#126 Dionne Warwick

70年代に入るとディオンヌ・ワーウィックはそれまで所属していたセプター・レコードから
ワーナーへ移籍します。移籍当初はバート・バカラック&ハル・デヴィッドのペンによる楽曲を
レコーディングしていましたが、やがてバカラック達とも袂を分かちました。
その後70年代末までの約十年間、ディオンヌは不遇の時代を過ごす事となります。

その不遇の時代における唯一のヒットが上の「Then Came You」(74年)。スピナーズとの
共演による本曲は全米No.1ヒットとなります。プロデュースはスピナーズ、
スタイリスティックス等を手掛けたフィラデルフィア・ソウルの立役者であるトム・ベル。

79年、アリスタ・レコードへ移籍しアルバム「Dionne」をリリース。これがミリオンセラーを
記録しディオンヌ復活と相成ります。バリー・マニロウ、アイザック・ヘイズといった多彩な
ソングライター陣を迎え、ディスコ・ポップバラード・ブラックコンテンポラリーと、
この時代における粋を集めた様な音楽性が受け入れられたことがヒットの要因かと。
上はアイザック・ヘイズによる「Déjà Vu」。印象的なベースはウィル・リーのプレイです。

https://youtu.be/3Mh9E8TschY
翌80年には基本的に前作の音楽性を踏襲した「No Night So Long」をリリース。前作ほどの
ヒットとはなりませんでしたが、ブラコン路線に活路を見出したのかな?という流れです。
もっともこの当時はディオンヌに限らず黒人シンガーの多くがこの様な方向性へ向かっていましたから。
上は本作に収録の「Reaching for the Sky」。ディズニーアニメの主題歌で有名な
ピーボ・ブライソンの作です。

82年にはバリー・マン、トム・ベル、デヴィッド・フォスター、そしてスティーヴィー・ワンダーと、
全てが本作用の書き下ろしではありませんが、豪華ソングライター陣の楽曲から成る
「Friends in Love」をリリース。演奏陣もスティーブ・ガッド、ジェフ・ポーカロやスティーブ・
ルカサー達TOTOの面々、そしてスティーヴィーと贅沢三昧のラインナップです。
お世辞にもヒットしたとは言えませんが個人的には良いアルバムだと思っています。
同年にもう一枚アルバムを出します、それがヒット作「Heartbreaker」。バリー・ロビン・モーリスの
ギブ三兄弟、つまりビージーズの全面協力による本作は、当然の如くディオンヌ✕ビージーズという点で
話題にならない訳がありませんでした。上はシングルヒットしたタイトル曲。
語弊のある言い方かもしれませんが、良くも悪くもビージーズです(ビージーズ嫌いな訳じゃないですよ)。
流石に82年であったのでディスコ調の楽曲はありませんが、ソフト&ポップ路線の作品になっています。
もしあと5年早かったら、ディオンヌ版『サタデーナイト・フィーバー』が出来ていたかもしれません
(それはそれで興味がありますけど・・・)。

本作で唯一ギブ三兄弟によらないカヴァー曲「Our Day Will Come」。ルビー&ザ・ロマンティックス
による63年のNo.1ヒットである本曲は、フランキー・ヴァリをはじめとして数多くのヴァージョンが
存在します。ドラムはスティーブ・ガッド、キーボードは複数人クレジットされていますが、
このエレピはたぶんリチャード・ティーでしょう。

85年の大ヒット曲「That’s What Friends Are For(愛のハーモニー)」に関しては#124
スティーヴィー・ワンダー回で言及しましたので詳細は割愛しますが、本曲が収録された
同年のアルバム「Friends」にて、再びバート・バカラックの楽曲を歌う様になります。
これ以降ヒット作と呼べるものはありませんが、現在においてもその活動を続けています。

年初のアル・グリーン回(#101)にて、現役で活動している黒人シンガーの一人としてディオンヌの
名を挙げました。ティナ・ターナーや昨年惜しくも他界したアレサ・フランクリンが
躍動感溢れるパワフルなスタイルだとすれば、ディオンヌは洗練されたアカデミックなフィーリングが
持ち味だったと言えるでしょう(勿論ディオンヌにソウルスピリットが無いとか、アレサとティナが
野暮ったいとかいう意味ではありません)。ロバータ・フラックはジャズ寄りの面がありましたので、
更にスタイルが異なります。全員聴き比べてみるのもこれまた御一興。
前回も触れた60年代におけるバカラックのコメントである ”彼女は途方もなく強い面と、ソフトに歌った時はとても優美な一面も持ち合わせている” という言葉に全てが集約されている様な気がします。
これは全くの私見ですが、ディオンヌ・ワーウィックというシンガーは、我々日本人の感覚で
言う所の、古き良き昭和のシンガー・歌い手というフィーリングに近いのではないかと思っています。
過度にリズミックあるいはエキサイティングな所は無く、朗々と、切々と、しかし時には
エモーショナルに歌い上げるその歌唱スタイルは、私たちの日本語でいう ”歌手・歌い手” という
呼び名がとても良く当てはまるシンガーではないのでしょうか。

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