昨今は楽器を演らない若い方が多いそうです。楽器の習得には時間が掛かり過ぎて、趣味としては所謂 ” タイムパフォーマンス ” とやらが悪い部類のものだからとか … 音楽の制作に関してはDTMが主流でその必要がないとの事(もっとも鍵盤かギターといったコード楽器がある程度出来なければ作曲・編曲は無理なんですけどね)。とは言え昔もバンドを組むとなれば皆挙って「オレ、ヴォーカルやる!」と言ったものです。勿論その理由は楽器を練習しなくて良いからに他なりません … 時代が変わっても人間苦労はイヤなようです …
その場合は歌が上手いヤツが、もしくはジャイアン的な権力者(?)がヴォーカルとなりその他が楽器を担当する事になります。ジャイアンはともかく、歌が上手なら楽器やってなかったのにな~・・・ という方は私の年代では結構いるのでは?… ご同輩、かく言う私もその口ですよ・・・
ジェフ・ベックが76年にリリースしたアルバム「Wired」。前作のヒットを受けてさらにそのインストゥルメンタル路線を推し進めた本作は、マハヴィシュヌ・オーケストラのヤン・ハマーをプロデューサーに迎えてその作風を確立した事は以前も書きましたのでそちらをご一読頂ければ(#6)。
A-①「Led Boots」が最もインパクトのある楽曲でしょう。そのドラミングに圧倒されるのは衆目の一致する所であり、後にプロデューサーとしても有名になるナラダ・マイケル・ウォルデンによるものです。
B-②「Sophie」。楽曲及び演奏全体としては本作におけるベストトラックではないかと個人的に思っています。抒情的なパートとジャンプナンバーとしての魅力を兼ね備えたその見事なアレンジと、それを余す事なく表現し切った見事な演奏は非の打ち所がありません。ジェフのプレイだけを突出させるのではなく、他のメンバーを含め全てが高い次元で昇華されています。以前の投稿で既述ですが速く、複雑、かつ正確に演奏するという技術においては皆ジェフよりも優れたプレイヤー達です。そしてこれも既述である事ですけれどもジェフはそういう意味においてはテクニック的に敵わない面子であってもあくまで ” ジェフ節 ” を貫き通します。そういうスタイル及びプレイヤーとしての信念が彼を唯一無二の存在にしたのでしょう。ちなみにB-③の「Play with Me」でジェフはソロを取っていません。とかく我儘、気分屋、すぐへそを曲げると言われていた人ですが、こと音楽に関してはそれがグッドプレイ・グッドミュージックであれば何も異存はなかったのでしょう。
順序を遡りますが上から二番目の動画がA-③「Goodbye Pork Pie Hat」。ジェフの真骨頂と言えるプレイは彼の演奏だけを取れば本作における、と言うよりもそのキャリア中全ての楽曲において白眉だと私は思っています。ジェフの訃報を受けて記した以前の投稿(#249)においても述べましたが、場面場面でチョイスするそのトーンの全てが素晴らしい。歌い手が様々な表情付けをするが如く多彩な音色やその ” 歌わせ方 ” などは歴代のギタリストでこの人の右に出るプレイヤーはいないと思います。ピックアップポジションやエフェクターのセレクト及びセッティングなども勿論あるのですが、基本はやはりその弾き方。よく歪ませるにはこのディストーションが、とか機材だけに主軸の置かれる論議を耳にする事が多いですが、それも大事なのは重々承知で敢えて言いますけれども、弾き手のニュアンス付けが成っていなければそれは上辺だけのもの。強くはじけばそれだけで歪んだトーンになりますし、ネック側で弾くかそれともブリッジ側かで全く異なってくるのです。
以前どこかで目にし、本ブログでも書いた記憶がありますが、イギリスのミュージシャン達の間で口にされる言葉で「A tone is in one’s finger」(多分間違ってないと思う …?)というものがあると。つまりその音色は指から生まれるんだ、という事。これも以前目にした記事ですけれども、B.B. キングが来日公演を行った際にコーディネーターを務めた方がアンプの手配を頼まれたのですが、その時期B.B. が使用していたアンプが日本では用意できない機種であった為にその旨を伝えると、それではフェンダーのツインリバーブを二台用意してくれと依頼されたそうです。普段使っている機材でなくて大丈夫なのかな?と思っていたそうですが、B.B. が来日し、リハーサルの場に立ち会ってその音を聴くとそれは紛れもなくB.B. キングの音であったそうです。
よくそのギタリストの様な音を出したくてギター本体はもとより、アンプやエフェクター及びそのセッティングまで微に入り細に入り解説や談義をしている人達を目にします。それを決して否定はしませんし、そういう努力は必要だと思いますが、しかし機材面で全く同じ環境を揃えたとしても、同じ音にはならないというのがこれまた多くのギタリストが口を揃えて言う事です。つまり ” トーンは指から生まれる、そのギタリスト自身の指にあるのだ ” という事に他ならないのです。
80年頃からジェフがピック弾きから指弾きへ演奏法を変えたのはファンや洋楽通には結構知られている事ですが、それもより肉声に近い ” 歌わせ方 ” を求めたが故の事だったのではないでしょうか。
エリック・クラプトンと違って、ジェフ・ベックという人はお世辞にも歌の上手い人ではありませんでした(彼の全キャリア中でもヴォーカルを取っているのは数曲のみ)。だからこそ彼にしか歌えない ” 歌 ” をギターで表現した結果がギター本体を含めた様々な機材を用いた音色の変化付けであり、時にはハウリング(フィードバック)という音響トラブルでさえも ” 歌 ” の一部にしてしまったのは、ただ単に奇をてらったのでなく、貪欲に自らの ” 歌 ” を歌いたいが為の事だったのではないでしょうか。この辺りはジミ・ヘンドリックスと同じ方向性であったでしょう。二人がロックギターにおける革命児と称されるのはこれらに由来するのです。もっともジェフはギターに火を付けるという事はしませんでしたが …