その曲をその曲たらしめている要素とは何か? 一概には語る事が難しい命題ですが、
万国共通で言えるのはその旋律、つまりメロディでしょう。もっと具体的に言えば
テーマ・サビと称される最も ” イイところ ” のメロディという事になります。
音楽、特にポップミュージックを構成する要素は70年代には複雑さを極めました。
その後の80年代以降の方がシンプルになっていき、00年代以降などは良く言えば虚飾を
排した、率直に言えば余計なアレンジやレコーディングテクニックは疎まれるような雰囲気に
なっていったようです。ラップ・ヒップポップ等の台頭に因るものでしょうか。
音楽の基本構成要素はメロディ・和音(ハーモニーとする場合も。いずれにしろ復音)・リズムである。
と、その昔にものの本で読んだ記憶があります。勿論これは揺らぎようのない事実であり、
私もそれを否定する気は毛頭ありません。
上でも述べたように人が音楽を聴くときに最も注意を惹かれるのは主旋律です。ポップソング、
流行歌、大衆音楽では特に歌い手の(インストゥルメンタルは敬遠されます)、歌唱が最優先です。
器楽演奏者・アレンジャー・レコーディングエンジニアがどれだけ丹精込めて創り上げたものでも、
歌が好きじゃないから聴かねえ! とか言われてしまいになる事が多々あります(トホホ・・・)。
それでも稀にメインの歌以外の要素が多くの人々の心をわしづかみにするといったレアなケースも
存在します。
例えばロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」の冒頭にて聴くことが出来る
” ドン ドドン タッ・ドン ドドン タッ ” というあの問答無用のドラミング。
技術的には何てことないプレイですが、ハル・ブレインのあの音色、あのグルーヴがあってこその
ものです。暴論を承知で言いますが、「ビー・マイ・ベイビー」を決定づけている35%くらいは
ハル・ブレインのドラムなのではないかと私は思っています。
だいぶ前置きが長くなりましたが、「Just the Way You Are」を名曲たらしめている要素とは。
メロディ、ビリーの歌唱、テープループによる声のウォールオブサウンドなど幾つも挙げられますが、
構成要素の一つとして疑いようのないものが間奏及びエンディングにおけるサックスプレイです。
アルトサックス奏者 フィル・ウッズによる完璧としか言いようがない本プレイ。世の中には、
この歌・この演奏以外考えられない、と言われるものは結構ありますが、中には最初に聴いたのが
それなので所謂 ” 刷り込み ” では? と思われるものも個人的にはあります。
スターダストレビューの根本要さんがビリーの来日公演(70年代後半から80年位の)を観に行った際、
ツアーバンドでのサックス奏者はフィル・ウッズではありませんでしたが、原曲と寸分違わぬ
プレイを行っていたと以前に語っていました。
つまり崩しようがない・オリジナリティを加えようがない程にあの演奏のイメージが強すぎて
同じプレイをせざるを得なかった、あるいはそれを主催者ないし聴く側がそれを望んだから、
といったところだったのではないでしょうか。
現在ユーチューブで観る事が出来るライヴの模様では必ずしもそうではありませんので、
年月を経てようやく本プレイの ” 呪縛 ” から逃れる事ができるようになったのでは?
と推察したりします。
本曲が収録されたアルバム「ストレンジャー」ではN.Y.における所謂 ” ファーストコール ” の
セッションマンが多数集結しています。前回も触れたキーボード リチャード・ティー、ギターに
スティーブ・カーンとハイラム・ブロック他、パーカッション ラルフ・マクドナルド、そして
コーラス隊には前回でも触れたフィービ・スノウやパティ・オースティンといった超強者ばかり。
ビリーもニューヨークっ子ですが、以前に述べたようにソロキャリアの初期はL.A. におけるもので
あったので、N.Y. に戻ってきた当初は人脈・コネなど無かったでしょう。
これは間違いなくプロデューサー フィル・ラモーンの功績です。
フィル・ウッズもその中の一人かと思っていましたが、ラモーンが13年に亡くなった際に
ネットの記事にてウッズとジュリアード音楽院において同級生だったと初めて知りました。
ウッズの起用にはこの様な背景があったのです(同じフィル(フィリップ)同士で親しくなったのかな?
とか安直な推察もしたりします)。
更に言えば70年代からはロック・ポップス畑で台頭しましたが、60年代はジャズ界での仕事がメインで、
あの世界的ボサノヴァブームを巻き起こした「ゲッツ/ジルベルト」にてエンジニアとして参加しています。
前回述べた本曲におけるラモーンの三つ目の功績とはウッズの起用、そしてこの稀代の名演を取り入れた
事だと私は思っています。根拠は定かではありませんがラモーンはウッズのプレイの中から切り貼りして
あのヴァージョンを創り上げたとされています。自身もヴァイオリンの神童として名をはせたラモーンで
あったので、プレイヤーとして、そしてプロデューサー・エンジニアとしての両輪が盤石であったからこそ
出来た仕事でしょう。
少し横道に逸れますがフィル・ウッズつながりで。「New York State of Mind」回(#182)で
触れるのを忘れてしまいましたが、初出と85年の二枚組ベスト盤ではサックスが異なります。
つまり85年ベスト盤にてサックスが差し替えられたという事ですが、それがフィル・ウッズだと
言われています。ただこれも根拠は定かではありません。
歌のメロディをなぞったソロを展開する初出版に対して、85年版はかなり自由なプレイです。
聴き比べるのもご一興。