#123 Ribbon in the Sky

80年代前半におけるスティーヴィー・ワンダーの活動は、チャートアクションだけを
取れば60~70年代と遜色なく輝かしいものに見えます。余りにも有名なポール・マッカートニー
とのデュエット「エボニー・アンド・アイボリー」(82年)、映画のサントラからシングルカットされた
「I Just Called to Say I Love You(心の愛)」(84年)、85年のアルバム「In Square Circle」
より「Part-Time Lover」、そしてディオンヌ・ワーウィックやエルトン・ジョン達との共演による
「That’s What Friends Are For(愛のハーモニー)」などのNo.1ヒットを連発しています。
しかしコアなリスナー、評論家連中、そして何しろスティーヴィー自身もある事に気が付き始めました。
”以前の様な、泉の如く湧き出ていた圧倒的かつ、斬新で、驚異的な楽曲・アイデアなどが
枯渇してきているのではないだろうか?” と・・・・・

82年、スティーヴィーは二枚組のベスト盤をリリースします。「Stevie Wonder’s Original Musiquarium I(ミュージックエイリアム)」。ベストアルバムではありますが、新曲が4曲も
入っているというもの。この当時はこの手のベスト盤がよく出ていた様な記憶があります。
今思いつくだけでもホール&オーツ、ビリー・ジョエル、カーズなど。新しいリスナーは勿論、
既存のファンも買えよテメエらこのヤロウ、という阿漕な … もとい商売上手な手法です・・・
上はその先行シングルであった「That Girl」。ポップスチャート4位・R&B1位と好セールスを
記録しますが、直後における「エボニー・アンド・アイボリー」の大ヒットのせいで影が薄くなって
しまっている曲です。80年代的ブラックコンテンポラリーの影響を受けながらも、スティーヴィー
らしさは失っていない、地味ではあるけれども佳曲だと思います。

84年のNo.1ヒット「心の愛」はコアなスティーヴィーフリークや評論家筋にはとかく嫌われている
楽曲ですが、皮肉にも一般的にはスティーヴィーの代表曲として認知されています。
確かに60年代後半から70年代における綺羅星の如し名曲群と比べれば聴き劣りするかもしれませんが、
私は普通に良い曲だと思っています( ”普通” ってあまり誉め言葉じゃないですね … )。
ちなみに元々は日本の兄弟デュオ ブレッド&バターの為に書かれた曲。しかしその後、先ず自分で
使うので、ブレバタにはレコーディングをペンディングする様に要請があったとの事。スティーヴィーが
リリースした後に、ブレバタは「特別な気持ちで」として発売しています。ちなみに歌詞は呉田軽穂に
よるもの。ファンにはお馴染みの事ですが、呉田軽穂とはユーミンの別名義です。

80年代に入ってから、スティーヴィーの中では焦りの様なものが芽生えてきたと言われています。
セールス及び一般的な評価としては冒頭で述べた通り全く問題無い様に思われますが、評論家や
昔ながらの耳の肥えたリスナーによる否定的なレヴュー、何といっても彼自身の中で満足のいく作品を
創っているという自身が失われていたそうです。
これはあくまで噂話のレベルですが、マイケル・ジャクソンがクインシー・ジョーンズと組んで
モータウンを離れ、「オフ・ザ・ウォール」(79年)により華々しく ”大人のマイケル” として
再デビューを飾り、その後「スリラー」で怪物的なセールスを上げ世界を席巻する訳ですが、
それによってグラミー賞も総なめする事となります。かつてはスティーヴィーが同様の立場だった訳ですが、
新しい世代に取って代わられたという気落ちが彼にあったとされています。グラミーの評価が妥当かどうか?
などの意見は昔からありますが、創り手としては評価というものに対して過敏になるのでしょう。
これは嘘か誠は判りかねますが、ある年のグラミー賞授賞式にて、スティーヴィーは会場を離れ
舞台裏(トイレ)へと逃げるように行ってしまいました。その年もマイケルの独壇場だったそうです。
それを見たクインシーが彼を追いかけ、トイレにて激励(お説教?)をかました、と言われています。
これも真意の程は定かではありませんが、この時期モータウン側からクインシーに対して
スティーヴィーのプロデュースをして欲しいと打診があったいうウワサもあります。
これはあくまで個人的な意見、マイケルファンの皆さんイイですか?あくまで私見ですよ …
ダンスやステージングアクトなどのエンターテインメントにおける力量に関してマイケルは
素晴らしいとは思いますが、シンガー・作曲家編曲家・器楽演奏者としての才能は、
比べるまでもなくスティーヴィーの圧勝だと私は思っています・・・・・・・・・・・
ε=ε=ε=ε= (#゚Д゚)( °∀ °c彡)ヽ( ・∀・)ノ┌┛・・・ だから私見だ!つってんだろ!!!(((((゚Å゚;)))))

結果としてクインシーによるスティーヴィーのアルバムというものは実現しませんでしたが、上の曲は
”クインシーのプロデュース?” と言われても全く違和感の無いもの。「ミュージックエイリアム」の
ラストに収められている「Do I Do」は当時流行のダンサンブルなファンクナンバーで、クインシー&
マイケルやシックの曲?、と言われても疑わない様な楽曲です。ですがそこはスティーヴィー、
しっかり自分の曲にしてしまっています。歌のグルーヴ感が何とも素晴らしいのが耳を引きますが、
演奏陣も見事。ソリッドなブラスセクション、長年に渡ってスティーヴィーバンドにてベースを務めた
ネイザン・ワッツのプレイが印象的です。しかし本曲で一番話題にされるのは、ジャズトランペッター
ディジー・ガレスピーの参加でしょう。チャーリー・パーカーと共にモダンジャズ・ビバップの
開祖とされるこの超大物ジャズメンがレコーディングに加わった事が第一のトピックとなりました。
本曲もシングルカットされましたが、アルバム版は10分半もある為、シングル版は縮められています。
それでも6分もありますけれども・・・

この時期のスティーヴィーについて否定的な事を書き連ねてきましたが、しかしやはりスティーヴィー・
ワンダーです。本作には珠玉の名曲が存在します、それが今回のテーマ「Ribbon in the Sky」。
「トーキング・ブック」回にて私なりの三大バラードがあり、一曲目は「You and I」。二曲目は
前回の「Lately」であると述べました。そして残る三曲目が本曲に他なりません。
この曲について ”天上的な美しさを持った曲” と形容したレビューを読んだことがあります。
これ程的確な表現は無いという程に本曲を言い表した言葉です。
「You and I」「Lately」と際立って異なるのはドラムが入っている点でしょうか。二曲と同様に
生ピ&シンセでも面白かった様な気はしますが、それはこの時点でのスティーヴィーによる判断。
また、生ギターによる調べも素晴らしい効果を演出している所も相違点ではありますが、本質的な
部分においては二曲と相通ずるものだと思っています。それは緩急の付け方、独唱を用いる事で
よりエモーショナルな歌唱を引き立たせている点、そして甘美という表現以外が見当たらない程に
劇的な構成です。緩急の付け方と劇的な構成という部分は(似たような表現だな?!とかの
ツッコミはご勘弁。語彙が乏しい・・・)、終盤におけるコードあるいはメロディの駆け上がり方に
他なりません。「You and I」は転調ではないですが歌がドラマティックに変化し、「Lately」は
二音半の転調によって見事な高揚感を演出、そして本曲では歌の二番にて半音転調、そして
二番の最後 ”Love” を繰り返す箇所でさらに半音上がる。聴き所は何といっても二回目の転調後
(2:37辺りから、勿論それまでの抑制があってこそなんですけどね)。
この三曲全てに通じるのは、佳境にてスティーヴィーの歌が最も映える音域に持って行っているという所。
勿論この様なアレンジはスティーヴィーだけに限ったものではありませんが、本三曲は
とりわけその点において見事という他に言葉がありません。

ところでスティーヴィー・ワンダー回はいつまで続くのでしょうね(´・ω・`)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・書いてんのオメエだろ (´∀` )

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