ドラム教室のブログらしく、いい加減ドラマーの事を書かなければならぬと思っていた今日この頃。
丁度折よく前回・前々回と、いつかは絶対に取り上げなければ、という人の名前が挙がりました。
ハーヴィー・メイソン、70年代フュージョンシーンを代表するドラマー、その人です。
今までも何度かスティーヴ・ガッドと共にその名が出てきましたが、私の世代(昭和45年生まれ)以上で
ドラムを演っている、もしくはある程度音楽に精通している人ならばその名を聞いた事があるでしょう。
技術が優れているのは言うまでもない事ですが、ハーヴィーの魅力で皆が一様に口を揃えて挙げるのが
その唯一無二のリズム、所謂グルーヴです。ウネる・ハネる・ジャンプしている、いずれの表現も
その躍動感あふれるビートを言い表したものに他なりません。
47年ニュージャージー州生まれ。7歳(4歳説も有)でドラムを始め16歳にて自身のドラムセットを購入。
バークリー音楽大学とニューイングランド音楽院という二つの名門音楽大学(ニューイングランドは
全額支給の奨学金を得て)でドラム・パーカッションのみならず作曲・編曲も学びます。
実はハーヴィーはコンポーザーとしての一面も持っており、その能力はこの時期に培われたようです。
在学中からセッションミュージシャンとしての活動もしており、日に三つのスタジオセッションを
掛け持ちする事がある程で、この時から既に引っ張りだこであった様です。
ハーヴィーのキャリアを語る上で必ず挙がる作品がハービー・ハンコック「Head Hunters」(73年)。
エレクトリック・ジャズの金字塔的作品であり余りにも有名なアルバムなので、ジャズフュージョンに
興味がある方ならその収録曲である「Chameleon」「Watermelon Man」などは耳にした事が
あるのではないでしょうか。「Chameleon」の実に粘り気のある16ビートはハーヴィーの
名演としてよく取り沙汰されます。ユーチューブで聴けますので是非ご一聴を。
なのでこちらではあえて「Head Hunters」を避け、同年におけるやはりジャズフュージョンの
名盤とされ、ハーヴィーのプレイが堪能できる別の作品を。トランぺッター ドナルド・バードによる
アルバム「Black Byrd」より「Love’s So Far Away」。粘っこいファンクビートがハーヴィーの
真骨頂とされますが、スピーディーかつスリリングな16ビートも当然の如く絶品です。
フルートが如何にもこの時代のフュージョン(当時はクロスオーヴァーと呼ばれた)らしいです。
これまたドナルド・バードによる同年のアルバム「Street Lady」より「Sister Love」。
ヘヴィーなファンク、スピーディーな16ビートはもとより、本曲の出だしにおける軽快な8ビートも
見事です。ところが更に、曲が進むにつれ段々と一筋縄では無い演奏に。ドラムを演っている
人ならわかると思いますが、16に比べて8ビートの方が技術的には容易ですけれども、
じゃあ8ビートでどんどんフレーズをフェイク、膨らませていけ!と言われると、これがどうして
良いか戸惑ってしまいます。フィルインには当然16分音符は使いますが、8ビートの中で
エキサイトさせていくのはなかなかに至難の業なのです。中盤以降のハーヴィーのプレイは
素晴らし過ぎます。ハイハットの強弱・オープンクローズ、2・4拍以外の細かいスネアによる
表情付け、曲中しばしば行われる3拍目裏のシンコペーションにおけるグルーヴなど全てがパーフェクト。
特筆すべきは、一貫して元の気持ちの良い8ビートのグルーヴが全く失われていないという点です。
プロであっても盛り上げるとなるとラウドな音色(ドラムならクラッシュシンバルやオープンハイハット、
ギターで言えばディストーションをかけて音量を上げるなど)を用いたり、とにかく速く叩く・弾く
という事に終始するプレイヤーが少なくありませんが、ハーヴィーのプレイを聴くとそれがいかに
陳腐であるかという事に気付かされます。
鉄板である「Head Hunters」を外して置きながら、” 王道こそこれ真の道である ” という言もあります。
え?そんな格言は無い?!そんなはずはありません!こないだ近所の小学生が言ってましたよ (`・ω・´)!!!
てな訳でベタなヤツも。言わずと知れたジョージ・ベンソンの大ヒット作「Breezin’」(76年)より、
彼のオリジナル「So This is Love?」。フュージョンブームの火付け役となった作品であり、
ジャズフュージョンのカテゴリーでは初めて全米で100万枚以上(トリプルプラチナ=300万枚以上)を
売り上げたジャズ界におけるモンスターアルバム。確かいまだにこれを超える売り上げは無いのでは?
(もしかしたらその後もっと売れたのがあるかも、うろ覚えなのでご勘弁)
タイトル曲やレオン・ラッセルの「This Masquerade」が有名ですが、ハーヴィーのドラミングを
堪能したいのならこの曲です。軽快な感じで始まる16ビートですが、曲が進むにつれ白熱していきます。
時にギターフレーズに呼応し、時にベンソンを挑発するようなプレイで全体を盛り上げる、
これは完全にジャズのインプロヴィゼーション(即興演奏)の感覚です。当然のことながら、
ハーヴィーは卓越したジャズドラマーでもあります。
ハーヴィーは日本人ミュージシャンの作品にも多く関わっています。言うまでもなく渡辺貞夫さんの
「カリフォルニア・シャワー」をはじめとする一連の作品は有名ですが、意外にも井上陽水さんの
L.A. 録音「二色の独楽」(74年、「氷の世界」の次のアルバム)でもプレイしており、
実は結構身近な所でハーヴィーのドラムを耳にしているのです。カシオペアとの共演は
フュージョンファンには周知の事ですが、今回ユーチューブを漁っていたら面白いものを
見つけてしまいました。81年にテレビ番組で一緒に出演しており、演奏も披露しています。
曲はカシオペアの代表曲「ASAYAKE」。動画のコメントにもありますが、神保彰さんが力み過ぎでは
ないか?と観て取れますけれども、そうであったとしてもしょうがないでしょう。神保さんは
ハーヴィーとスティーヴ・ガッドをフェイバリットドラマーと公言していた人ですから、
この時まだ20代前半であった神保さんは嬉し過ぎ、そして少しでもハーヴィーにイイところを
観せて認めてもらおうという思いがあっても何ら不思議はありません。それにしても
向谷さん・野呂さん・櫻井さん、そして勿論神保さんも皆若い。翌82年、カシオペアと
ハーヴィーを含めたL.A. のトップミュージシャン達、リー・リトナー、ドン・グルーシン、
ネイザン・イーストによる夢の競演アルバム「4×4 FOUR BY FOUR(フォー・バイ・フォー)」の
制作へと繋がった訳です。
当然一回では書き切れないので次回以降へ続きます。