デヴィッド・ギルモアのプレイにおける真骨頂とは、全くの私見ですが、ストラトキャスターというギターの
持ち味であるクリーントーンを活かした、浮遊感とも呼べる独特のサウンド(勿論、リバーブ・コーラス・
ディレイといったエフェクター類の存在も欠かせません)と、それに基づくブルースフィーリングに溢れた
プレイにあると思っています。当然、場面場面ではディストーションサウンドも効果的に使いますし、
一概に言えるわけではありません。そして同じく重要な要素として、ピッキング等によるニュアンスの
付け方の巧みさがあります。アンプのセッティングやエフェクター類の使い方にも長けているのですが、
何よりも大本の”演奏者自身によるトーンコントロール”がしっかりなされているということです。
私は一応ギタリストでもあり、鼻血が出るほどギターが好きな人間ですが、本職がドラムなのである意味
客観的に見ることが出来ます。エレキギター奏者や電子キーボード奏者の中には、テクノロジーに溺れて
しまって、基本的に音色とは人間の口・指・手足から生まれるものだという、その他の全ての楽器に
おいて当り前の事を忘れてしまっている人達が少なからずいる、という現実があります。
ギルモアのプレイはそれを改めて思い出させてくれるのです。それが顕著に堪能できるのがこの曲です。
勿論本曲中において、エフェクター類による音色の操作を行ってないわけではありません。むしろ効果的に
それらを使いこなしていると言えます。しかしそれとは別の次元で”指”によるニュアンス、ひいてはトーンの変化の付け方が絶妙なのです。これらはジェフ・ベックなどに通じる所があると私は思っています。
これ以外ではベタなところですが、「Time」「Another Brick in the Wall part2」なども名演として
よく挙げられるプレイです。が、あえてその辺りは外してもう一曲選ぶとすればこの曲です。
また前回の記事で述べましたが、ギルモアの演奏において欠かすことが出来ないのはスライド(スティール
ギター)によるプレイです。「One of These Days(吹けよ風、呼べよ嵐)」か、これか散々迷いましたが
張るのはこちらにします。勿論「吹けよ風、呼べよ嵐」も是非聴いてください。
「Shine On You Crazy Diamond part2」。”泣き叫ぶギター”、というのはまさしくこういうプレイの
事を言うのではないでしょうか。勿論スライド(これはラップスティールによる演奏らしいです)以外の、
本曲中における多重録音によるプレイも含めて見事であるのは言うまでもありません。
期せずして、全てがアルバム「Wish You Were Here」からの選曲となってしまいました。この偏りは
流石にどうかと思いはしましたが、良いものは良いのですから仕方ありません・・・( ̄m ̄*)…
他にも「Atom Heart Mother」や「Echoes」などの長尺曲中におけるギターソロ、
「Wish You Were Here」でのアコースティックギターによる素朴なプレイ、またアルバム「おせっかい」収録の「SAN Tropez」はピンク・フロイドとしては珍しいジャジーな楽曲。アコギ、エレキ、
そしてスライドのそれぞれを効果的に用いた隠れた名演です。
前回までの記事で既に述べましたが、ピンク・フロイドというバンドはポップミュージック界において、
非常に革新的な音楽を創り上げた側面がある一方、ファンダメンタルな音楽的要素として、ブルースを
ベースとしたとても分かり易いものも持ち合わせていました。それが世界的な成功を成し遂げた要因の
一つであると思いますが、ギルモアのギタープレイはそれに大変寄与した、というよりも彼のギターが
あったからこそ、あの音楽スタイルは築かれたと言っても過言ではないと思うのです。
ギルモアと同世代にはあまりにも多くの”ギターヒーロー”達がおり、ピンクフロイドの名声に比べて、
彼自身が取り上げられることは今ひとつ少ないかと思われます。しかしプレイヤーとしての
オリジナリティと、そのバンドサウンドにおける調和という、どちらかが際立てば片方がスポイルされると
いう相反する側面を見事に両立させ、バンドを長く存続し得ることが出来た。見落とされがちな事ですが
これはプレイヤー・音楽家(この場合は作家・プロデューサー的意味合い)として、共に非凡な能力を
有していなければ決して成し得ない、稀有なミュージシャンの一人だと私は思うのです。
2回に渡ってデヴィッド・ギルモアを取り上げてきました。先述の通り、エリック・クラプトンや
ブライアン・メイといった同年代のスーパーギタリスト達のように、ギタリストとしてスポットライトが
当たることは決して多くはありませんが、その唯一無二の個性を持ったギタリスト、ひいては音楽家としての素晴らしい功績を、僅かばかりでも紹介できる一助になることが出来れば幸いに思います。