#251 Jeff Beck_3

「The Yardbirds」というイギリスのロックバンドの存在は洋楽を聴き始めてた中学生の頃から
知っていました。言うまでもなくそれはエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジの
所謂『ロック三大ギタリスト』を輩出したという理由で特に日本でもよく紹介されていたからです。
インターネットなど無い時代ですからモノの本にそう書いてあれば世界中でそう呼ばれているのだろうと
当然思ってしまいます。後にこの三人だけを特にピックアップして ” 三大~ ” と呼称するのは日本だけで
ある、という事が判明するのはやはりネットのおかげです。つくづくネット時代になってヨカッタ♪

ジェフがヤードバーズに加入して最初のレコーディング(あくまで日付がはっきりしているもので)が
上の「I Ain’t Done Wrong」。65年3月15日とクレジットされています。
前半のソロはいきなりスライドです。あまりイメージに無いのですが意外にジェフはスライドを使います。
ちなみにサムネの画像はアルバム「Having a Rave Up with the Yardbirds」ですが、
本曲が収録されたのはその前作である「For Your Love」です。念のため。
この時期ジェフが使用していたギターはフェンダー・エスクワイヤー。テレキャスターの前進モデルであり、
リアピックアップのみでソリッドな音色はこれに因るものでしょう。「Having a ~」のジャケットで
持っているギターがそれ(殆どキース・レルフに隠れてしまってますが … )。映像で観る事が出来る
ヤードバーズ時代のジェフはレスポールを弾いているものだけであり、エスクワイヤーを弾く動いている
ジェフも観てみたかった・・・・・

ジェフがフィードバック奏法を初めて取り入れたのは何の曲か?どうやら上の二つ辺りの様です。
「Shapes of Things」はシングルカットされ全米11位・全英3位の大ヒット。当時流行した
サイケデリックソングである本曲においてこの奏法によって得られる効果はとても印象的です。
「Stroll On」は「Train Kept A-Rollin’」の別ヴァージョン。ジミー・ペイジとのツインギターで
ある事は有名ですが、「Train ~」よりもこちらの方が断然イイです。

ヤードバーズおいてジェフが全曲を弾いている唯一のアルバムが「Roger the Engineer」(66年)。
サイケソング、ブルース、当たり障りのないポップソングと何でもあり、無いのは節操といった内容の
本アルバムはジェフのプレイが堪能出来る作品です。
「Lost Woman」は前述のフィードバック奏法を更に大胆にフィーチャーした曲。
フィードバックとリフ、そしてかき鳴らされるコードと従来のギターソロとは一線を画する
実験的なスタイルは今聴いても圧倒されます。
もろブルースの「The Nazz Are Blue」は歌もジェフによるもの。しかしながらお世辞にも …
「What Do You Want」。後半におけるギターソロのドラマチックな展開はその後における
ジェフのプレイスタイルの萌芽と言うべきものです。

順序は逆になりましたが一番上の動画が「Jeff’s Boogie」。” ジェフ節 ” が満載の本曲は
初期における名演とされ過去から現在までジェフのプレイを語るうえで欠かせない曲です。
元ネタはチャック・ベリー「Guitar Boogie」。よく訴えられなかったこと …
ハンマリング&プリングによるトリルの連続、ハーモニックス、その後は当たり前に
なりますが60年代中期ではまだ珍しかったマルチトラックによるギターの多重録音や
エフェクター類の多様など、列挙すればキリがありませんがその辺りはまた別の機会に。

革新的なギタープレイ及びスタイルを確立した存在としてジミ・ヘンドリックスも共に挙げられます。
本作ではジミの影響を受けたのかな?などと今まで漠然と考えていたのですが、今回よく調べてみると
本作の録音は66年4~6月でジミが渡英したのは同年9月。ジミはロンドンに移ってすぐ活動を
始めていますが、それでも本アルバム制作よりは後の事でした(#43ご参照)。
共時性(シンクロニシティ)と言うのでしょうか、変革期・パラダイムシフトが起こるときには
全く接点が無いにも関わらず同じような事を考え、行う人々が現れるそうです。
ちなみにジェフはジミの英初ライヴを観に行っています。クイーンズゲートにある小さな地下のクラブ
だったそうですが、その演奏を聴いて ” あぁ、今の俺はギタリストなんかじゃないな ” と思ったとか …
その後親しくなりジェフ・ベック・グループでN.Y. のライヴハウスに出演していた頃には殆ど毎晩の様に
ジミが参加していたとの事。ある時はジミがギターを持ってきておらず、ジェフのギターをジミが弾いて
ジェフはベースを演ったとか。ロックファンには夢の様な空間 … 残念ながら音源等は無いようですけど。

#250 Jeff Beck_2

ジェフ・ベックの一番古い音源は何だろう?先ずはそう思いつきました。
ヤードバーズ加入前にあるバンドで活動していたというのは昔モノの本で読んだ記憶がありましたが、
ググってみると「The Tridents」というバンドとの事。ネット時代はイイですね。

91年にリリースされた三枚組のベストアルバム「Beckology」にその頃の録音が3曲収録されています。
「Wandering Man Blues」と「Trouble in Mind」がメドレーになっているのが上の動画です。
前者はオリジナルですがド直球のブルース。トリルの連続はこの頃から十八番だったようです。
後者もブルースのスタンダードナンバーですがこちらは1920年代の曲でサッチモも取り上げたとか。
ジェフがペダルスチールを演るとは聴いたことが無いのでスライド(ボトルネック)でしょうね。
後年結成されたハニードリッパーズの音楽的志向(嗜好)はこの辺りにあったのかな?とも感じられます。
でもあれはロバート・プラント主導でジェフは付き合わされた感が … まあイイか・・・

ライヴ音源の「Nursery Rhyme」。ボ・ディドリーによる所謂ジャングルビートの本ナンバーは、
少年期にR&Rの洗礼を受けたジェフにとって原点の様な音楽だったでしょう。
そのプレイたるや … この時から既にジェフ・ベックです(当たり前だ・・・・・)。
言葉が足りませんでしたね。この頃から後における彼のプレイスタイルがかなり垣間見えるという
意味においてです。
私はボクシングに例えるとエリック・クラプトンがオーソドックススタイル、ジェフは変則ファイターだと
勝手に思っています。ちょっとまて!「悲しみの恋人達」における泣きのギターは王道だろ!!
などと反論はごもっとも。あれもジェフのプレイの一つです。
クラプトンはカントリーテイストを取り入れたりした時期もありましたが、根っこはあくまでブルース。
奇をてらったりせずにひたすらブルースを追求しています。
一方ジェフはマイナーペンタトニックスケールを基調としたブルース及びR&Rが軸にある事は
間違いないのですが、音楽性は様々で、というかあまりこだわりは無くその時その時でイイと
思ったものを演っているだけの様な気がします。ハードロック、ソウル・R&B、フュージョンetc…
要は自分がギターで表現できる ” 声 ” をひたすら追求するまさにギター職人であり、
音楽性はその為のあくまでプラットフォームに過ぎないのです(ただの気まぐれ屋とも言えますが … )。
その為奏法も従来通りのものでは飽き足らず、トリッキーな変則奏法と呼ばれるテクニックや、
フィードバック奏法に代表される機材の特性(良くない面の)まで利用した音を模索していったのです。
これはジミ・ヘンドリックスと同じベクトルであったでしょう。まあジェフはステージでギターを
壊したり燃やしたりはしませんでしたけど・・・・・
前回取り上げた「Goodbye Pork Pie Hat」における多彩な音色の変化、それはピックアップ位置や
エフェクター、そして勿論ピッキングのニュアンスなどに因るものですが、まるで歌い手が場面場面で
声のトーンや発声を微妙に七変化させるが如く、そのフレーズごとにジェフが出したいと思った ” 声 ” を
表現する為の結果だったのです。これほどまでトーンにこだわったギタリストはジェフをおいて
他にはいません。それはジェフにとってギターは自分の ” 喉 ” つまり ” 声 ” だったからです。