#150 Marvin Gaye

『離婚伝説』などと、うまいこと言ったつもりか!とツッコミたくなるようなマーヴィン・ゲイによる
78年のアルバム「Here, My Dear」は、当初商業的にも批評家からの評価も芳しくないものでした。

『離婚伝説』という邦題が示す通り、A-②の「I Met a Little Girl」を皮切りに(元)妻アンナとの
出会いからを回想していく内容だそうです。上はオープニングのタイトル曲。

二枚組である本作の終盤に収められた「Falling in Love Again」は二番目の妻となるジャニスの
事を歌っているのだと思います(多分)。結局は彼女とも破綻するのですが・・・・・
前々回触れた、作品の収益でもってアンナとの慰謝料へ充てることになったというのは勿論本作の事。
ところが本作は先述した通り期待していた程売れませんでした。ここからマーヴィンの凋落が始まります。

ファンの間でもとかく評判の悪い81年のアルバム「In Our Lifetime」。” ゴキゲン ” かつ
” トロピカル ” なダンスビートに乗せたサウンドは従来のリスナーにも新しい層へも響かなかった
ようです。上はオープニングナンバーである「Praise」。

しかし秀逸な曲もあります。「Funk Me」はタイトなファンクナンバーで、「Far Cry」は変則的
ビートから途中でジャズに。ピアノやドラムもマーヴィン自身によるもので、あまり知られて
いない事かもしれませんが、元々はドラマーとしてモータウンへ入ったのでその実力は折り紙付きです。
リズムに対するセンスが他のシンガーとは一線を画しているのは、スティーヴィー・ワンダーと同じく
ドラマーである事に起因しているのかも。本作は07年に未収録ヴァージョンを加えて二枚組として
再発され、そちらは評判が良い様ですが私はまだ聴いてません(今回間に合いませんでした … )。
ちなみに本作がモータウンからリリースされた最後の作品。

81年当時マーヴィンは英国に滞在(逃げ出した)していたそうです。低迷していた彼をイギリス・
ヨーロッパのミュージシャンや資産家達が支えていたと言われています。やはりここでも
向こうにおけるブラックミュージック志向が伺えます。本国では見捨てられつつある過去のスターを、
海を渡った大陸で羨望の眼差しで眺めていた人たちがマーヴィンを救ったようです。
アルバム「Midnight Love」は81年10月から翌年8月にかけて、米録音もありますがベルギーや
ドイツでレコーディングされた作品です。欧州のミュージシャン達の協力を得て作られた本作から
先行シングルとして発売されたのが上の「Sexual Healing」。
人生はどこでどうなるか全くわかりません。本シングルは米でポップス3位・R&B1位、全英でも
4位という大ヒットとなり ” マーヴィン・ゲイここに復活 ” と相成ります。
CBSへ移籍した彼は「Sexual Healing」リリースの翌月にアルバム「Midnight Love」を発売。
当然アルバムも大ヒット。ポップス7位・R&B1位、英で10位というチャートアクションを記録し、
イギリスでゴールドディスク、そして本国ではトリプルプラチナ(300万枚以上)という、
結果として自身にとって最大のセールスを記録する事なりました。
翌83年初のグラミー賞を受賞し、壇上で最大級の喜びを表したそうです。

ホール&オーツやフィル・コリンズの様にチープなリズムマシンを敢えて使用した所や(#58ご参照)、
現在からするとこれまた安っぽいシンセの音色などは時代的なものなので致し方ありません。
本アルバムがマーヴィンの作品の中で上位に来るものとは個人的に決して思いませんが、
これも82年当時におけるマーヴィンの音楽だったのでしょう。上は「Third World Girl」と
「My Love Is Waiting」ですが、80年代初頭の空気感を味わえるトラックだと思います。

個人的に本作のベストトラックと思っているのが上の「’Til Tomorrow」。80年代的音色と
テクノロジーに乗せて、私的 ” マーヴィン三部作 ” の雰囲気が漂っている様な気がします。

的外れという意見を承知で書きますが、私はマーヴィン・ゲイという人をブラックミュージックにおける
エルヴィス・プレスリーではないかと思っています。サム・クックやスモーキー・ロビンソンなど、
マーヴィン以前にもソウル界に男性スターはいました。しかしあれほどセックスシンボルとして
売り出され、私生活でもタブロイドメディアを沸かせる様な生き様をした、良くも悪くも ” スター ” として
扱われた男性シンガーはマーヴィンが初めてだったと思います。
しかし70年代から時代の、特にロックミュージック側の波を吸収し、ソウル界をより深遠かつ精神的な
世界へと誘った先導役・リーダーとなり、やがて自ら破滅の道を歩んでしまいました。

最後に動画を一つ。モータウン25周年を記念して83年に行われたTVプログラムより。
マーヴィンは既にモータウンを離れていましたが出演し、前半の語りではブラックミュージックの
歴史をピアノを弾きながら述べています。そして始まる曲は勿論彼の代表曲「What’s Going On」です。
ちなみにこれがテレビ等の公式なメディアにおける最後の出演となったそうです。

以上でマーヴィン・ゲイ特集は終わりで、一年間続いたブラックミュージック特集も最後です。
何回か前に書きましたが、半年くらい続くかな?程度で始めた割には一年も持ってしまいました。
やれば出来るもんですね(ナニがだ?)。来年からは … はて、どうしましょう?・・・・・
来年もヨロシク ノシ

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