#264 Simon Phillips_2

サイモン・フィリップスのプレイスタイルを語るうえで欠かせないのがダブルベースドラムです。通常のドラムセットでは利き足側に一つしかセッティングされていないベースドラム(大太鼓)を二つ使用し、両足で迫力ある低音の連打が可能になります。日本では ” ツーバス ” と称されますが、英語圏の人にこの単語を使っても二台の乗合自動車の事か?となります。しかし短くて済むのでここでは便宜的にこの単語を用います。
上は少し古く画像も良くないのですが、92年に発売された教則ビデオ「Simon Phillips Returns」の演奏パートのみを編集した動画です。私もVHSビデオで持っていますが何しろ再生機が無いのでこうやってアップされていると助かります。それが著作権的に云々は置いといて…
ツーバス、左右両利き、オクタバンやゴングバスといったサイモンのトレードマークとなった独特のドラム類の使用など、彼の個性が全て網羅されていると言って良い動画です。
左右両利きが彼の個性が最も表れているプレイスタイルでしょう。通常右利きは右手でリード、つまりシンバルを刻み、左手にてスネアドラムを2・4拍でバックビートを叩き、またジャズではフィルイン、いわゆる ” オカズ ” を入れます。
あっ! (´・ω・`) オカズと言っても皆さんが考えるような夜のオ
>>>>>!ヽ( ・∀・)ノ┌┛Σ(ノ;`Д´)ノ
オマエだけだよ … そんな事考えるのは …(*´∀`;) …
サイモンは左手でリードを取り、右手でスネアやタム類を叩くことが多いです。ハイハットシンバルを刻みながら左手でスネアを叩く時に手が交差しない、それと右側に配置されているタム類が叩きやすい、というのが理由でしょう。その為かハイハットが非常に低くセッティングされています。
同じようなプレイスタイルで知られるのがビリー・コブハムです。実際影響を受けたドラマーの一人としてコブハムの名が挙がっています。ここで一つ疑問が生じます。サイモンは彼のプレイスタイルから左右両利きをインスパイアされたのか?というものです。コブハムは44年、サイモンとは13歳離れているので彼が物心ついた頃にはもうマハヴィシュヌ・オーケストラ等で活躍していましたが、海を隔てた(コブハムは米国人)、ましてやインターネットはおろかビデオさえも普及していない頃に視覚的にそのプレイを確認するのは困難だったでしょう(コブハムがロンドンへ公演しに来た事はあったかもしれませんが)。
確たるソースがある訳では無いのですが、ツーバスセッティングとなりタム類を増やしビッグセットへ移行する過程でオーソドックスな右利きのスタイルには限界を感じ、この様なプレイになったとも言われています。
コブハムもツーバスのビッグセットなので自然とそうなっていったのかと思われます。シンクロニティ(共時性)というやつでしょうか。必要性を感じその答えを求めると離れた場所でも自然と同じことをする人が出現するのでしょう。もっともこの場合は ” 必要は発明の母 ” と言う方が適切でしょうかね?

上は前回触れたジェフ・ベック「There & Back」(80年)に収録された「Space Boogie」におけるプレイをサイモン自身が解説している動画です。誠にイイ時代になりました。
「Space Boogie」におけるドラミングの元ネタが先にもその名が出たビリー・コブハム。73年にリリースしたソロ作「Spectrum」に収録された「Quadrant 4」がそれです。

昔から言われていましたが解説動画でサイモン自身が言及しています。別にパクリなどではなくリスペクト・オマージュというやつでしょう。
シンバルでジャズビートの ” チーンチッチ・チーンチッチ ” を刻み、スネアで2・4拍の強いバックビートとその他に聴こえるか否かくらいの囁くような所謂インサイドスネアが入っています。口で言えば ” ンタッッタ・ンタッッタ ” という感じです。これが
ツーバスによる ” ドッドドッドドッドドッド ” というハネた連打の上に乗るとあのようなドラミングになります。口で言うのは簡単ですけどね・・・

そのテクニカルなプレイやフレージングのセンスなどは既に語り尽くされており、私が今更ここで言及するよりもそれらを参照してもらった方が良いと思います。であるからして私なりのサイモン・フィリップスというドラマーの魅力を述べたいと思います。
テクニックやフレーズと並んでサイモンのプレイにおいて特筆すべきはその ” 空気感 ” にあります。ドラムの空気感などという言葉は聞いた事がない、と言う方もおられるでしょう。それもそのはず、今私が作った言葉だからです。
あっ! (´・ω・`) 読むのを止めないでください!もうちょっとだけこの駄文にお付き合いを …
亡くなった村上 “ポンタ” 秀一さんがその昔「ドラムほどブレスが大事な楽器はないんだよ!ブレスがよ!!」と言っていました。その時は ” ムズカシくてよくわかんない? (´・ω・`)?? ” と思ったものですが、やがてその言葉の意味が少しずつ分かってきた様な気がしました。要は口で自身が演奏するフレーズを歌う、という事です。ギター、ベース、ピアノ奏者なども自然に演っている事ですね。それが上手ければジョージ・ベンソンの様にシンガーとしても一流になりますし、そうでない場合はキース・ジャレットの様になります(ピアノは最高ですよ … )。日野元彦さんも同様の事を言ってました。トコさんもよく叩きながら口が動いてましたね。
それらがよくわかるプレイはアグレッシヴなものよりセンシティヴなドラミングにおいてです。その例をやはり「There & Back」から二曲、「The Pump 」と「The Golden Road 」です。本作では地味であるが故にあまり取り上げられない楽曲ですが、サイモンの ” 息づかい ” が聴こえるドラミング、特に後者においてそれが顕著です。
静かなパートにおいて息をグッと止める瞬間、逆にそれを吐き出す瞬間などが如実に感じられます。勿論それらは技術面と乖離したものではなく、前者はフラム(両手ちょっとずらし打ち)などでスタッカート感を出し、後者はハイハットシンバルのオープン音等で表現しています。ただその奏法を用いたから ” 息づかい ” が感じられるかというとそれは否。やはり叩き手の歌心が大きく影響します。口から離れる楽器ほど感情表現を込めるのは難しいです。打楽器はその最たるものでしょう。しかしその ” 息づかい・歌心 ” があるからこそ、静かなパートはより静寂さを増し、そして動的な場面ではよりダイナミクスが強調されるのです。「The Golden Road 」における二番後半の盛り上がりはそれらによってより劇的に成功しているのです。

二回に渡ってサイモン・フィリップスを取り上げてきましたが、その全てを語りつくすことなど到底不可能です。使用機材やその独特な音色なども魅力ではありますが、それらも言及しているサイトは山ほどありますので良ければそちらを。
サイモンは90年頃からL.A. に移り住んだそうですが、出身は前回述べた通り英国ロンドンです。同じく英国人ドラマーであるビル・ブラッフォードやスチュワート・コープランド(生まれは米ですが、親の仕事で世界中を渡り歩きデビューはイギリスで)など、イギリスには個性的なドラマーが多い様に感じられます。勿論その祖はリンゴ・スターである事は言わずもがなですが。
ブラッフォードは以前インタビューで「イギリスには自国のパーカッション文化がない。だからより色々貪欲に他のそれらを吸収した」の様な旨を語っていました。これはドラムに限らず他の楽器でも、海を隔てた米国のブルースという音楽に心酔したギタリストがイギリスに多かったのもそれと似ているでしょう。エリック・クラプトン(この間また来日していましたね。元気なのは何よりです。)しかり、そしてジェフ・ベックもまたしかりです。
アメリカで生まれたロックンロールに憧れ、それを自身達の中で消化(昇華)し、10年も経たない内にロック・ミュージックへと進化(深化)させたのはビートルズ、ローリング・ストーンズ、フー、キンクスといったイギリスの若者達でした。悪い言い方をすれば無いものねだりとでも言うのでしょうが、英国人の中にはそれらを貪欲に取り入れ、そしてオリジナリティ、新しいものを産み出す何かがあるのかもしれませんね。

あっ! (´・ω・`) サイモンの話題から外れて話が取っ散らかってしまいました。なにか話のオチを付けなければ …
先述のシンバルによるジャズビートの ” チンチキ・チンチキ ” というフレーズですが、私の様な胡散臭い人間が叩くと別の聴こえ方がします。
ほう!それはどんな風に? (*´∀`*)
” インチキ・インチキ ” と聴こえます。おあとがよろしいようで。
イヤ、だから … ホントに … (´・ω・`)

#263 Simon Phillips

前回のジェフ・ベック回にて「There & Back」を取り上げるならあの曲が抜けてんじゃね!?と思われた方、貴方は鋭い。そうです。今回からの為に敢えて外しておいたのです。ナニ?誰も思わない?その心は?
なぜなら誰も読んでないからです。
おあとがよろしいようで。
イヤ、だから全然よろしくないってば … (´・ω・`)

アルバム「There & Back」B-④に収録された「Space Boogie」。本作におけるハイライト的ナンバーであり、特にその怒涛のドラミングには誰もが「なんじゃあ!こりゃあ!!」と度肝を抜かれる事でしょう。勿論私もその一人です。本曲にてサイモン・フィリップスというドラマーの存在を知った音楽ファンも多いはず。
あっ!知ってましたか?このブログって一応ドラム教室のブログなんですよ。書いてる本人もたまに忘れるんですけどね。ナニ?誰も知らない?その心は?なぜなら誰も読ん
>>>>>しつこい!ヽ( ・∀・)ノ┌┛Σ(ノ;`Д´)ノ

サイモン・フィリップスは1957年英国ロンドン生まれ。父親がジャズのビッグバンドを率いているという音楽に恵まれた環境で育ちました。プロとしてのキャリアは12歳からそのビッグバンドにて始まります。ある時バンドのドラマーが退団してしまいどうしようか?と悩んでいる父親に対してサイモンの母が「あら?ドラマーならここにいるじゃない?」と言って彼を指し示したというエピソードがその昔ドラムマガジンに載っていました。本人へのインタビューを元にしたものなので間違いないでしょう。
やがてセッションミュージシャンとなった彼は70年代半ばからメキメキとその頭角を現します。多様なセッションワークをこなす彼ですが、意外にも当初はヘヴィメタル・ハードロックといったジャンルの音楽でその存在が知られる様になりました。

ジューダス・プリーストのアルバム「Sin After Sin」(77年)のオープニングナンバーである「Sinner」。ロックスピリット溢れるプレイは疾走感に満ち満ちており、彼の8ビートドラミングが堪能出来ます。

マイケル・シェンカー80年のデビューアルバム「The Michael Schenker Group」に収録された「Armed and Read」もストレートなロックチューン。前回取り上げたジェフ・ベックの「El Becko」と同年の録音ですが、一流のプレイヤーは楽曲に沿った演奏をするのは勿論ですけれども、良い意味での「爪痕」を残してその人にしか出来ないプレイをして、一聴すれば「あっ!あの人かな?」と思わせてくれます。スティーヴ・ガッドやジェフ・ポーカロもそうですが、まるで職人がその作品に銘を刻むように。

時系列は前後しますが、サイモンの名を広く世に知らしめた作品が、ブライアン・イーノやフィル・マンザネラといった英国プログレ界の大御所達が結成した「801」によるライブアルバム「801 Live」(76年)です。若干19歳という若さは感じさせないほど貫禄にみなぎり、しかしながら若々しいエネルギーに満ち溢れたそのドラミングは大御所達と対等に渡り合っており、彼らのプレイに対して素晴らしいレスポンス、時としてサイモンからアグレッシヴに仕掛けるといった、本作におけるエッセンスの一端を担っています。上は言わずと知れたビートルズナンバー「Tomorrow Never Knows」。サイケソングがプログレへ。相性が良いのは当然かと

同アルバムからエンディング曲である「Third Uncle」。ストレートな8ビートも変態的プレイ(褒め言葉ですよ)も見事にこなすのは、正常を知っているから狂気を演じられる役者の様な感性ではないかと私は思います。ほんとに頭おかしい人は自身の異常性に気が付きませんからね。

ジェネシスのマイク・ラザフォード初のソロアルバム「Smallcreep’s Day」(80年)でもプレイしています。サイモンの話題から少し離れますが、ジェネシスのメンバーがこれまた当時のプロデューサーであるデヴィッド・ヘンツェルと組んだ作品であるのでジェネシス色が濃くなるのは当然の事でしょう。メロディックな部分を担っていたのがトニー・バンクスであれば、リズミックなアイデアを盛り込んでいたのはマイクやフィル・コリンズだったのかと推測出来ます。ジェネシスの「Duke」(80年)とカラーが非常に似ていますが、制作時期がほとんど同時進行であったのでその様になったのは自然な流れだったのかと(♯24ご参照)。上はA面丸々費やした組曲であるアルバム同名曲における「Out Into The Daylight」。組曲後半のハイライトである本パートを盛り上げるそのドラミングは20代前半の青年とは思えない円熟味すら感じさせます。優れた表現者は早熟である事が多く、年齢など関係ないのかもしれません。

マイク・オールドフィールドによる83年のアルバム「Crises」でもサイモンの素晴らしいドラミングが堪能出来ます。マイク・オールドフィールドと言えば「チューブラー・ベルズ」、それは映画「エクソシスト」のテーマとして有名になりましたが、実は当初映画製作者側が無断で使用し、皮肉にも映画の大ヒットによって本曲が有名になり、またそれは後に大レコード会社へと発展するヴァージンレコードの第一弾作品であった、というのは以前どこかで書いた記憶があるのですが、それが何回目であったかはもうわかりません …
「Crises」はA面タイトル曲は従前通りのプログレナンバー(とは言えそれ以前よりはだいぶ聴きやすくなっています)、B面は馴染みやすいポップナンバーとカラーが分かれています。どちらも見事に叩き分けているのはこれまで述べてきた通りですが、やはり長尺曲のラストを飾るプレイが聴き所であるのは言わずもがなです。
本曲は20分以上ありますが、お時間の許す方もそうでない方も良ければご一聴の程。

何しろセッションプレイヤーですので紹介出来るのは極々ほんの一部です。90年代以降はジェフ・ポーカロ亡き後のTOTOに加入した事はあまりにも有名であり、またジャズ・フュージョン系のセッションも含めると切りがありませんのでこの辺りで。次回以降はそのプレイスタイルや機材面などに触れて行きたい思います。