#129 Killing Me Softly with His Song

ロバータ・フラック回の初めから当たり前のようにその名があがっている人がいます。
言わずと知れたダニー・ハサウェイなのですが、皆がダニーについて言わずとも
知れているという訳ではないでしょうから、ここで彼について触れておくべきでしょう。
勿論本気で書くと収拾が付かなくなるので、あくまでロバータにまつわる事柄のみを。

45年生まれであるダニー・ハサウェイは37年のロバータとは八歳も違うわけですが、
二人の出会いはハワード大学であったとされています。その歳の差からして当然に
ダニーが入学した18歳時にロバータは二十代半ばなので、彼女はその時既に大学院に
進んでいたでしょう(大学院の研究生・助手のような立場だったかも)。
前回述べましたがロバータは15歳で大学に入学した程の秀才、そしてダニーも神童とされる程の
才能を発揮していたと言われていますので、お互いがその音楽的才能に興味を持ち合ったとしても
不思議ではありません。ただしダニーは卒業を待たず、中退してプロデビューしてしまいました。
デビュー作「First Take」からロバータの音楽制作にダニーは関わっています。上の
「Our Ages or Our Hearts」を含む二曲において作曲に参加していました。
そして71年のデュエット「You’ve Got a Friend」、翌年における「Where Is the Love」の
大ヒットについては前回既述の事です。

ここからは前回の続き、72年の名盤「Roberta Flack & Donny Hathaway」についてです。
上はオープニングナンバーである「I (Who Have Nothing)」。原曲はイタリアの楽曲ですが、
それをエルヴィス・プレスリーにおける数多の名曲や「スタンド・バイ・ミー」などで
有名なジェリー・リーバー&マイク・ストーラーが英語詩を付け、ベン・E・キングが
63年にレコーディング。さすがイタリアだけあってカンツォーネ風の劇的な曲調です。
トム・ジョーンズ版もよく知られるところ。
少しでも興味があれば上のタイトルの部分をコピペしてユーチューブで聴いてみてください。
ベン・E・キングやトム・ジョーンズ版が見事なのは勿論ですが、ロバータ&ダニー版の
アレンジには目からウロコ的なものを感じざるを得ません。
全曲取り上げたいのですが長くなるので涙をのんで曲を絞ります。ちなみに2曲目は既述である
ところの「You’ve Got a Friend」。

ロバータとダニー(他一名)による共作「Be Real Black for Me」。地味ながらもゴスペル
フィーリングを醸し出し、心に染み入るソウルナンバー。本作からアリフ・マーディンが
プロデューサーとして参加(前作迄においてもアレンジャーとしてクレジットされている)。
出しゃばり過ぎない絶妙なホーン&ストリングスアレンジはマーディンならではのもの。
エリック・ゲイル(g)、チャック・レイニー(b)、そしてバーナード・パーディ(ds)の
超一流リズムセクション。弾きまくるだけが楽器ではないんだなあ、と改めて考えさせてくれる
見事な演奏。

私にとって、シングルヒット「Where Is the Love」と双璧をなす本作のベストトラックである
「You’ve Lost That Lovin’ Feelin’(ふられた気持)」。ライチャス・ブラザーズの
全米No.1ヒットであり、私の世代ではホール&オーツ版の方で馴染みがある名曲(#57ご参照)。
ブルーアイドソウルの名曲を本家黒人ソウルシンガーがカヴァーするというのが興味深い所ですが、
本曲についてはとにかくアレンジの妙という一点に尽きます(勿論、歌と演奏も見事です)。
予備知識なしで聴くと、サビでタイトルが歌われる箇所までは「ふられた気持」だと全く
気づきませんでした。この様な解釈があるのかとまたまた目からウロコの楽曲です。
もっとも目にウロコがある人は見たことないですが ……… <○> <○>・・・・・・(((((゚Å゚;)))))
ジャズ界では「ジャズに名曲なし、あるのは名演のみ」などという言葉があるようですけれども、
それも少しわかるかな?というカヴァーです(「ふられた気持」は名曲ですよ!)。

B面トップのスタンダードナンバー「For All We Know」。ダニーによる独唱である本曲は、
中盤からのフルート&ストリングスアレンジと共に、彼のあまりにも素晴らしいヴォーカルが
エモーショナルであるという一言に尽きます。

「Where Is the Love」と共にラルフ・マクドナルドのペンによる楽曲である
「When Love Has Grown」。恋を歌った内容や曲調と共に、「Where Is the Love」と
対をなす楽曲なのかも?と思うのは私だけ?二人のデュエットはやはり見事です。

聖歌である「Come Ye Disconsolate」。ダニーの父親は牧師であったと昔何かで
読んだことがあります。であれば当然慣れ親しんだ楽曲でしょう。

ようやく今回のテーマである「Killing Me Softly with His Song(やさしく歌って)」です。
ロバータの代表曲にて、40代半ば以上の日本人ならネスカフェのTVコマーシャルで
絶対に聴いている楽曲。ただしそれはロバータのヴァージョンではなくCM用に歌詞が
変えられ、シンガーも別の人。『ネスカフェ~、ネスカフェ~、エクセラ~』という
歌詞でしたので、子供のころは当然ネスカフェコーヒーの為に書かれたCMソングと思ってました。

本曲もロバータのオリジナルではありません。ロリ・リーバーマンという白人女性フォークシンガーの
録音が初出です。ロリ版はヒットしませんでしたが、ロバータは飛行機の中でたまたま本曲を
耳にします。すぐさまこの曲について調べ、クインシー・ジョーンズへ電話してから彼の家へ行き、
「やさしく歌って」という曲を作ったチャールズ・フォックスに会いたいのだけれど
どうしたらイイ?と頼み込み、その二日後には会えたとか。
その後まもなく、ロバータは本曲をバンドとリハーサルしてみますが、その時は録音しませんでした。
72年9月、ロバータはギリシャでマーヴィン・ゲイのオープニングアクトを務めていました。
マーヴィンから ”新しい曲はないかい?” と問われ、「Killing Me Softly … 」という温めている
曲はあるのだけれど … と言うと、マーヴィンは ”それ演りなよ!” と即答しました。
そのプレイはギリシャの聴衆を熱狂させ、マーヴィンはというとロバータの下に駆け寄り、
”いいか!レコーディングするまでその曲は人前で演るな!!” と言い放ったとか。
(マーヴィンのお墨付きをもらった?)73年1月にリリースされたロバータの「やさしく歌って」は、
全米No.1ヒットとなり先述したようにロバータにとって代表曲の一つとなります。

またまた長くなってしまいましたので、次に跨ぎます。次回は本曲にまつわるあれやこれやの続きと、
本曲が収録された ”アルバムとしての”「やさしく歌って」についてです。

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