#170 I’m Not in Love

前回で「I’m Not in Love」とは10ccにおいて異端の曲だ、などとほざきましたが、
やはりポップミュージック史に残る名曲であることは間違いありません。
で、今回のブログは丸々「I’m Not in Love」尽くしとします。
今回はおフザケも噛まさず、ボケもないです。かなり真面目にこの偉大なる楽曲を自分なりに
掘り下げます。
(ボケ? オメエ今まで全部スベってたの気づいてねえのか? (´∀` ) …… ハイ!おフザケ終わり)

「I’m Not in Love」は3rdアルバム「The Original Soundtrack」のA面2曲目に収録されています。
サウンドトラックと銘打っていても別に何かの映画のそれという訳ではなく、架空のサントラといった
設定です。本作全体については次回以降で触れます。
75年にリリースされた本曲の制作はその前年に始まります。きっかけはエリック・スチュワートが
書いた素材。「I’m Not in Love」という印象的なタイトル(歌詞)は後述しますが、妻とのやり取りから
思いついたというのは結構有名な話しです。
既に曲の骨格は出来上がっていたらしくスタジオへ行きグレアム・グールドマンに助力を乞います。
本曲ではフェンダーローズ(エレクトリックピアノ)があまりにも印象的な為に信じられないのですが、
実は当初エリックとグレアム共にギターで本曲を練り上げていたそうです。そしてまたまた
信じられない事に、初めはアップテンポのボサノヴァ調であったとか。
08~09年だったと思いますが、BS-TBSで放送されていた『SONG TO SOUL』にて
本曲が取り上げられています。録画して何回も観ましたが非常に興味深い内容でした。
今回のブログはその記憶と(消さなきゃよかった … )、ネット上における多くの方々の文章
(やはり『SONG TO SOUL』を観ていた人が多いです)、そして英語版ウィキが基になっています。
グレアムはそのメロディから違うコードを提案し、またイントロとブリッジセクション( ” 
~ Ooh, you’ll wait a long time for me. ~ ” のパートだと思われます)を思いついたそうです。

2~3日間で曲を書き上げ、ギター・ベース・ドラムという普通の編成で前述の通りボサノヴァのリズムで
演奏してそれを録音しました。しかし出来上がったものはロルとケヴィンのお気に召さないものでした、
特にケヴィンにとって。ケヴィンはこう言いました ” これはゴミだよ ” 、と。
バンド内ではこの様なディスカッションというか批判は珍しくなく(バンド内が必ずしも円滑でなかったのは
前回で触れた通り)、エリックが ” OK。じゃあこれを良くする為に何か付け加えるものなど、何らかの
建設的な意見は?” と問うとケヴィンは更にこき下ろします。” No!ただのゴミだよ!どうしようもない、
やめよう!” と、身も蓋もない言い方で締めてしまいます。よほど気に食わなかったのか、それとも
この時期にエリックとの間に感情的な何かがあったのかはわかりかねますが、皆はそれに同意し、
デモテープも消去してしまったそうです。
『SONG TO SOUL』ではエリックの記憶を頼りに再現した当初のボサノヴァ調「I’m Not in Love」が
流れました。確かに「I’m Not in Love」には違わないのですが、リズムとアレンジが異なると
まるで別の曲です(当たり前ですね)。ジャズ界には ” ジャズに名曲なし、名演あるのみ ” という言葉が
あります。どれだけジャズという音楽がプレイヤーの力量に因る所が大きいかを示した言葉ですが、
私はロック・ポップスにおいても、ジャズほどではないにしろこれが当てはまると思っています。
誰がどんな風に演奏しても(歌っても)絶対的に名曲になるものなどはありません。一般的には
特に歌い手による差が大きいと思われがちですが(古今東西問わず音楽とは九割方がメインの歌しか
聴いていないものですから)、アレンジも曲を決定づける重要な要素です。どんな名曲もアレンジ次第では
駄作になってしまうのです。もっともボサ「I’m Not in Love」はそこまで酷くはなかったですが・・・

拙い文章ばかりでは嫌気がさしてしまうので少し動画を。上は11年4月にウェールズ州で行われたライヴ。
オリジナルメンバーはグレアムだけですが、やはりこのアレンジは崩していない、というか崩せないと
いうのが正しい所でしょう。発想の転換で根本からアレンジを変えて、名曲に仕上がったものも
世にはありますが、本曲に関してはそれをやった瞬間に雲散霧消してしまいます。

この様にして一度は放棄された本曲ですが、ある日スタジオのスタッフ達が ” I’m Not in Love ~ ” と
口ずさんでいるのを耳にします。彼らにはあの旋律がこびりついてしまったのです。
エリックはメンバーに対してもう一度この曲を生き返らせるよう説得することを決意します。
ですがケヴィンはまだ懐疑的でした。しかしながら彼はその時思いついたラジカルなアイデアを
エリックに対して提案します。それはこういうものでした ” いいか!この曲を活かす術は誰も
やった事のないレコーディング方法を用いる事だ。楽器を使わずに全部『声』だけで演ってみようぜ!! ”
陳腐な物言いになりますが、名曲が生まれた瞬間、とはまさにこの時を言うのでしょう。
不意を突かれた三人でしたが、このアイデアに同意し ” 声のウォール・オブ・サウンド ” を
創り出します。そしてそれは本曲のカギを握るポイントとなるのです。

またまただいぶ長くなってしまいました。一回では無理ですので二回(ひょっとしたら三回?)に
分けて書きます。これ程の名曲、かつポップミュージック史に偉大なる足跡を残した楽曲ですから
それだけの価値はあるのです。という訳で次回に続く。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です