#147 What’s Going On

説教師(牧師とは違うらしい)であったマーヴィン・ゲイの父親が、マーヴィンの幼少期から
ひどい虐待を行っていたというのは有名な話しであり、それがマーヴィンの人格に
多大な影響を及ぼし、後の音楽や弱い(=だらしない)メンタルに波及したであろうと
いう事は多くの人が言及しています。ここではそれについて詳しくは探りませんが、
71年のアルバム「What’s Going On」における作品性に深く関わっている事は確かです。

モータウンの創業者 ベリー・ゴーディーが本曲・本作に良い顔をしなかったというのも
有名な話しです。3分間の良質なポップソングこそが大衆の支持を得る、というゴーディーの
信念からすれば当然の事でしょう。私もこの考えが一概に悪いとは決して思いません。
前々回から当たり前のようにゴーディーの名を挙げてきましたが、スティーヴィー・ワンダー回
#115~#124)で彼については言及済みですのでよろしければそちらをご参照の程。

アルバム「What’s Going On」はトータルコンセプトアルバムです。ビートルズ「サージェント・
ペパーズ」、フー「トミー」、ピンク・フロイド「狂気」などと同様にテーマ・ストーリー性を
その作品中に内包し、そしてポップミュージック史に残る大傑作である事は衆目が一致する所です。
私はポップミュージックにおいて歌詞にメッセージを込める事にあまり興味を抱かない人間なのですが、
本作に関してはその歌詞の内容を理解せずして味わうことは出来ないでしょう。
と言ってもそれに関しては解説しているサイトが幾らでもありますのでここでは最低限に。
戦争・平和・環境・家族・人種問題・貧困等の不平等・若者と大人との間における不理解・宗教、
そして勿論のこと愛について。そういった事が歌われています。

A-②「What’s Happening Brother」。前曲の流れを汲み楽曲・歌詞共に相似した内容ですが、
エンディングで不穏な空気が・・・

A-③「Flyin’ High (In the Friendly Sky)」。前二曲の ”表向き” は軽快な曲調から
一転して荘厳な楽曲に。歌詞も宗教的なものへ変容していきます。

私はともすればタイトル曲と双璧をなす本作におけるベストトラックではないかと思っています。
A-④「Save the Children」。宗教者の説法の様な語りと、朗々としたマーヴィンの歌は
勿論ですが、秀逸なのはその楽曲アレンジです。過分に重々しく宗教染みた楽曲にしてしまって
いたなら、それほど大した曲ではありませんでした。宗教音楽・ゴスペル・黒人哀歌・ソウル・
ジャズなど、新旧問わずあらゆるブラックミュージックのエッセンスを取り入れ、そして
混沌としているようでありながら音楽的に洗練されており、ポップミュージックとして
素晴らしい完成度を誇っています。オープニングから通してジェームス・ジェマーソンの
ベースが素晴らしいのは言わずもがな。後半からリズムが再び当初の16ビートへ戻り、
A面ラストの終息へと向かいます。

A-⑤「God is Love」からA-⑥「Mercy Mercy Me (The Ecology)」へ。タイトル曲を
踏襲した楽曲の内容にて、クラシックの交響曲の様な、つまり同じモチーフが形を
変えて異なる楽章を通して表れる事でトータル感、言い換えれば大作としての完成を
成し遂げています。最後は不穏な音、と同時に神が救いをもたらしたかの様なエンディングへ。
A面のみでこれだけ書いてしまいました。B面の三曲も勿論素晴らしいのですけれども
涙を飲んで割愛します。ですが一つだけ、エンディングをどう捉えるか …
これは救われたのか、はたまた・・・・・
ゴーディーの懸念は結果的には杞憂に終わりました。ポップス6位・R&Bでは1位を
記録しゴールドディスクを獲得。しかも英ではプラチナディスクに認定されます。

ニューソウルの金字塔的作品と言われる本作は、60年代後半から主に白人ミュージシャン
(特に英の)によってもたらされた、ポップミュージックの新しい動きに影響された事は
間違いありません。先述した「サージェント・ペパーズ」や「トミー」同様のコンセプチュアルな
作りは勿論、サイケ・アートロック・ジミヘンやクリームなどの即興を打ち出したヘヴィなロック・
プロコルハルム等のクラシック要素を多分に含んだもの、そしてフランク・ザッパに代表される
前衛音楽的なロック、と。表面上、決して本作では今挙げた様な音楽性を見出すことは出来ませんが、
ポップミュージック的時代が大きく変容を遂げた時期と相まった事、そしてタミーの死や
弟フランキーの戦争体験などあらゆる要素がミクスチャーされた結果、マーヴィンの中に潜んでいた
創造的精神に引火したのだと思われます。興味深いのはエンターテインメント音楽の権化の様な
(そういう売り出され方をした)マーヴィンによって、ブラックミュージックの転換点が
持たらされたという事でしょうか。黒人音楽界で同じように濃密なメッセージ色を持った作品としては
同年におけるスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「暴動」もあります。どちらもポップミュージック史に
おいて重要な作品である事に間違いはありませんが、よりコンセプト性を持っているのは本作でしょう。

本作の大成功を受けて、マーヴィンは更にチャレンジを試みます。
映画のサウンドトラックである「Trouble Man」(72年)は圧倒的にインストゥルメンタルで
占められたアルバム。全曲マーヴィンのペンによる作品であり、その高度な音楽性は彼のソングライターと
しての実力を十二分に発揮したもの。映画がヒットしたのかどうかはわかりませんが、アルバムは
ポップス14位・R&B3位とこれまた成功を収めます。同じサントラとしてカーティス・メイフィールド
「スーパーフライ」とよく比較される作品でもあります。

73年6月、同名アルバムの先行シングルとしてリリースされた「Let’s Get It On」は「悲しいうわさ」
以来となるポップス・R&Bチャート双方でのNo.1を記録し、初のプラチナディスクを獲得。
アルバムもポップス2位・R&B1位と最高のチャートアクションに。下は次曲「Please Don’t Stay」。
昔から上二曲等のドラミングには興味を持っていましたが、恥ずかしながら今回初めて調べてみました。
ポール・ハンフリーという黒人ドラマーで、R&B・ファンク畑のプレイヤーであったとの事。
60年代はジョン・コルトレーンとも共演歴があり、偉大なるジャズギタリスト ジョー・パスの
16ビート作品にも参加しているらしいです。人によっては ” 叩き過ぎだ!、もっとシンプルに
演ってくれれば良かったのに ” と感じるかもしれませんが、個人的にはこれはこれで素晴らしい効果を
もたらしていると思っています。
ちなみに「Let’s Get It On」の意味は … ♡♡♡(*´▽`*)♡♡♡ … なもの・・・・・

「You Sure Love to Ball」。いきなり♡♡♡(*´▽`*)♡♡♡な女性の声に度肝を抜かれてしまいますが、えっ? (*゚▽゚) ナニをヌいたって …( °∀ °c彡))Д´)( °∀ °c彡))Д´)( °∀ °c彡))Д´)
タイトルの意味や本曲でアルバムのテーマが愛(性を ” 多分 ” に含んだ)であることがわかります。

エンディング曲である「Just to Keep You Satisfied」。妻アンナも共作者として加わった本曲は、
邦題「別離のささやき」というのが何とも意味深。この頃アンナとの仲は既に冷え切っていたそうであり、
繰り返される ” it’s too late ” という歌詞が全てを物語ってています。それにしても
ジェームス・ジェマーソンの
ベースはあまりにも素晴らしい。
社会的・哲学(宗教)的テーマを扱った「What’s Going On」から、本作は愛や性という根源的な
ものへシフトしました。音楽的には ソフィスティケーテッド・メローな曲調が多く、当時台頭しつつあった
フィラデルフィアソウルの影響を受けたのは間違いないでしょうが、いずれにしても素晴らしい作品です。
ちなみに同73年には、ダイアナ・ロスとのデゥエット作「Diana & Marvin」がリリースされ、
「You’re a Special Part of Me」やスタイリスティックスで有名な「You Are Everything」などの
シングルヒットを飛ばしましたが、スペースの都合上仕方なく割愛します。

商業的結果を見れば60年代後半と遜色ない、むしろそれ以上の大成功を収めていると言う事が出来、
順風満帆の様に見えるのですが、果たしてそうだったのでしょうか?続きは次回にて。

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