器楽演奏者の音楽に関して、そのプレイの秀逸さと楽曲自体のクオリティーが必ずしも比例するとは限りません。曲はイイけど演奏が… という場合や、勿論その逆も往々にしてあります。
そこまで極端ではなくとも、そのプレイヤーの演奏をメインに聴くならばこのアルバムだけれど、作品そのものとしてはこちらの方が好き、といった事もこれまた往々にして …
今回は後者の方です。
ジェフ・ベック・グループがその名をタイトルに冠したアルバム「Jeff Beck Group」(72年)。そのジャケットから通称『オレンジ・アルバム』と称される本作はジェフやメンバー達のプレイが秀逸なのは勿論ですが、何より作品として素晴らしいものです。ジェフはその後におけるインストゥルメンタルの作品群が最もよく取り上げられる事が多いのですが、私はジェフのアルバムでこれがイチバン好きです。あっ!勿論「ブロウ・バイ・ブロウ」以降のフュージョン作品も鼻血が出るほど聴きましたよ。
A-①「Ice Cream Cakes」は本作を象徴する楽曲。コージー・パウエルのドラムがクールでありながら、それでいて怪しげな幕開けを告げます。コージーはこういった技術的には決して難しい訳ではなくとも、他のドラマーには浮かばない発想のフレーズが秀逸です。長く焦らされたかの様なイントロが終わるとボビー・テンチのこれまた粘っこいヴォーカルが入ってきます。
緊張と痴漢 … もとい弛緩という話は確かエルトン・ジョンの回でしたと記憶していますが、この粘っこい緊張感・テンションが一転して開放される瞬間があります。2:27からのパートがそうですが、その直前から始まるブリッジの展開が見事です。ジェフのトリッキーな音色及びフレーズにコージーとのショートソロの掛け合いが緊張感を極限まで高めることで、先述のそれらが発散される流れとなるのです。
ジェフのソロはパーツ一つ一つを取れば、例えば3:10当たりのフレーズなどはよく聴く事が出来、またどれも基本的にはマイナーペンタトニックに根差した指グセ的なものなのでしょうが、その組み合わせ・歌わせ方及びトーンのセレクションがジェフ独自のものであり、速く複雑かつ流麗に弾くという技術のベクトルとは一線を画するものであるからこそ(勿論それらは大事ですが)、彼が唯一無二のギタリストと呼ばれるのだと思います。
A-②「Glad All Over」は古いR&Rのスタンダードナンバー。ビートルズやブライアン・セッツァー等もカヴァーしている本曲を独自の味付けで煮染めています。ちなみにデイヴ・クラーク・ファイヴに同名ヒット曲がありますが全くの別物。原曲はロカビリー然としたものですが、こちらはそれをR&Bライズ・ファンカライズさせオリジナルとは異なる仕上がりに。えっ?そんなコトバ聞いた事ないって?当然です、今私がつくったからです (´・ω・`)
ジェフのプレイに関しては変則的なソロが印象に残りますが、特に終盤でのオブリガードやカッティングといったリズムギターも聴きどころです。ジェフは基本的に自分では歌わないギタリストなので、B.B.キングやエリック・クラプトンの様に歌とギタープレイ、という区分けが無いのでしょう。全てがジェフにとって ” 声 ” であり ” 歌 ” なのです。コージーの合間合間に入るカウベルが憎い(勿論イイ意味で)。
A-③に収録された「Tonight I’ll Be Staying Here with You」はボブ・ディランによる69年のナンバー。オリジナルはレイドバックした雰囲気ですが、見事なまでにR&Bスタイルのバラードとなっています。ボビー・テンチの歌の良さを引き出す為のチョイスかな?と思ってしまう程の名唱。今回ディランのオリジナルを初めて聴いたのですがそちらも素晴らしい。
A-④「Sugar Cane」はジェフと本作のプロデューサーであるスティーヴ・クロッパーの共作。地味なナンバーではありますが、名盤というものはその様な楽曲でもクオリティーが高いのです。
「Ain’t No Mountain High Enough」(#146ご参照)など数多の名曲で知られる夫婦ソングライターチーム アシュフォード&シンプソンによる「I Can’t Give Back the Love I Feel for You」にてA面は締めくくられます。初出は68年のリタ・ライトによる録音。のちにスティービー・ワンダーの妻となるシリータ・ライトです。ちなみにこれがシリータのデビュー曲。71年にはダイアナ・ロスもレコーディングしています。これに関しては原曲に沿った演奏でありシリータ版にかなり忠実かと思いますが、インストゥルメンタルであり、しかもコージー・パウエルのドラムですからだいぶ感じが変わるのは言わずもがな。
スティービーの「トーキング・ブック」に参加したのも同72年なので、その辺りが所以なのかな?と思っていたのですが調べてみると本作の録音が1月であり、「トーキング・ブック」にてジェフがレコーディングした正確な時期は分かりませんでしたが、発売月からすると(本作5月、トーキング・ブックは10月)スティービーのアルバムに参加するより前の様な気がします。 元々ジェフはモータウン系の音楽が好きであり、実際本バンドを組むにあたりメンバー探しも兼ねてモータウンで数々のセッションをしたと言われています。もっともコージーのドラムがハード過ぎて受け入れられなかったとも語られていますが・・・
A面だけでだいぶ書いてしまいました。B面は次回にて。