#36 With a Little Help from My Friends

前回、「キープ・ミー・ハンギン・オン」について触れましたが、オリジナルがシュープリームス
(この場合は最初にレコードに吹き込んだという意味で)、そのオリジナルと同じ位有名な
ヴァージョンとしてヴァニラ・ファッジ版があると述べました。
この様にシングルヒットした、もしくはヒットしたアルバムに収録されている
有名曲をカヴァーして、その曲が取り上げられる際、オリジナルと並列して取り上げられる程の
カヴァーヴァージョンというものがロック・ポップス界には存在します。
勿論ジャズのスタンダードナンバーの様にカヴァーされるのが常である楽曲は除外します。
マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」におけるダニー・ハサウェイ版、
「スタンド・バイ・ミー」におけるベン・E・キングとジョン・レノン。
そして今回のテーマである言わずと知れたビートルズ「With a Little Help from My Friends」。
このカヴァーでの決定版は何と言っても69年のジョー・コッカー版にとどめを刺すのでは。

ウッドストックにおける本曲の歌唱はあまりにも有名なところ。とにかくこの人は問答無用の
声をしています、ずるいと言って良いほどに。ですが、ミュージシャンとして御多分に漏れず、
彼もドラッグと酒で身を持ち崩した人です。初期はレオン・ラッセル等のサポートにより
素晴らしい作品を残すものの、先述した持ち前の”だらしなさ”から仲間が去って行ってしまいました。
私の世代ですと、82年の映画『愛と青春の旅だち』主題歌「Up Where We Belong」の印象が
先ず初めにありますが、当時もコッカーはヘロヘロのタリラリランだったそうです。が、
何なのでしょう?この歌は!。決して喉の状態が良くない事は間違いないのですが、そのふり絞った
しわがれ声は唯一無二の感動を人々に与えて止みません。彼はどんなコンディションでも
素晴らしいプレイをするという、ある意味で真のプロフェッショナルと呼べるのかもしれません。
でも、やっぱりタリラリランのラリパッパは良くないですけどね・・・(´Д`)。

 

 

 


コッカーは1stアルバムにて、トラフィックのデイヴ・メイソン作「Feelin’ Alright 」も
カヴァーしています。
トラフィックは英国で、”神童”スティーヴ・ウィンウッドとデイヴ・メイソンを中心に
結成されたバンド。
10代半ばでスペンサー・デイヴィス・グループにて天才少年と
その名声を不動のものとしたウィンウッドが次なる活動の場として67年にデビュー。
ウィンウッド、メイソン共にイギリス人でありながらブラックミュージックに傾倒していた
人達です。しかし双頭バンドというものはうまくいかないのが常なのか、ウィンウッドが
ブラインド・フェイスを組みために一度バンドを離れ、戻って来た時には今度は
メイソンがバンドを離れます。
60年代半ば、E・クラプトンやジミ・ヘンドリックスの登場により、イギリスでは
ブルースブームが巻き起こりましたが、ブラックミュージックは勿論ブルースだけでは
ありません。R&B、ソウル、ゴスペル、ファンクetc…。
今回のテーマであるコッカー版「With a Little ・・・」は、原曲を見事なまでに
R&B・ゴスペルのスタイルへ昇華させています。またトラフィックもブラックミュージックを
英国風に取り込んだバンドの走りと言えるでしょう。
まだ本国アメリカでは人種差別が残っていた60年代に、イギリスでは自国にない音楽である
ブラックミュージック
を差別感情など関係無く積極的に取り入れる動きがありました。

しかし言うまでもなく、イギリスにおいてブラックミュージックをロックに取り入れた先駆者は
ローリング・ストーンズに他なりません。ビートルズ・フー・キンクス、皆ブラックミュージックの
影響を当然受けましたが、ストーンズほどそれに傾倒していたバンドはなかったでしょう。
ビートルズが8年間のその活動にて、劇的なまでにポップミュージックを変革したのに対し、
ストーンズは今日に至る50年以上に渡って頑固なまでにR&R、一途にブルースと、
そのスタイルを守り通してきました(多少流行りを取り入れることも勿論ありましたが)。
これに関してはどちらが良い悪いはありません、それぞれの個性があるだけです。

ギター中心のロックミュージックに関しては、どうしてもギタリストのプレイスタイルに注目が
集まってしまい、それが英米問わずブルースに根差した音楽性に注目が集まってしまいがちです。
私も鼻血が出るほどブルースが好きな人間ですが、ロックに影響を与えたブラックミュージック、
先述の通りそれはブルースだけではありません。
ロック史において地味な動きではありましたが、ストーンズ達から始まり、更に60年代後半から
興った、特にイギリスにおけるブラックミュージック賛美とも言えるロックは、イギリス古来の
トラッドフォーク、ひいてはケルト音楽(大げさかな…)などと混じり合い独自の発展を遂げました。
例えば、日本人でも知らないような事を、日本フリークの外国人の方が非常にマニアックな知識を
有していたりすることがありますが、無い物ねだりと言うのでしょうか、自分(自国)にないもの
だからこそ余計に憧れる、というきらいが人間にはあるのかもしれません。

ウッドストックでの「With a Little ・・・」を張るのはベタ過ぎるので、今回は02年の
エリザベス女王戴冠50周年ライヴにおけるコッカーのプレイを観てもらいたいと思います。
フィル・コリンズ、ブライアン・メイといった錚々たる面子をバックに従え堂々の歌いっぷり。
勿論ウッドストック当時の声のハリなどはあるはずもありませんが、ワンアンドオンリーの
この歌声は誰にも真似出来ないのです。
ジョー・コッカーは14年に惜しくも亡くなりました。享年70歳。先述の通り、薬物と酒に溺れた
その生活(80年代前半には何とか脱却出来たらしいですが)は決して褒められたものでは
ありませんが、”魂を振り絞って歌う”、という表現がこれほどピッタリなシンガーは、
ポピュラーミュージック界においては、ジャニス・ジョプリンなどと共にほんの数人だったのでは
ないでしょうか。
しかしコッカーが亡くなったのはつい最近の様な気がしていたのですが、もう三年経つんですね…
自分もあっという間に歳を取る訳です・・・(´Д`)。
それではコッカー氏への追悼を込めてこの動画を最後に。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です