#183 Just the Way You Are

10ccの「I’m Not in Love」が実は一度ボツにされた、といういきさつは#170で書きました。
ポップミュージック史に残る名曲が、下手をすれば陽の目を見ていなかったというのは驚きです。
そしてまた、ある名曲も最初は創った当人が世に出すつもりではなかったというのも、
まるでドラマの様な話です。
その名曲と「I’m Not in Love」との関係性も#174にて触れています。

” 僕を喜ばせようとして、新しいファッションや髪の色をかえたりしないで、そのままの君が好きなんだ ”
普通の状況で言ったらアタマがどうかしたのか?と疑われる様な言葉も、この稀代の名曲に乗せると
何ら違和感が無くなるから不思議です。勿論その曲とはビリー・ジョエル「Just the Way You Are」。

ビリーは本曲のインスピレーションを夢の中で得たと語っています。最初の妻でありマネージャーでもある
エリザベスの為に書いたもので、売り物にする曲というよりはプライベートで書いた曲という感じでした。
実際ビリーもバンドも本曲を次作である「ストレンジャー」へ収録するつもりはなかったとの事。
しかしたまたま同建物の別スタジオで作業していたフィービ・スノウとリンダ・ロンシュタットが
ビリーが演奏していた本曲を聴き、アルバムに入れるべきだ!と訴えたそうです。
彼女達が聴いたのはおそらくスタジオで、ラフな感じの弾き語りであったろうと推測されます。
であるからして当然我々が知っているものとは違っていた事は言わずもがなです。
本曲を名曲たらしめている要素は幾つもあるのですが、この時点で既に出来ていたであろう根本的な
メロディとコードプログレッションが素晴らしいことは言うまでもありません。
であるかして、フィービとリンダはその素晴らしさに惹きつけられたのです。

本曲はシングルカットされる際に一分以上短くされています。原曲の4分47秒というのはやはり
シングルとしては長すぎると判断されたのでしょう。ラジオでオンエアされ易いのは3分台という
呪縛はこの時代でもまだまだ健在でした。上がそのシングルヴァージョンで、二番がまるっとカットされ、
フェードアウトも早くなってしまっています。

本曲及びアルバム「ストレンジャー」を語る上で欠かせない存在がプロデューサー フィル・ラモーンです。
彼が起用されるに至ったいきさつは別の機会で述べますが、75年にポール・サイモンの作品でグラミー賞を
獲得しており、プロデューサーとして世間の注目を浴び始めたところでした。
ラモーンが本曲で果たした重要な役割は三つあります。二つは曲創りに直接つながる事において、
もう一つは制作に関わる事ではありませんが、本曲を ” 生かす ” のにある意味最も大事な事柄でした。

一つ目ははじめに触れた「I’m Not in Love」によってインスパイアされたサウンド創り。
バックで流れるヴォーカルのテープループは「I’m Not in Love」に触発されたもので、
それはビリーのアイデア及び要求だったのでしょうが、具現化したのはラモーンの力量です。
今でこそ声を重ねまくってあのサウンドを創ったというのは皆が知るところですが、
当時は情報も少なくメロトロンでは?などと憶測が飛び交っていた状況だったので、
ヴォーカルのダビングとそれをルーピングする事によってあの音が得られるという事実を見抜いたのは、
百戦錬磨のエンジニアであったラモーンの力によるものでしょう。
「I’m Not in Love」から触発されたのはエレクトリックピアノのサウンドも同様です。
フェンダーローズによる独特の浮遊感がどちらの曲にとっても素晴らしい効果を挙げています。
このプレイがリチャード・ティーによるものだという記述がいくつか見られますが、クレジット上では
アルバム最後の曲「Everybody Has a Dream」でオルガンを弾いているのみとなっており、
本曲でのローズピアノはビリー本人とクレジットされています。でもティーのプレイに聴こえなくも …

二つ目はこれも冒頭で触れた、世に出ていなかったかもしれない本曲をお蔵入りにさせなかった事。
ある意味これが最も大きな功績かもしれません(失礼な!音楽面の貢献もハンパじゃねえよ!!)。
ビリーは他の収録曲と比べて場違いな、甘ったるいバラードだとして本曲をアルバムから外そうと
していましたが、ラモーンはこれに同意しませんでした。先述したフィービ・スノウと
リンダ・ロンシュタットがスタジオに来て、これを却下しようとしていたビリーを窘めた件。
実は彼女たちをスタジオへ招き入れたのはラモーンであり、プロシンガーであり当然耳の肥えた
彼女たちであれば、本曲の価値をビリーへわからせる事が出来るはず、という目論見があったのです。
それは見事に成功し、彼女たちの本曲へ対する賞賛がビリーの考えを変えさせるに至ったのです。

三つ目は・・・・・・・・・・・・・・ これは次回にて。

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