#56 She’s Gone

直近3回の記事にて、ブルーアイドソウルという言葉を使ってきましたが、
”ブルーアイドソウルって何ぞや!”、と思われた方もいるかもしれませんので簡単にご説明。
一言で言えば白人が演るソウルミュージック。ライチャス・ブラザーズやラスカルズと
いったミュージシャン達を指して、60年代から使われるようになったそうです。これには
幾分黒人側からの差別的なニュアンスも含まれていたようで、”白い奴らに俺たちのソウルが
出来るのかい?”という様な意味合いも昔はあったとのことです。
それらの事はともかく、私の世代でブルーアイドソウルと言えば何と言ってもこの人達です。
そう、それが今回からのテーマであるダリル・ホール&ジョン・オーツ(ホール&オーツ)です。

 

 

 


ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるテンプル大学に在籍していた二人は、当初別々の
バンドで活動していたらしいのですが、やがてルームシェアして活動を共にしていきます。
ちなみに、その時アパートの郵便受けに”Hall & Oates”と表記した事がグループ名の由来。

72~74年の間にアトランティックより3枚のアルバムをリリースします。2ndはアリフ・
マーディン、3rdは奇才トッド・ラングレンのプロデュースと、レコード会社も決して
ぞんざいな扱いをした訳ではありませんでしたが、残念ながらヒットには恵まれませんでした
(ただし2nd「Abandoned Luncheonette」は大変重要な作品です、後述します)。
初期の音楽性はロック、ソウル、ソフトロック、フォークロック、当時流行していた内省的な
シンガーソングライター的作風(ジェームス・テイラーやローラ・ニーロの様な)が
垣間見え、後の彼らと比較すると興味深いものがあります。また、3rdはトッド・ラングレンの
影響からプログレ色も感じられるロックに仕上がっているのかと思いがちですが、ところが
どっこい、単にトッドの影響だけとは言い切れない事が後に露見します、これは次回以降にて。

75年にRCAへ移籍。4thアルバム「Daryl Hall & John Oates(サラ・スマイル)」を発表。
そこからのシングルカット「Sara Smile」が全米4位の大ヒット。これで檜舞台へと躍り出ます。
ちなみに”サラ”とは長きに渡って公私共にダリルのパートナーであったサラ・アレンのこと。
余談ですが、日本が誇るピアノ・キーボードプレイヤー 深町純さんの名盤「深町純&ニューヨーク・
オールスターズ・ライヴ」(78年)にて本曲はカヴァーされており、ジャズフュージョンファンの
方にはそちらの方で馴染みが深いかも。デヴィッド・サンボーンによる”泣きのサックス”が
あまりにも素晴らしい名演です。

本作よりブルーアイドソウルと呼ばれる音楽性が定まってきたと言えるでしょう。それにしても、
『アトランティックソウル』と呼ばれるカテゴリーがあるほどに、ソウルミュージックの
本家本元でもあるアトランティックを離れてからソウル色が強まるというのも何だか皮肉な話です。
76年、5thアルバム「Bigger Than Both of Us(ロックン・ソウル)」をリリース。翌年1月に
本作からの2ndシングル「Rich Girl」が見事に全米No.1となります。彼らの第一次黄金期が
この頃であったでしょう。

時系列はやや前後しますが、「サラ・スマイル」のヒットの後、アトランティックはそれに
あやかってか、2nd「Abandoned Luncheonette」から2年前(74年)にリリースした
シングル曲「She’s Gone」を再発。この時見事に全米TOP10入りを果たします。
ちなみに、「Abandoned Luncheonette」はその後長い期間に渡って、ホール&オーツ
初期の隠れた名盤として売れ続け、結果的にプラチナディスクを獲得します。

フィラデルフィアソウル(フィリーソウル)の王道の様な本曲は、ダリルとジョンの共作。
この後、ダリルのイニシアティブが強く押し出され、またそれが成功の要因となったことは
否めない事実ですが、本曲はソングライティング・ヴォーカル共において、二人の力が
結晶化された初期の傑作です。後年のジョンによるコメントで、まずジョンによりギターで
サビの部分が作られましたが、それ以外にはアイデアが浮かばなかったので、ダリルに
それを聴かせ、他のパートを共に作っていったとの事。またこれは結構有名なエピソードですが、
ダリルはサラと知り合う前の72年暮れに最初の結婚に失敗しており、ジョンも同年の大晦日に
女性から”すっぽかし”を喰らっています。この別れ・失恋が本曲の歌詞の元となっているそうです。

私の世代ですと、本曲は83年発表のベスト盤「Rock ‘n Soul Part 1」に収録されていたものの
方に圧倒的に馴染みがありますが、これはシングルヴァージョンで、「Abandoned Luncheonette」
に収録されていたもの、つまりアルバムヴァージョンとはアレンジが異なります。今回はシングル版を
ご紹介しますが、現在はユーチューブでどちらも聴くことが出来ますので(本当に良い時代になった
ものです… 。゚(゚´Д`゚)゜。゚)、聴き比べてみるのもご一興。

ブルーアイドソウルのホープとしてポップミュージック界の頂点に昇りつめた二人。この後も
更なる飛躍を続けるのか、はたまた否か。その辺りはまた次回にて。

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