#168 A Curious Feeling

#153から15回に渡ってピーター・ガブリエル、そしてフィル・コリンズを取り上げてきました。
この流れでないと今後触れる機会がないかもしれないので、ジェネシスの他メンバー、つまり
トニー・バンクス、マイク・ラザフォード、そしてスティーヴ・ハケットについて取り上げたいと
思います。

先ずはトニー・バンクス。上は79年のソロアルバムで「A Curious Feeling」におけるオープニング曲の
「From the Undertow」。一聴するとジェネシスの「トリック・オブ・ザ・テイル」や「静寂の嵐」に
収録されていても全く違和感のない曲です。バンドの楽曲・サウンド面を主に担っていたのがトニーで
ある事を物語っています。
50年生まれなので現在70歳。ピーター・ガブリエルと同年、というよりマイク・ラザフォードも
同い年であり、オリジナルメンバーの三人は同級生であったという事です。そしてピーター回において
既述ですが勿論彼も貴族の家柄。8歳からピアノを始めたとの事です。
ジェネシスはガーデン・ウォール及びアノンというバンドに在籍していたメンツが結集して出来ました。
いずれも貴族の子弟であり、この辺りから貴族が作ったバンドと言われる所以です。
フィルとハケットは後から参加して、一般階級の出であるのは以前触れた事。

私がトニーの最高傑作だと信じて疑わないのが「Firth of Fifth」。「月影の騎士」(73年)に収録された
楽曲です。以前も書いた事ですが、「月影の騎士」では良くも悪くもピーター色が薄れ、メンバー全員の、
特にトニーの音楽性が前面に押し出され洗練されたものとなりました(しかし次作である
「幻惑のブロードウェイ」(74年)で再びピーター色が強まったのも既述)。
抒情味溢れる本曲はただ小綺麗なだけではなく、リズミックなパートや後半におけるスティーヴ・ハケットの
素晴らしいギターソロが堪能できるメランコリックなパート、そして再度テーマに戻り劇的かつ感動的な
フィナーレを迎える展開は珠玉の名曲です。
「月影の騎士」はそれまで前面に押し出されていたピーターの個性により、一般には受け入れられ難かった
シュールな物語性等が、トニー達の発言権が強まった事により中和され、実験性・革新性と親しみやすさが
絶妙な所で良い意味において折り合いを付けた作品となっており、それが本アルバムを名作たらしめて
いるのでしょう(でも「怪奇骨董音楽箱」や「フォックストロット」といったピーター色全開の作品も
コアなジェネシスファンにはたまらないんですけどね … )

マイク・ラザフォードのソロプロジェクトであるマイク & ザ・メカニックスは現在まで息の永い
活動を続けています。上は1stアルバム「Mike + The Mechanics」(85年)よりシングルである
「All I Need Is A Miracle」。全米5位の大ヒットとなりバンドは華々しい門出を迎えます。

バンドとして最大のヒットは2ndアルバムからのシングルである「The Living Years」(89年)。
全英2位・全米1位を記録しマイク & ザ・メカニックスはそのキャリアにおいて頂点を極めます。
どちらもかなり80年代的アメリカナイズされた楽曲に聴こえます。時代のすう勢というものも
勿論あったのでしょうが、マイクの作風が元々こういうポップセンス溢れるものだったのだと
私は思っています。

マイクはジェネシスにおいて、スティーヴ・ハケットの脱退までは基本的にベースを担当していました。
そしてハケットの脱退後はスタジオ盤ではギターも弾くようになります。もっともそれより前から
コンサートではベースとギターが一体化したダブルネックを使用して両方弾いていましたけれども。
私はマイクのギタープレイが好きで、#164でも取り上げた「Behind the Lines」のギターソロなどは
素晴らしいものだと思っています。決して速弾きなどする人ではありませんが、曲調にマッチした歌心溢れるプレイをする稀有なギタリストの一人です(何でも速く弾きゃイイってもんじゃないんですよ … )。
私が「Behind the Lines」と双璧を成すマイクの名演とするのが上の「Tonight, Tonight, Tonight」。
ジェネシス最大のヒット作である「Invisible Touch」(86年)に収録された本曲は、これまた最大の
シングルヒットとなったオープニング曲であるタイトルソングの次、つまりA-②に収められたのですが、
この配置は絶妙です。この当時の彼らをやたら売れ線、うれセンと批判する輩がいますが、やはり
英国プログレッシブロック界の重鎮である彼らはそのスピリッツを失っていませんでした。
コマーシャルな「Invisible Touch」が終わると無機質かつダークでヘヴィーな本曲が始まります。
無機質な印象はフィル回で散々言及したリズムマシンの使用や、敢えてシーケンサー的なプレイに
徹するトニーのシンセなどに因ります。であるからして、これまたフィル回で触れたこの時期における
彼による絶唱型の歌唱や、マイクのエキセントリックなギターのフレーズ・音色が映えるのです。
凍てつくような寒さを感じさせる導入部から始まり、やがて徐々にヒートアップしていくことで

熱くたぎるヴォーカルとギターのオブリガード及びソロがとてつもなくドラマティックな効果を生んでいる、本作においてのベストトラックだと思っています。

スティーヴ・ハケットの名演と言えば、トニーの所で触れた「ファース・オブ・フィフス」に他なりません。
多くの人が述べている事ですが ” キングクリムゾンかよ!” と言われる程にロバート・フリップの
影響を受けたとしか思えないソロプレイです。陰鬱な始まりから後半は救われるかの如き演奏の展開は
これまで何百回も聴いてきていますが涙腺が脆くなってしまいます。
「ファース・オブ・フィフス」と甲乙付け難いプレイと言えば上の「The Knife」。ジェネシス初の
ライヴ盤である「Genesis Live」(73年)におけるエンディングナンバーである本曲では、
「ファース・オブ・フィフス」とは一転してエキセントリックなプレイを聴く事が出来ます。

正式なメンバーでこそありませんが、フィルがヴォーカルを取るようになってからのチェスター・トンプソンと、ハケットが脱退してからのダリル・スチュアマーはツアーサポートとして欠かせない人たちであり、
もはや準メンバーと言っても過言ではないと私は思っています。ちなみにフィルやトニーのソロ作でも
二人は関わっており、やはり紛れもなくジェネシスツリーの一員であるという事です。

脈絡もなく突拍子も無い事を言いますが、ジェネシスというバンドは ” マンガ ” だと私は思っています。
……… オマエはとうとう脳漿にウジが湧いたのか?などとどうぞ思わずに、順を追って話を・・・・・
中学の半ばからプログレッシブロックというものに魅せられて40年近くその手の音楽を聴いていますが、
それらのカテゴリーに分類されるバンドを絵に例えたとしたならば・・・
ピンク・フロイドはまさしく絵画といったもの。正確に言えば「狂気」の様な芸術といっても差し支えない
ものから(芸術が必ずしも良いとはこれっぽっちも思ってませんけどね … )、「ウマグマ」みたいに
前衛・抽象画と呼ぶべきもの、「あなたがここにいてほしい」は万人にもわかりやすい絵、と様々ですけど。
そしてキング・クリムゾンは1stこそ「狂気」と同様に芸術的ですが、3rdの「リザード」から変わり始め、
「太陽と戦慄」からは前衛美術といったもの(「レッド」はまた叙情味があって異なりますがね)。
イエスは非常に高度な、繊細かつ緻密であるグラフィックアートの様なものでしょう。
そしてジェネシスはと言えば、『マンガ』です。ただしそのマンガとは、荘厳でクラシカルなパート、
神話や寓話をモチーフとしたシュールかつ幻想的なシチュエーション、かと思えば一転して
コミカルにもなり、泥臭い(=ブルージーな)場面や前衛的な表現さえも垣間見え、しかしその多くが
きちんとした構成力により起承転結が付けられ、伏線を回収しつつ感動のエンディングを迎えます。
これ程までに多くの要素を併せ持ったマンガと言えば、マンガの神様とされる手塚治虫さんによるもの
くらいではないのでしょうか。・・・あ、でも別に私 … そんなにマンガは詳しくないので、…………
その方面からのツッコミはご勘弁を・・・・・・

初期のジェネシスは特に ” 硬派な ” ロックを好むとするリスナーからは敬遠されます。80年代のある
洋楽紹介番組で、過去にロックバンドをやっておりその後テレビタレントの様なものになった人物が、
『昔のジェネシスなんか自分達だけがわかればイイって音楽演ってたんだろ!』と発言した事がありました。
一応ミュージシャンであって(あった?)も認識はそのくらいなのだな、とその時は思いました。
私には特にピーター在籍時のジェネシスはとにかく人々に理解して欲しいという願いから、そのシュールな
アルバムジャケット、前衛演劇かの如きライヴアクトやコスチューム(専らピーター)が
なされていると信じていました。ただそのベクトルが一般人とはちょびっと(?)ずれていただけで …………
90年代以降はオシャレでポップな80年代の呪縛(?)も解け、混沌とした音楽シーンになったことも
あいまってか、初期ジェネシスもそれ程敬遠されなくなったようです。とにかく古今東西でその評価など
ころころ変わるものなのです。
今まで何度も書いてきていますが、少なくとも音楽に関しては
周りの意見など気にせずに己が良いと
思ったものを聴くべきなのです。ただそれだけなのです。

今年の初めにピーター・ガブリエルを取り上げてからその後フィル・コリンズ、そして今回は他の
メンバーを駆け足ながら触れていきましたが、結局はジェネシスについての総まとめと
なってしまいました。まあそれも致し方ないでしょうね・・・・・(ナニが ” 致し方ない ”だ?)

この3~4か月ひたすらジェネシス及び各ソロ作を再び聴き返しました。これも既述ですが中には
20年振り位に耳にしたものもあります。自分の中ではジェネシス及び各メンバーの音楽性を
再確認出来た様な気がしています。
多分向こう一年以上はジェネシスツリーを聴くことはないな、という程に・・・・・・・・・・・

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