#38 Kozmic Blues

サム・アンドリュー(g)と共にビッグ・ブラザーを離れるのと同時進行で、ジャニス・ジョプリンは
新バンドを結成します。紆余曲折があった末、サム以外はスタジオミュージシャンによって
構成された”コズミック・ブルース・バンド”(後世になって付けられた通称ですが)にて
活動を開始します。ジャニスが敬愛するソウルミュージックのスタイルを目指すべく、
ホーンセクションが大々的にフィーチャーされています。またセッションミュージシャン
ばかりとあって演奏技術もビッグ・ブラザーより格段に秀でています。
このバンドは結成当初、その評判があまり芳しくなかったそうです。ホーンの導入等が
取って付けた様なソウルミュージックの真似事、とこき下ろす輩がいたそうです。
私は全くそのような印象は抱きませんが、実際メンフィスソウルのスター達が集った
スタックスレーベル主催のコンサートにて、ソウルミュージックのキラ星達と共に
その名を連ねますが、そこでの観客の反応は非常に冷めたものだったと言われています。
私見ですが、白人が黒人を差別するのと同様に、黒人の側からすれば「俺たちのソウルや
R&Bが白人のオネエチャンに出来るのかい?」といった穿った見方も相当あったのでは。
しかし翌69年2月、かのフィルモアイーストにて行った同バンドのライヴでは、
楽曲により若干の反応の差異はあったものの、前年末のメンフィスにおけるライヴとは
比較にならない手ごたえをジャニスは感じ、非常にエキサイトしたと言われています。
勿論これにはN.Y.とメンフィスという地域の違いがあったことは言わずもがなですが。

 

 

 


69年11月、「I Got Dem Ol’ Kozmic Blues Again Mama!(コズミック・ブルースを歌う)」
をリリース。ジャニス名義での初のアルバムでした。時系列は前後しますが、ウッドストックにも
同バンドにて出演します(8月)。もっともジャニスのパフォーマンスとしては同月に
ニュージャージー州にて催されたアトランタ・ポップ・フェスティバルの方が圧倒的に良かったと
伝えられています(なにぶん音源が残っていないので確かな事は言えませんが…)。

「コズミック・ブルースを歌う」の評価に関しては、とかく”オーバープロデュース”、
”バックバンドがジャニスの歌にそぐわない”というのが昔からの定評でした。
オーバープロデュース(過剰なアレンジ等)という評価には私は全く賛同しかねます。
ロックにおいてホーン(管楽器)やストリングス(擦弦楽器)を導入すると、シンプルでなく
良くない、もっとストレートに演った方が良い、と、定型文の様に難癖を付ける、特に自称
ロック評論家・ライターという人達の批評を昔は良く見ました。今はその手の文章など全く
見ないので、どの様な風潮なのかは知りませんが。
この手の批評で最たる例がビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」でしょう。
元はシンプルな編成で録られたものがジョンとジョージがポールに無断で、同曲を含む未発表素材を
フィル・スペクターへアルバム制作を依頼してしまい、ポールはその事に激怒し、
その”過剰なアレンジ”とされる出来上がりにも憤然とした、という有名な逸話です。
どちらが良いと思うかは人の好みなので「ザ・ロング・アンド・・・」については言及しませんが、
アルバム「コズミック・ブルースを歌う」においては、果たしてオーバープロデュースと
批判している人達はどれほど分かって批判しているのだろうか?と疑問を覚えずにはいられません。
そのホーンアレンジ等のどこが良くないのかを、具体的に指摘した文章など私は今日まで
目にしたことがありません。ただ単に、余計な楽器を入れるな!ロックはシンプルなモンだ!、
というその自称評論家達の単なる個人的考えなのではないでしょうか?

私も本職はドラムで、ギター等も専ら”演奏するだけ”の人間なので、自慢じゃありませんが編曲に関する
理論・ノウハウなど大して持ち合わせていません。ホーンや特にストリングスはそのアレンジが非常に
難しいと言われます。現在でこそシンガーソングライターでもそれらのアレンジもこなす人も
割といるようですが、昔は職業作曲・編曲家でなければ無理だったと言われています。
私見ですが本アルバムにおけるホーンのアレンジに関して、過剰とは全く思えません。7曲目の
「Little Girl Blue」にて弦のアレンジがありますが、批判している自称ロック評論家・ライターと
いった人たちは本曲などの事を指して言っているのでしょうか?良く分かりませんが。ただし、
その人達も管や弦のアレンジについてどれだけ知識があって言っているのか、甚だ疑問です・・・。
ただ、バンドに関しては確かにその音数は多すぎるとは思います(特にドラム)。先述の通り、
スタジオミュージシャンの集まりなのでテクニカルな面では非常に優れています。しかし、
所謂”歌モノ”のバックが難しいと言われるのはこの辺りに由来するのでしょう。インストゥルメンタルの
音楽であれば非常に良いバンドであると思われますが、ジャニスの歌を引き立てているか否かはまた別です。
しかしそのプレイに関して、プレイヤー個々の判断に任せられていたものなのか、事細かくアレンジャーの
指示があったものなのかは、今回かなり調べてみましたがそれについての客観的と思われるネット上の
資料などは見当たらず、結局分かりませんが、もし後者であったとしたならば、バンドを責めるのは
ちと酷なのではないかと思います・・・。

大分長くなってしまいました。長年に渡って、本作への評価が不当なのではないかと思い続けて
きたためにこの様なダラダラとした恨みがましい文章になってしまいました。皆さんお忙しいでしょうから
こんな駄文はちゃっちゃと読み飛ばしていただいて結構です。あ、でも、もう読んだ後ですよね・・・。

最後に本作からご紹介するのは、ベタ過ぎますが何と言ってもタイトル曲でしょう。それではどうぞ。

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