サイモン・フィリップスのプレイスタイルを語るうえで欠かせないのがダブルベースドラムです。通常のドラムセットでは利き足側に一つしかセッティングされていないベースドラム(大太鼓)を二つ使用し、両足で迫力ある低音の連打が可能になります。日本では ” ツーバス ” と称されますが、英語圏の人にこの単語を使っても二台の乗合自動車の事か?となります。しかし短くて済むのでここでは便宜的にこの単語を用います。
上は少し古く画像も良くないのですが、92年に発売された教則ビデオ「Simon Phillips Returns」の演奏パートのみを編集した動画です。私もVHSビデオで持っていますが何しろ再生機が無いのでこうやってアップされていると助かります。それが著作権的に云々は置いといて…
ツーバス、左右両利き、オクタバンやゴングバスといったサイモンのトレードマークとなった独特のドラム類の使用など、彼の個性が全て網羅されていると言って良い動画です。
左右両利きが彼の個性が最も表れているプレイスタイルでしょう。通常右利きは右手でリード、つまりシンバルを刻み、左手にてスネアドラムを2・4拍でバックビートを叩き、またジャズではフィルイン、いわゆる ” オカズ ” を入れます。
あっ! (´・ω・`) オカズと言っても皆さんが考えるような夜のオ
>>>>>!ヽ( ・∀・)ノ┌┛Σ(ノ;`Д´)ノ
オマエだけだよ … そんな事考えるのは …(*´∀`;) …
サイモンは左手でリードを取り、右手でスネアやタム類を叩くことが多いです。ハイハットシンバルを刻みながら左手でスネアを叩く時に手が交差しない、それと右側に配置されているタム類が叩きやすい、というのが理由でしょう。その為かハイハットが非常に低くセッティングされています。
同じようなプレイスタイルで知られるのがビリー・コブハムです。実際影響を受けたドラマーの一人としてコブハムの名が挙がっています。ここで一つ疑問が生じます。サイモンは彼のプレイスタイルから左右両利きをインスパイアされたのか?というものです。コブハムは44年、サイモンとは13歳離れているので彼が物心ついた頃にはもうマハヴィシュヌ・オーケストラ等で活躍していましたが、海を隔てた(コブハムは米国人)、ましてやインターネットはおろかビデオさえも普及していない頃に視覚的にそのプレイを確認するのは困難だったでしょう(コブハムがロンドンへ公演しに来た事はあったかもしれませんが)。
確たるソースがある訳では無いのですが、ツーバスセッティングとなりタム類を増やしビッグセットへ移行する過程でオーソドックスな右利きのスタイルには限界を感じ、この様なプレイになったとも言われています。
コブハムもツーバスのビッグセットなので自然とそうなっていったのかと思われます。シンクロニティ(共時性)というやつでしょうか。必要性を感じその答えを求めると離れた場所でも自然と同じことをする人が出現するのでしょう。もっともこの場合は ” 必要は発明の母 ” と言う方が適切でしょうかね?
上は前回触れたジェフ・ベック「There & Back」(80年)に収録された「Space Boogie」におけるプレイをサイモン自身が解説している動画です。誠にイイ時代になりました。
「Space Boogie」におけるドラミングの元ネタが先にもその名が出たビリー・コブハム。73年にリリースしたソロ作「Spectrum」に収録された「Quadrant 4」がそれです。
昔から言われていましたが解説動画でサイモン自身が言及しています。別にパクリなどではなくリスペクト・オマージュというやつでしょう。
シンバルでジャズビートの ” チーンチッチ・チーンチッチ ” を刻み、スネアで2・4拍の強いバックビートとその他に聴こえるか否かくらいの囁くような所謂インサイドスネアが入っています。口で言えば ” ンタッタッタ・ンタッタッタ ” という感じです。これがツーバスによる ” ドッドドッドドッドドッド ” というハネた連打の上に乗るとあのようなドラミングになります。口で言うのは簡単ですけどね・・・
そのテクニカルなプレイやフレージングのセンスなどは既に語り尽くされており、私が今更ここで言及するよりもそれらを参照してもらった方が良いと思います。であるからして私なりのサイモン・フィリップスというドラマーの魅力を述べたいと思います。
テクニックやフレーズと並んでサイモンのプレイにおいて特筆すべきはその ” 空気感 ” にあります。ドラムの空気感などという言葉は聞いた事がない、と言う方もおられるでしょう。それもそのはず、今私が作った言葉だからです。
あっ! (´・ω・`) 読むのを止めないでください!もうちょっとだけこの駄文にお付き合いを …
亡くなった村上 “ポンタ” 秀一さんがその昔「ドラムほどブレスが大事な楽器はないんだよ!ブレスがよ!!」と言っていました。その時は ” ムズカシくてよくわかんない? (´・ω・`)?? ” と思ったものですが、やがてその言葉の意味が少しずつ分かってきた様な気がしました。要は口で自身が演奏するフレーズを歌う、という事です。ギター、ベース、ピアノ奏者なども自然に演っている事ですね。それが上手ければジョージ・ベンソンの様にシンガーとしても一流になりますし、そうでない場合はキース・ジャレットの様になります(ピアノは最高ですよ … )。日野元彦さんも同様の事を言ってました。トコさんもよく叩きながら口が動いてましたね。
それらがよくわかるプレイはアグレッシヴなものよりセンシティヴなドラミングにおいてです。その例をやはり「There & Back」から二曲、「The Pump 」と「The Golden Road 」です。本作では地味であるが故にあまり取り上げられない楽曲ですが、サイモンの ” 息づかい ” が聴こえるドラミング、特に後者においてそれが顕著です。
静かなパートにおいて息をグッと止める瞬間、逆にそれを吐き出す瞬間などが如実に感じられます。勿論それらは技術面と乖離したものではなく、前者はフラム(両手ちょっとずらし打ち)などでスタッカート感を出し、後者はハイハットシンバルのオープン音等で表現しています。ただその奏法を用いたから ” 息づかい ” が感じられるかというとそれは否。やはり叩き手の歌心が大きく影響します。口から離れる楽器ほど感情表現を込めるのは難しいです。打楽器はその最たるものでしょう。しかしその ” 息づかい・歌心 ” があるからこそ、静かなパートはより静寂さを増し、そして動的な場面ではよりダイナミクスが強調されるのです。「The Golden Road 」における二番後半の盛り上がりはそれらによってより劇的に成功しているのです。
二回に渡ってサイモン・フィリップスを取り上げてきましたが、その全てを語りつくすことなど到底不可能です。使用機材やその独特な音色なども魅力ではありますが、それらも言及しているサイトは山ほどありますので良ければそちらを。
サイモンは90年頃からL.A. に移り住んだそうですが、出身は前回述べた通り英国ロンドンです。同じく英国人ドラマーであるビル・ブラッフォードやスチュワート・コープランド(生まれは米ですが、親の仕事で世界中を渡り歩きデビューはイギリスで)など、イギリスには個性的なドラマーが多い様に感じられます。勿論その祖はリンゴ・スターである事は言わずもがなですが。
ブラッフォードは以前インタビューで「イギリスには自国のパーカッション文化がない。だからより色々貪欲に他のそれらを吸収した」の様な旨を語っていました。これはドラムに限らず他の楽器でも、海を隔てた米国のブルースという音楽に心酔したギタリストがイギリスに多かったのもそれと似ているでしょう。エリック・クラプトン(この間また来日していましたね。元気なのは何よりです。)しかり、そしてジェフ・ベックもまたしかりです。
アメリカで生まれたロックンロールに憧れ、それを自身達の中で消化(昇華)し、10年も経たない内にロック・ミュージックへと進化(深化)させたのはビートルズ、ローリング・ストーンズ、フー、キンクスといったイギリスの若者達でした。悪い言い方をすれば無いものねだりとでも言うのでしょうが、英国人の中にはそれらを貪欲に取り入れ、そしてオリジナリティ、新しいものを産み出す何かがあるのかもしれませんね。
あっ! (´・ω・`) サイモンの話題から外れて話が取っ散らかってしまいました。なにか話のオチを付けなければ …
先述のシンバルによるジャズビートの ” チンチキ・チンチキ ” というフレーズですが、私の様な胡散臭い人間が叩くと別の聴こえ方がします。
ほう!それはどんな風に? (*´∀`*)
” インチキ・インチキ ” と聴こえます。おあとがよろしいようで。
イヤ、だから … ホントに … (´・ω・`)