私がドラムを始めた80年代半ば、スティーヴ・フェローンはパールドラムスのエンドーサーであり、彼の姿はカタログに必ず載っていました。

最初に金を貯めて購入したドラムセットはラディックであったと述べています。英ジャズロックの草分けであるブライアン・オーガーのバンドなどで活動した後、アヴェレージ・ホワイト・バンド(以下AWB)へ加入する事となります。
前々回でもあげた、75年ソウルトレイン出演時の映像ではグレッチのセットを使用しているのが確認出来ます。シンバルは確認出来ませんが、その後フェローンが永く使用する事となるセイビアンは81年の設立なので、この時点ではまだ存在しません、おそらくはジルジャンだと思いますが。上は同じソウルトレインにおける「Person to Person」。それにしても1:50辺りからのプレイは本当に素晴らしい・・・
この頃のフェローンのチューニングはスネアがハイピッチで、ベースドラムはローピッチ、つまり高音から低音までまんべんなく音が出ているという事です。スネアはピッチが高くはあれども、決してカンカン・パンパンという、ただヘッドをきつく締め上げただけの耳障りな音色ではなく、高い音ではあるが甘い音でもあります。そしてベースドラムは ”ちゃんと鳴っている音” です。ロックポップスのドラムにおけるベードラは、ともすれば ”ドッ” ”ボッ” のような、アタック音が強調される事が多いです。勿論ハチマキを締めた応援団が叩くような大太鼓みたいに ”ドーン” という音では全体的なサウンドにそぐわないのですが、やはり太鼓本来のサスティーン、余韻を犠牲にしているのも確かです。彼のベードラは ”ドン” と、締まりはあるが、一方でちゃんとドラム本来のサスティーンも感じさせる音色です。ベードラの中に毛布を入れてミュートしたり、フロントヘッド(お客さんから見える方)に穴を空けたり、ベードラはサスティーンを調整するのが常ですが、フェローンはそれを最小限にしているのではないかと思われます。
チャカ・カーンの1stアルバムから「Some Love」。ロール( ”ザ~~~” と音が繋がって聴こえるテクニック)に始まり、竹を割ったようなアクセントショットで締める、このスネアだけでシビれます。ベースはウィル・リー。鉄壁のリズムセクションとはこの様なコンビを言うのでしょう。70年代半ばにおいて、特にアメリカのファンクバンド、あるいはウェストコーストロックなどのドラマーは、裏面のヘッドを外してしまうのがトレンドでした。余韻の無い、乾いた音色を求めていたドラマーが多かったようです。それが確認出来る最も有名な映像がイーグルス「ホテル・カルフォルニア」におけるドン・ヘンリーのドラム。ユーチューブにて『Eagles Hotel California』で検索すると、多分一番上に出てきますので興味のある方は。しかし米のファンク・ソウルミュージックを追い求めたAWB及びフェローンでしたが、音色はこれには倣わなかった様でした。ただし、それ以降に同じくソウルトレインへ出演した際には、ベードラのフロントヘッドを外していたり(79年)、以前より大きく穴を空けていたり(80年代初頭)する映像も観られますので、当然ですが時代によってその音色は変化していったようです。
80年代に入ってから、ドラムスはパール、シンバルはセイビアンというセッティングが定着します。前回も述べた事ですが、80年代のドラムはゲートリバーブをかけるのが主流となり、フェローンもそれについてはご多分に漏れませんでした。何回か同様の事を書きましたが、ゲートリバーブの音は生音では絶対に出ないようなド迫力のサウンドを生み出し、80年代の音楽にマッチングしたのは事実なのですが、逆を言えば皆同じようなサウンドになってしまい、プレイヤー各々の個性が損なわれたという一面も否定出来ません。上はこの時代におけるレコーディングの一曲。アル・ジャロウ「L Is for Lover」(86年)に収録されている「Across the Midnight Sky」。サンバフィールの本曲は、特にハイハットプレイが印象的です。これまで取り上げてきたドラマーでも、ジェフ・ポーカロやスチュワート・コープランドをハイハットワークの名手と紹介してきましたが、フェローンもその名手の一人であると私は考えます。冒頭の0:48辺りまでが特に聴き所で、チップ(スティックの先)でタイトに叩くノーアクセント、ショルダー(スティックの ”お腹” に当たる部分)でハイハットの縁を荒々しく叩くアクセントショット( ”ヂッ” ”ジャッ” といった音色)。左足の開閉によるオープン・クローズ奏法。そしてダブルストローク(ワンストロークで2回ずつ叩く、右左一回ずつ叩くシングルストロークの中に織り込むと倍の音符を叩くことが出来る。この場合はシングルで16分、ダブルで32分音符)の絶妙な組み込み方。是非ヘッドフォーンでお聴きになる事を推奨します。それにしてもスティックのお腹なのに ”ショルダー” とはこれいかに・・・
(._+ )☆\(―.―メ)うまいこと言ったつもりか!!!
フェローンのグリップはレギュラーグリップ。左右が同じマッチドグリップと異なり、左手が特有の持ち方をします。彼のグリップの特徴は左手がスティックを逆に持っているという点。細くなっているチップで叩くのが通常ですが、彼はその逆です。逆側はグリップエンドなどと呼びますが、チップの様に細くなっておらず、それで叩くと荒々しい、悪く言えば汚い音色になります。理由は明快で、レギュラーグリップのパワー不足を補う為。画像で検索して頂けるとマッチドとレギュラーグリップの違いはお分かりになるかと思いますが、レギュラーは打面に対して角度が付いてしまいます。ドラムは打面に対して並行に叩く方がパワフルなショットが出来るので、その点では不利なグリップです。それを解消する為、ドラムの左手前を傾けたり、もしくは左肩を下げてプレイする事で打面に対して並行にショットしたりもします。しかし左肩を常に下げてプレイする事に違和感を覚えたり、打面は基本的に地面に対して並行にセッティングしたいと思うドラマーは少なくないので、それでもレギュラーグリップで音量も稼ぎたい、という望みから音色は多少犠牲にしてもパワーが出る
グリップエンドで叩くドラマーが結構存在します。日本では東原力哉さんがその筆頭です。右はチップ、左はエンドで叩くと音色にバラツキが生じるのではないかと思ってしまいますが、人間というものは練習次第でそれを克服してしまう様です。フェローンのプレイを聴く限り、特にその音色に差が出がちなハイハットにおいても、全くそんな事は感じさせません。うっとりする程きれいなハイハットワークであるのがお分かりになる事かと。
フェローンが来日した際に行ったドラムクリニックを受講した方のブログに記されていたのですが、そのクリニックでは超絶技巧などは披露せず、シンプルなリズムパターンを何かの歌を口ずさみながら、ひたすら気持ち良さそうにプレイしていたのが印象的だったそうです。テクニックが必要無いなどとは絶対に思いませんが、それだけに固執すると木を見て森を見ず、大事なものを見失ってしまう事もあるのです。フェローンはそれを改めて教えてくれます。
それを肝に銘じながら練習しましょうね! (`・ω・´)
・・・・・・・・ オマエモナ (´∀` )