作でわかります。

B-①の「Turn Around」はいかにも70年代初頭らしい、ジェームス・テイラーの曲と言われても
疑わない作品、といった感じですが実は初出版を聴いてみると・・・・・

83年版よりも泥臭い、サザンロック・スワンプロックといった仕上がりになっています。
リミックスヴァージョンではスライドギター(本曲はペダルスティール)が抑えられてしまって
いますが、原曲はもっとフィーチャーされています。今回調べていて初めてわかったのですが、
このスライドはスニーキー・ピート・クレイノウというギタリストによる演奏。
バーズを脱退したメンバーとカントリーロックバンドを結成し、ペダルスティールの名手と
謳われたプレイヤーだったそうです。83年版は洗練さが売りで、初出は朴訥さと
この素晴らしいギターが堪能が出来、結局はどちらも良いです。

非常にポップな楽曲である「You Look So Good to Me」。印象的なハモンドオルガンは勿論ですが、
ハーモニカもビリーによるもの。

「Tomorrow Is Today」はキャロル・キングか?、という程に内省的シンガーソングライターの
作品と呼べるもの。「つづれおり」が同年2月のリリースで、全米チャートにて15週連続一位という
お化けの様な売れ方をしたのですから、当然ビリーもこれに影響を受けなかったはずはありません
(「Cold Spring Harbor」の録音は7月からとされています)。
しかしながら、これも初出版はかなり違います。動画は張りませんがご自身でググってください。

エンディング曲である「Got to Begin Again」も「Tomorrow Is Today」と同系統の
ピアノ弾き語りによるナンバー。

ユーチューブを漁っていたら面白いものが。同71年におけるスタジオライヴらしいです。
音はお世辞にも良いとは言えませんが(タダで聴いてるんだから文句言うな!)、
若き日のビリーを生々しくうかがい知る事が出来る貴重な録音です。

当然の如く、前述した通りキャロル・キング、ジョニー・ミッチェル、ローラ・ニーロ、
そして同性であればジェームス・テイラーといった、当時台頭しつつあったシンガーソングライター達の
音楽に影響を受けたのは間違いないでしょう。結果的には箸にも棒にも掛からぬ程に売れませんでしたが、
永年に渡り幻の名作と言われ(日本では83年の再発迄は輸入盤・中古盤でしか聴くことが出来なかったので
尚更の事)、実際本作の内容はそれらの評価が紛うことなきものである事が明白です。
しかし少し天の邪鬼的な視点で言わせてもらうと、キャロル・キングやジェームス・テイラーといった
内省的シンガーソングライター風な音楽だけかと言えば、ややが付きます。
83年の再発時には邦題で ” ピアノの詩人 ” というサブタイトルが付きました。「ピアノマン」での
ブレイク前における、若き日のビリーによる心に染み入る珠玉の作品集、と言った売り出し方です。
勿論これが的外れだなどと言うつもりはありません。70~80%はその通りです・・・ですが …………
初出版の「You Can Make Me Free」や「Turn Around」を聴いてわかる通り、
実は結構ハジけています。
「ストレンジャー」「ニューヨーク52番街」にてビリーをバラード、ジャズ的なAOR、ソフトロックと
いった甘い印象で捉えた聴衆が「グラスハウス」で面食らった事はいずれ触れる所ですが(だいぶ後 …)、
キャロル・キングやジェームス・テイラー達と異なっていたのは、実はビリーは筋金入りのロックンローラーであるという点です。かなり語弊がある言い方になってしまいましたが、キャロルやジェームスに
R&Rスピリットが無いという事では決してありません。R&Rに対するベクトルの様なもの、
もう少し冗長を覚悟で述べるとすれば、それぞれが持っている音楽的 ” 引きだし ” の数々において、
ビリーは他のシンガーソングライター達よりもR&Rが占めるウェイトが大きかったのではないかと。
つまり「ピアノマン」、「素顔のままで」、「52番街」に収録された「ザンジバル」といった楽曲と
同じ比重で、R&Rナンバーも演っていたのだと考えています。R&Rもこなすシンガーソングライター
(世間一般的イメージの)ではなく、シンガーソングライターでありロックンローラーでもある、
そういうミュージシャンなのだと私は思っています。
何度も述べますが、他の人達にR&R魂が無いという事を言ってる訳ではないですよ。
キャロル・キングはある意味R&Rを創った偉人の一人です、「ロコモーション」を聴けばわかります。
上の部分は言いたいことが上手く伝わったどうか、かなり自信がありません。
なので忙しい人はちゃっちゃと読み飛ばしてください・・・・・あっ、でも曲だけは聴いてくださいね …

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です