#66 Jeff Porcaro_4

ジェフ・ポーカロ回その4、今回が最後となります。
ジェフはドラムソロを演りませんでした、頑ななまでにそれを拒み、否定しました。
インタビューの中でジェフが唯一認めたものは、エルビン・ジョーンズなどごく一部の
ジャズドラマー達によるソロプレイでした。おそらくジェフが嫌っていたドラムソロというのは
70年代辺りから始まった、ヘヴィメタル・ハードロックなどにおける長尺のドラムソロを指していた
のではないかと思われます。音楽の流れとは無縁の、ジェフが言う所の”これ見よがし”のソロプレイを
否定していたようです。ドラムに限らず単一の楽器で長いソロ演奏を行うのは大変難しいものです。
ただの技術のひけらかしにならず、ストーリー・起承転結がしっかりとしていて”音楽”として
成り立っているものは、ジャズにおいても難しく、ましてやロック界ではあるのかどうかも疑問です。
ジェフは”音楽本位”の考え方で、どんな超絶技巧も音楽を阻害してしまっては意味が無い、という
スタンスだったのでしょう。この考えは全く正しいと思います。
上の様な事を書いておいてなんですが、でもやはりジェフが”はじけて”プレイしているところも
聴いてみたい、という気持ちもあります。それであれば何と言ってもこれ、#64でも触れた
「The Baked Potato Super Live!」です。スティーヴ・ルカサーもそうですが、全編に渡って
実に”はじけた”演奏を繰り広げている、80年代フュージョンシーンにおける名盤の一つです。
当アルバムから私がベストトラックと思うものを。

ジェフとルカサーの羽目を外した様なプレイも圧巻ですが、グレッグ・マティソンは勿論の事、
クルセイダーズにも在籍していたベーシスト ロバート・ポップウェルのプレイも大変素晴らしく、
ジェフとポップウェルの絡みをもっと聴いてみたかったものです。

ちなみに動画ではタイトルは「I Dont Know」となっていますが、正しくは「Go」のようです。

ジェフはジャズドラミングには自信をもっていなかったそうです。父親がジャズドラマーで、幼少から
その手ほどきを受けてきたのですから、テクニックのルーツがジャズにあるのは間違いない事なのですが、
本人が自身のプレイに納得いっていなかったようです。しかし数少ないながらジャズドラミングのプレイも
残しています。#63でも触れたスティーリー・ダン「Katy Lied(うそつきケイティ)」に収録されている
「Your Gold Teeth II」。一筋縄ではないかなりの難曲ですが、本人が苦手だ、などと言っているのは
信じられないほど、ジャズビートのパートは見事にスウィングしています。

上記のジャズドラミングの話ともつながる事ですが、ジェフはかなり自分に厳しい人だったようで、
これだけのテクニックとグルーヴ感を持っていながら、自身のプレイには簡単に納得しませんでした。
あるインタビューで自身のプレイについて尋ねられた彼は以下のように答えています。
『だいたいタイムがひどい。そりゃ上を見ればジム・ゴードンとかバーナード・パーディ、ジム・ケルトナー
とかきりがないが、それにしても僕のタイムはカスだよ。~(中略)~自分で納得のいく出来だと思えるのは
今までにふたつくらいだな。ひとつはスティーリー・ダンとのやつ。あれが自分としては最高の
パフォーマンスだと思う。それからボズ・スキャッグスの「シルク・ディグリーズ」だ。』
貴方にそんなことを言われたら我々はどうすれば良いのか・・・(´Д`)と思ってしまう様なコメントです。
しかし全くの私見ですが、この発言は同時に”だけどオレのようにプレイできるやつは何人いるかな?・・・”
のような、ある意味逆説的な自信も表すコメントであったのではないかと私は勝手に思っています。

またジェフはドラム、ひいては音楽に対して一歩距離を取った姿勢を貫いていました。インタビューで、
『音楽が全てなんて姿勢でいたら消耗してしまう。僕の場合は美術とか庭造りとか、他にもいろいろ
関心があるし、そうやってバランスをとっている。僕は庭師かインテリアコーディネーターに
なりたかったんだ。』と答えています。この考え方はとても興味深いものです。勿論音楽が嫌いだった
などという訳ではないでしょう。しかし創造的な仕事をするためには、視野が狭くならないように、
木を見て森を見ずにならないように、その他の事柄からもインスパイアを受けられる状態・環境に
身を置いていた方が良い、という様な意味合いだったのではないしょうか。

ドラムという楽器はリズムを打ち出すものであり、伴奏・バッキングをその役割としているので、
当然の事ながらフロントに出てくるパートではありません。ジェフは更にソロプレイをも否定した
プレイヤーでしたので、なおさら矢面に立つはずではない人だったのですが、死後25年以上経った
現在でも彼の功績は讃えられ続けています。それはひとえに音楽本位のプレイを貫き、下手なギミック
などを決して演らず、自らの職分を果たすことに一途な姿勢が、数々の名曲・名演を産み出した事への、
本質をわかっている聴衆達からの評価が絶えないからに他なりません。
最後にお届けするのは上記の事が最も表れていると私が思うもの。スティーリー・ダンの活動を休止した
ドナルド・フェイゲンが82年に発表したポップミュージック史に残る傑作「The Nightfly」。
本作に収録の「Ruby Baby」。リーバー&ストーラーによるこのオールディーズの名曲を、フェイゲンが
見事に”料理”したもの。ジェフは徹底してタイトかつシンプルなプレイを貫き、この”クール”な名曲を
形創る事に成功しています。決して超絶技巧といったプレイではありません。しかし本曲における
フレーズ・音色・グルーヴ感は、これをなくして本曲は成立しなかったと言えるものです。

以上でジェフ・ポーカロ回はおしまいです。多分忘れ去られていると思いますが、年初からの80年代に
ついて取り上げていくというテーマは続いております。次はなんでしょう・・・

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