ビリー・ジョエル4thアルバム「Turnstiles」についてその2。
上はA-②「Summer, Highland Falls(夏、ハイランドフォールズにて)」ですが、
今回調べていて初めて知った事ですけれども、淡々として爽やかささえも感じられる本曲は、
実の所かなり深刻な歌詞でした。
ビリーが若い頃から鬱病を患っていたのは以前に書きましたが、本曲の歌詞にはそれが
色濃く反映されている様で、理性と狂気、断崖絶壁に立つ状況というのは悲劇か?
それとも刹那の幸福か?という様なかなりめんどくさい … 思慮深い内容です。
A-③である「All You Wanna Do Is Dance」はスカのリズムを取り入れたナンバー。
初期からラテンを含めたワールドミュージックへ視点が向いていた事は既述です。
「James」は1stを思わせる内省的な曲調。音楽性は簡単に変わらないというのも既述。
のっけからそのピアノテクニックに圧倒される「Prelude/Angry Young Man」。
前作における「Root Beer Rag」と同様にプレイヤーとしてのビリーをフィーチャーした
楽曲ですが、「Root Beer Rag」は楽曲ストックの少なさから苦肉の策で収録したと
言われていますが、本曲はイントロ後の本編と呼べる ” Angry Young Man ” への
移行も見事であり、きちんと練り込まれたナンバーです。
エンディングナンバーである「Miami 2017」には ” Seen the Lights Go Out on Broadway ” と
副題が付いています。81年のライヴ盤「Songs in the Attic」ではオープニングに収録されている本曲は、
その快活なロックチューンの印象とはかけ離れた歌詞(イントロのサイレン音が象徴的)。
アメリカが混乱に陥り、ブロードウェイの灯は消え、エンパイアステートビルは崩れ落ちて橋は朽ち、
人々はニューヨークを去って南へ行ってしまうという近未来ディストピアSFといった内容。
2017年のマイアミで語り部はニューヨークを回想するというストーリーは、
9.11テロを予言しているとか一部オカルトマニアが騒いでいたらしいですが、
それはお好きな人で勝手にどうぞ(その2017年も既に過ぎてしまいましたが … )。
「ピアノマン」「さすらいのビリー・ザ・キッド」から始まって、彼には物語的歌詞を好む傾向が
あるようです。それはやがて名曲「イタリアン・レストランで」や「ザンジバル」、
そしてアルバム「ナイロン・カーテン」などへ結実する事となります。
本作は大変に内容の充実した秀作であると私は思っています。「ストレンジャー」や「52番街」に
肩を並べるとまでは言いませんが、クオリティー的にそれほど劣っているとは考えられません。
しかしチャート的にはアルバムが最高位122位、「さよならハリウッド」等のシングルに至っては
チャート外という結果でした。良いものが必ずしも陽の目を見るとは限らないという典型です。
「Turnstiles」が改札口・出札口を意味するというのは前回述べましたが、アルバムジャケットが
もろにそのものですので今更触れる事ではありません、が、今回調べていて初めて判った事ですけれども、
ビリー以外の写っている人物は収録曲に登場する人物たちを表しているそうなのです。
誰がどの曲なのかはヒマな … もとい興味がある人は調べてみるのもご一興。